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夢IL''幻界少女  作者: ヱフノジルイ
夢幻城砦
10/47

髪、水、そして瞳

 強烈な息苦しさ。

 それから抜け出そうと、一気に体を上の方へと押し上げる。


「ぷはぁっ!」


「げほっ!げほっ!」


 月に向かって飛んでいたはずの僕達は、いつの間にか夢幻城砦の月の見える池から飛び出して、びしょ濡れになって地面を転がっていた。

 どうやらあの空の月と、この池の月は繋がっていたらしい。


「は、はは、びしょびしょだよぉ……」


「髪、伸びちゃいましたからね……渇くのに時間かかりそうですね」


 僕と君は立ち上がり、びしょびしょになって重くなった髪を絞った。

 キラキラと光の粒が髪から流れ落ちる。

 そこでふと、僕は君のもう一つの変化を見つける。


「あれ?目が……」


 一緒にベンチに座ったまま寝るまで赤かったはずの瞳が、髪と同じ白色になっていた。

 君も僕の瞳を見ると、「黒くなってますね」と言い返した。


 これもあのハートを、記憶の断片を手に入れたのが原因だろうか?

 だとすれば僕らはあの断片を手にするたびに、元の体の形に戻ってきている、という事なのだろう。


「でも空を飛ぶことが出来るようになりましたし、これであの乗り物が無くても上に行けるようになりましたね!」


 君ははりきったように両の手を固めながら言った。

 空を見上げればもう夜は明け、明け方が近付いてきていた。


 僕と君の纏っていた衣装は水をたっぷりと吸い込み、だぼだぼになってしまっている。

 頭から足先までずぶ濡れになってしまったせいで、大変気持ちが悪い。


「上の方に行く前に、お風呂でも入っていこうか?」


「そうですね。まずはお風呂屋さんを探すところからになりますけど……」


 言われてみれば確かにそうで、僕は頭を掻いた。

 この世界にお風呂なる物があるかさえも怪しい。

 まぁ取り合えず歩かなければ始まらないと、僕と君は手を繋ぎ、再び歩き出した。


 少し上に上がって、濡れた髪を引きずりながら街道を歩く。

 普通こんな格好で歩けば注目の的だが、周りが周りなので全く注目を浴びない。


「あの……透けてますよ……」


「え?あぁ……まぁいいや」


 ぺったりと張り付いたネグリジェの薄い生地は、その下にあるものまで透けさせてしまっている。

 早いとここの服を洗濯に出して、着替えを済ませたいところだ。


 暫く街を散策していると、ガイドブックなる物を見つけ、それを迷わず購入した。

 中にはこの城砦に関する様々な情報が記載されている。


「あ!これじゃないですか?」


 君が指を差した処を見る。

 どうやら温泉旅館のようだ。

 行くには駅から列車に乗って少し待つ必要があるそうだが。


 ただ宿泊代もそんなに高くなく、ペアだと安くなる、というニュアンスの記載もあった。

 食事も付くのだから安上がりだ、と僕と君の中で結論付けられた。


「じゃあここに行ってみようか」


「そうですね。折角ですから、いろんなところを見て回るのも悪くないですよ!」


 僕と君は頷くと、旅館へ向かう為に再び駅に戻っていった。

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