ホットスプリング・ドリーム
暖かい。
温かい。
とても、あたたかい。
揺らぎ揺らめく水面に。
赤い夕景の空が。
ゆらりゆらりと輝いた。
「はぁ~、生き返るぅ~……」
「久々だな、こうやってみんなで旅行に来たのも」
「うん……」
周囲を見回せば、またあの三人が居た。
どうやら自分は彼女達と温泉へ行ったらしい。
周りに君の姿は無い。
「海外に行っちゃう前の……最後のお見送り旅行だもんね」
「それで温泉って言うのはどうかと思うけどな。まぁあっちに行ったら温泉とかも無いんだろうな~……これが最後かぁ」
「恋しくなったらいつでも戻ってくればいいんだよ!いつでも私達、プラン組むからさ」
赤髪の少女が海外に行く前の、最後のお見送り旅行という事らしい。
必死に楽しもうとしてるのだが、やはり別れと言うものを忘れきれないのか、彼女達の表情は何となく曇っていた。
皆は暫く黙って、湯に浸かっていた。
なんだか、体が軽いような気がした。
どうやら貸し切りか何なのか、周りには他の客がいない。
温泉自体もそこまで広い訳ではないのだが。
僕はなんとなく、周りの少女達の体格を眺める。
赤髪の少女は雄弁な口調に似合ったがっしりとした体格で、脂肪よりもどことなく筋肉の方が多い。
緑髪の少女はなかなかにスタイルが良く、日本人らしい、綺麗な体のラインをしていた。
青髪の少女は君と似て、少し痩せ型で見るからに体が弱そうなのが感じ取れる。
その時、僕は彼女達の決定的共通点を見つけた。
「胸」だった。
胸と胸の間に、大きな手術痕が残されているのだ。
青髪の少女は前回の街中の夢で見たが、それと同じような傷が、緑髪と赤髪の二人にも刻まれていた。
縫い跡が生々しく残っており、痛々しい。
そしてその少女達の輪の中に居る僕自身にも……!?
「ん?どうしたんだ?」
「さっきから黙りっぱなしだけど……のぼせた?」
そんな……!?
無い!
なんで無いんだ!
「僕の胸は……っ!?」
「僕……?」
自分の胸はそこには無く。
ただただ平たい、平坦な胸と、それを中央で分かつような手術痕のみがそこにあった。
肌もつるつるすべすべだ。
そしてこの感触は間違いなく。
「君」の体だった。
「僕って……お前そんなキャラだったか?」
「あんまり傷つけたくないからハッキリ言わないけどさ……失って驚くほどの物も元々持って無かったよね?」
「いやっ、違っ……!」
水面に映った自分の顔を見て、その疑いは確信へと変わった。
間違いない、この体は君の姿をしている。
「なんだか……様子が可笑しい」
「まさか発作かっ!?」
「……っ!」
咄嗟に辺りを見回し、僕は湯船から飛び出す。
皆から距離を置くために走って更衣室の方へ逃げる。
「あっ!ちょっと!」
「どうしたんだよ!?」
更衣室に置かれている大鏡。
それは君の姿をした僕の体を鮮明に映していた。
恐る恐る、鏡に向かって手を伸ばす。
鏡の中の僕の、胸の手術痕に指先が触れる。
その直後、僕の意識は鏡の中の君に引き込まれるようにして、失われた。




