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33ー3 思わぬ厄介事

 無言の時間が流れる。二人揃って会話がないのは母親の方が何を話したらいいのかわからず、天宮城は単に疲れているだけだ。


「龍一って、いくつだっけ」

「18」

「そっか……もうそんなに経つんだ……」


 その人生の大半を母親と過ごしていないので、寧ろ藤井達の方が付き合いが長いくらいである。


「「………」」


 喋ることがなくなり、黙って時間が過ぎるのを待つしかない二人。そして思い出す。


「あっ」

「な、なに⁉」

「外出するって言うの忘れてた………」


 しかも唐突に引っ張られて出てきてしまったので携帯も忘れた。今コピーしてある能力がテレポートだったら良かったのだが、残念ながら今はサイコキネシスである。


「まぁ、結城が見てたからいいか……」


 多分理解してくれるだろうと結城に丸投げすることに決めた。あの頭の少し残念な結城が察してくれるかどうかはかなり不明ではあるが。


 その瞬間、座敷の障子がゆっくりと開く。


「お待たせしましたか?」

「いいえ。どうぞ」


 入ってきたのは、どう見ても外国人の男性と若い女性だった。


「初めまして。君が龍一君だね?」

「はい」

「これはエミリアという。よろしく」

「? ? ………どういうこと?」


 日本語で書いてある名刺を渡され、流暢な日本語で話されたが内容が理解できない。


 天宮城が混乱していると、


「彼はイザヤ。イザヤ・アルテレア。映画監督助手で私の二つ下なの」

「いや、それは今名刺もらったからわかるんだけど」

「その隣の子は彼の妹さん」

「?」


 なんで妹がいるんだ? と首を捻るしかない。


「エミリアちゃんはね、龍一のお嫁さん候補なの」

「……?? ん?」

「だから、もしエミリアちゃんと龍一が結婚したら私はお母さんじゃなくてお義姉さんになるわね、ふふ」

「は? え? いや、ごめん。なに言ってるか全然わかんない」


 キョトンとした様子なのは目の前の二人である。


「言ってなかったのかい?」

「サプライズで隠してたの」

「なるほど」


 いや、そこで納得しないでくれ。本心からそう思う。


「ふつつかもの、ですが宜しく、お願いします」

「あの、意味理解して話してますか?」


 この状況を理解していないのは天宮城だけのようである。


「説明してくれ………一から、十まで」









「―――ってことなの。わかった?」

「状況の理解はできた。けど正直なんでそんな話になるのか全然わかんない」


 話を纏めると、こういうことだ。


 映画監督助手であるイザヤに天宮城の母親が一目惚れ、猛アタックの後、付き合うことになった。


 その後彼の家には年の離れた義理の妹がいることを知り、そこで更にその妹が龍一と同い年だと知る。


 イザヤは俗に言う極度のシスコンで、妹はどこの誰とも結婚させたくないと言ったのだが偶々龍一の写真を待受にしていた(これについて龍一は後に母親の携帯の自分の画像を全て消去した)のを見てこちらも一目惚れ、この子になら息子はあげても良いと母親が決心、今に至る。


「なんで俺が居ないところでそんな話になったの」

「一目惚れって可愛らしいじゃない」

「意味がわかりません」


 会話が通じない。


 正確には会って話してはいるものの、言葉のキャッチボールが出来ていない。


「案外付き合ってみたらうまく行くかもよ?」

「うん。ちょっと待って。話がおかしいよ?」

「というわけでエミリアちゃん。息子をよろしくお願いしますね」

「いや、どの辺で会話が終了したって思ったの?」

「はい」

「君も了解しちゃダメだって⁉」


 突っ込みが突っ込みの意味をなさない。


 もう完全に誰も話を聞いてくれそうにない。


「母さんが結婚するのは良いよ。構わないよ。けどこれは大問題だよね?」

「さーて、エミリアちゃん。どれが食べたい?」

「テンプラ……!」

「話を聞いてくれ………」


 料理が届いても天宮城の話をまともに聞いてくれる人は誰もいなかった。


 天宮城は知らない。裏で母親が『うちの子は何があっても文句を言ってくるでしょうけど、押しに弱いから話を聞かずに一気にアタックすればいつかは折れてくれるわよ』と助言していたことに。


 料理の味がほぼわからないくらいまで混乱していた天宮城だが、ここで更に追い討ちがかかる。


「あ、龍一のところにエミリアちゃんも暮らすことになってるからよろしくね」

「はい?」


 さらっと告げられた同居宣言。勿論焦るのは天宮城である。


「いやいやいや、ムリムリムリ‼ 皆だっているし、そもそも誰にも話通してないから―――」

「近藤さんに聞いておいたから大丈夫よ」

「近藤さん………」


 まだ未成年だった天宮城達の実質的な保護者は近藤だ。いまでもその立ち位置はそう変わっていない。


 運転手兼秘書(保護者)なので近藤には中々逆らえないのだ。


「よろしく、ね?」

「宜しく出来ないよ………」

「ご飯も作るし、洗濯もするよ。買い物も行くよ」

「いや、家事ができるとかそういう問題じゃなくてね?」


 確実に修羅場に発展しそうな人物なら一人いる。


 だが、近藤に話がいってしまっている以上、もう手遅れである。


「俺危険な仕事してるから、一般人は巻き込めないんだよ」

「大丈夫。ジャパンマフィアでもちゃんと適応して見せるから」

「間違え方が極端だな……いや、俺は寧ろその人達を取り押さえるような仕事で」

「ポリスなのね? 大丈夫」

「なにが大丈夫なのかわからないし、俺は警察じゃなくて」


 ポン、と肩に手を置かれる。みるとイザヤだった。


「うちの妹を困らせたいのかい………?」


 後ろに獅子を幻視した気がする。気を抜くと食い殺されそうな威圧感がジワジワと肩を伝って全身を駆け巡る。


 イリスとはまた違った恐ろしさを感じた。


 胸にかかっている十字架のペンダントがギラリと輝きを放つ。


「そういうわけではないんですけど……」

「なら、わかるよね?」

「…………」


 首を縦に振るしかなかった。

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