髪、水、そして瞳
強烈な息苦しさ。
それから抜け出そうと、一気に体を上の方へと押し上げる。
「ぷはぁっ!」
「げほっ!げほっ!」
月に向かって飛んでいたはずの僕達は、いつの間にか夢幻城砦の月の見える池から飛び出して、びしょ濡れになって地面を転がっていた。
どうやらあの空の月と、この池の月は繋がっていたらしい。
「は、はは、びしょびしょだよぉ……」
「髪、伸びちゃいましたからね……渇くのに時間かかりそうですね」
僕と君は立ち上がり、びしょびしょになって重くなった髪を絞った。
キラキラと光の粒が髪から流れ落ちる。
そこでふと、僕は君のもう一つの変化を見つける。
「あれ?目が……」
一緒にベンチに座ったまま寝るまで赤かったはずの瞳が、髪と同じ白色になっていた。
君も僕の瞳を見ると、「黒くなってますね」と言い返した。
これもあのハートを、記憶の断片を手に入れたのが原因だろうか?
だとすれば僕らはあの断片を手にするたびに、元の体の形に戻ってきている、という事なのだろう。
「でも空を飛ぶことが出来るようになりましたし、これであの乗り物が無くても上に行けるようになりましたね!」
君ははりきったように両の手を固めながら言った。
空を見上げればもう夜は明け、明け方が近付いてきていた。
僕と君の纏っていた衣装は水をたっぷりと吸い込み、だぼだぼになってしまっている。
頭から足先までずぶ濡れになってしまったせいで、大変気持ちが悪い。
「上の方に行く前に、お風呂でも入っていこうか?」
「そうですね。まずはお風呂屋さんを探すところからになりますけど……」
言われてみれば確かにそうで、僕は頭を掻いた。
この世界にお風呂なる物があるかさえも怪しい。
まぁ取り合えず歩かなければ始まらないと、僕と君は手を繋ぎ、再び歩き出した。
少し上に上がって、濡れた髪を引きずりながら街道を歩く。
普通こんな格好で歩けば注目の的だが、周りが周りなので全く注目を浴びない。
「あの……透けてますよ……」
「え?あぁ……まぁいいや」
ぺったりと張り付いたネグリジェの薄い生地は、その下にあるものまで透けさせてしまっている。
早いとここの服を洗濯に出して、着替えを済ませたいところだ。
暫く街を散策していると、ガイドブックなる物を見つけ、それを迷わず購入した。
中にはこの城砦に関する様々な情報が記載されている。
「あ!これじゃないですか?」
君が指を差した処を見る。
どうやら温泉旅館のようだ。
行くには駅から列車に乗って少し待つ必要があるそうだが。
ただ宿泊代もそんなに高くなく、ペアだと安くなる、というニュアンスの記載もあった。
食事も付くのだから安上がりだ、と僕と君の中で結論付けられた。
「じゃあここに行ってみようか」
「そうですね。折角ですから、いろんなところを見て回るのも悪くないですよ!」
僕と君は頷くと、旅館へ向かう為に再び駅に戻っていった。




