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34ー1 名探偵凛音

「はっぁあああ………」

「ちょっと、道逸らさないでよ?」

「わかってるよ」


 操舵室で進路を見ながらため息をつく天宮城。アインは大きなガラス張りの部屋の中から外を見て、


「何が不満なの? 嵐もないしいい天気じゃない」

「別にそこが不満なんじゃなくてだな」

「なによ」

「あっちで色々あったんだよ………」


 いつも以上にぐったりとしている。


「何があったの」

「母さんが結婚することになって」

「ああ、そう言えば遠くで働いてるんだっけ?」

「そうそう。で、その結婚相手の義理の妹と婚約しろって言われて」

「ふむふむ……え?」

「で、その子が俺の仕事先で泊まってて」

「?」

「俺の部屋で寝てる」

「ちょーっとストップね? うん、どういうことそれ」


 どうと言われても今言ったことが全てである。


 天宮城は事細かにエミリアや母親の事を説明した。


「アレクって貴族だったの?」

「違うよ。そもそも日本に貴族はいない」

「結婚させられるのって位が高い人でしょ」

「言い方悪いけど、まぁ、そうかな……」

「じゃあアレクは偉い人なの?」


 答えに困る質問である。


 一応組織内ではナンバー2なのだから偉いと言われれば偉いのかもしれないが。


「偉いって言うか、そうでもないっていうか」

「どっちよ」

「どっちとも言えない……」


 実に曖昧なのである。


 その時、アインの腹が空腹を主張した。


「「あ」」


 アインの顔が真っ赤になり、天宮城は時計を確認する。


「もう昼の時間か。軽いのでいい?」

「な、なんかあからさまにスルーされるのも恥ずかしいんだけど……」


 アインの抗議を聞き流してキッチンに向かっていった。その直後、天宮城の叫び声が船内にこだました。








「な、なに⁉」

「食べ物が……ない」


 冷蔵庫や缶詰その他も全てすっからかんだった。


「あんなに備蓄しておいたのに、なんで……?」


 少なくとも昨日まではあったはずである。朝食はいつも寝る前に作って置いておき、食べたい人が食べていく、といったルールなので今日は一度も冷蔵庫を開けていない。


 つまり、昨晩からお昼頃までの間に消えたのである。


「別に出せるからいいじゃない」

「いや、それがな……? その、な?」

「なによ」

【海の上だと安定しない。狙ったものがでない。のだそうです】


  全員が唖然とする。天宮城のものを出す力が意外と不安定なものだったのが判明した。


『ご飯、どうする?』

「どうしよう………」


 ものを作るのにはそれなりに体力を使う。真顔でポンポン出しているから判りにくいが。


「っていうかこれやったの誰だよ」

【拙者でもございません】

「私でもないわよ」

「違います……」

『そんなにエネルギー要らないから補給の必要がない』


 皆自分ではないと主張しながらも目線はある人に向いていた。


「なっ! なぜ皆こちらを見る‼」

「こんなことやる動機も実行力もあるのはお前だろ」

『ん。白状する』

「ち、違う! 気高き白竜の血に誓ってそんなことはしていない! そもそも感覚共有でアレクにバレるだろうが!」

「あ、それもそうか」


 感覚共有は切ることができるがそれはあくまで一方が拒否しているときだ。


 ここ暫くは切断されたような感覚はない。


「じゃあ他に誰がいるのよ」

「「「………」」」


 琥珀にジーッと全員の視線が突き刺さる。


「違うと言っておろうが!」


 そして一人だけ自分の関与を否定していない人物がいた。


「アレクは?」

「俺? なんで?」

「第一発見者が犯人ってことよくあるじゃない。それにアレクならあの量の食べ物でも一瞬で消せるでしょ?」

「消せはするけどやる意味がないだろ。作るの俺なんだから皆に内緒で冷蔵庫の中身増やすことはあっても減らす必要はないし。そもそも消してまた出すのは俺なんだぞ? そんな面倒なことしてたまるか」


 確かにそれもそうである。


「じゃあ誰がなんのためにこんなことするのよ」

「俺に聞くなよ」

『フッフッフ……犯人は、この中にいる!』

「なにやってんだ凛音は」


 いつになく生き生きした凛音がどこからか持ってきたルーペを両手で持ち、余った布の切れ端をマントみたいに肩からかけて洗濯ばさみで固定していた。


 何かの漫画の影響だろう。


 最近琥珀から要望があったので漫画を船内においたら皆気に入ってしまったのだ。


 文字は翻訳済みである。


『名探偵凛音、いざ参るっ!』

「なんか色々混ざってないか? 探偵ものじゃないのか」

「時代物も混ざってますかね……」


 微笑ましい光景のようにみな見ているが、凛音はこの中で最も長生きしていることを忘れてはいけない。


 決めポーズをし、ルーペでキッチンを見て回る。


『ふむふむ、ここにクッキーのかけらがあるぞ!』

「あ、それ朝御飯に出したやつが多分落ちたんだと思う」


 それでもめげない名探偵凛音。次なる証拠を探して戸棚をどんどん開けていく。


 それを後ろからどんどん天宮城が閉めていく。開きっぱなしなのが許せないタイプなのだ。


『ここに石鹸が!』

「あ、それ私のだ。どっか置きっぱなしにしてたと思ったらここだったんだー」

「アイン。ここで顔を洗うなといつもいってるだろ」

「だってどうせこっち来るじゃん」


 一通り戸棚のなかを調べ回った名探偵凛音。


「で、どうだった?」

『むぅ……迷宮入りの香りがする』

「ダメダメじゃないか」


 幸いにして目的地は大分近づいている。


 向こうにつくまで食事を抜いても耐えられはするだろう。


『こうなったら事情ちょうすうする』

「言えてないぞ」


 キッチンのカウンターに座らされて、ルーペを翳される。これ、意味があるのだろうか?


『アレク。昨日の夜から今までのことを話なさい』

「えっと……今日の朝飯作ってからリビングで暫く進路の調節は必要はないか調べ直して、洗濯物を畳んで各々の籠に入れて、一回操舵室に行って船の進行速度とか確認してから寝て……起きたら顔を洗って歯磨きしてから朝食を食べて、全員の洗い物と洗濯と掃除して……そっからはずっと操舵室だったな」


 働きすぎである。


『では、次スラ』

「きゅっ」

【昨晩は不寝番をして、日が上ったらリビングに行き余ったぶんの朝食を頂いてから少しご主人様のお手伝いをし、それからはまた見回りをしていました】


 こっちも中々の働き者である。


『じゃあ次、アイン』

「えっと、夜は紅茶を飲みながらリビングで本を読んだりしてたわね。それで朝は普通に朝食を食べてからは操舵室に」


 これも特に問題ないとみたのか名探偵凛音は直ぐに隣に視線を移す。


『シーナは』

「私はアレク様と共に進路確認をしてから本日は夜の担当でしたので操舵室で船の制御を。日が上ってからはアレク様と交代し、先程まで仮眠をとっておりました」


 そして最重要容疑者へ。


『琥珀』

「アインと共に漫画を読んで……朝食をとってからもずっとリビングにいた」


 ずっと動き回っていた天宮城とスラ太郎はあり得ないとして、この中で一番時間が作れそうなのはシーナだ。夜間の間ずっと起きていて尚且つ船内に居たのだから。


 だが、シーナがそれをやるだろうか?

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