33ー1 思わぬ厄介事
「で、なにか言うことは?」
「すみませんでした」
頭を思いっきり殴られて涙目の琥珀が土下座をする。
「ったく、せめて連絡くらいしろよ」
「反省しております………」
笑顔で額に青筋を浮かべる天宮城。その手には巨大な鉄扇が握られている。こう見ると金属バットみたいだ。
「えっと、迷惑かけてごめん」
「いいのよ。勝手に連れてきた私達が悪いもの。帰るの?」
「うん。行かなきゃいけないところもあるし」
「そう。じゃあ、これ」
手を差し出される。その上になにか乗っている訳でもない。
握手と気づき、直ぐに手を出し互いに掴みあうと静電気のようなものが走った。
「いっ⁉」
「………中々反発するのね」
「何の話?」
「なんでもないわ。また来てね、アレク様。次はちゃんと地上に顔を出すから」
天宮城はよくわからないまま生返事を返し、先程までいた浜に送ってもらった。
「反発って、どういうことなんだ………?」
疑問を、残して。
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起きた瞬間、なんだか嫌な予感がした。
否、正確には本気で嫌というわけではない。
ただ、なんとなく面倒臭そうな事が起こりそうな、そんな予感だった。
………こういう予感は、よく当たる。
「龍一、おはよう」
「おはよ………今日って警察の人とかの面会ってないよね?」
「今のところないけどどうした?」
「いや、なんでもない………」
藤井にそう確認をいれて警察絡みではないことを理解する。なんかこう、本当にそうだったときはゾワッとするのだ。
台所へいって簡単な朝食を作ってから今日の予定を確認する。
「お前今日なんかあったか? 書類確認くらいだろ?」
「なんか………こう……面倒なことが起こりそうな予感がする………」
「おい、やめてくれよ………お前のそういうセンサー、第六感もってる俺等より当たるんだからさ……」
「俺に言われても」
微妙に挙動不審の天宮城に藤井が首をかしげる。
「でも最近妙に色々起こりすぎだよな。お前の周りで」
「起こしたくて起こしてるわけじゃないんだけど」
「わかってるって。ただ、ここ数年はまだ落ち着いた方だと思ってたんだけどな」
「それな」
トーストにバターを塗りながらため息をつく。
次は一体何があるというのだろうか。
誘拐事件もそうだったが最近になって突然犯罪が増え、普段はあまり動くことのない天宮城の隊まで動くことも珍しくない。
二人揃ってなにも起きませんようにと願う。が、こういう予感は大抵当たるので半分諦めていた。
「りゅう!」
「なんなんだよ。人の部屋に直接飛ぶなっていつも言ってるじゃないか」
「うん、知ってる!」
「しってるなら実行するな」
「うん。それでね」
「話を聞け………」
風間に日本語が通じないのはいつものことなのでもう呆れるしかない。
「めっちゃ人いる」
「話省略しすぎて何言ってるか判らん」
「外!」
「お前は幼稚園児か」
少なくともテンションはどれだけ多く見積もっても男子小学生である。
カーテンを開けて目を外に向けると、確かに人で溢れかえっていた。しかも街道沿いに大量の人に記者と思われる人やテレビカメラを担いでいる人も見える。
「なんなんだ、パレードでもするのか?」
「さぁ?」
「調べてから連絡しろよ」
「調べてないんだけど、りゅ―――」
その瞬間、近くの固定電話が悲鳴をあげるようになり始めた。
「はい、天宮し―――」
「龍一さん‼ やばいです! 人が多すぎて抑えきれません!」
「何の話ですか」
「とりあえず受付に来てください!」
一方的に切られた。
「な……なんなんだ」
厄介事の臭いしかない。
直ぐ様制服に着替えて部屋を飛び出した。制服にはスキルカードが仕込んであるのでいつでも使える。
扉を開けると、
「あ、龍一‼」
「………え?」
花束を持った女性が天宮城の前に駆け寄る。
「これお土産。玄関にでも飾って」
「あ、ああ、うん………」
咄嗟のこと過ぎて全く反応出来ていない。しかも周りには人の壁。花束を普通に受け取ってしまった。
「それと、ただいま。遅くなってごめんね」
「お帰り………じゃなくて! なんで⁉」
ようやく我に返った天宮城が叫ぶ。女性は得意げな表情で、
「驚かせようかと思って、なにも言わなかったの」
「帰国してるんなら連絡してよ……」
呆れたようにため息をつく天宮城。その慣れた会話に周囲がざわつく。
「あの、お二人はどんな関係で?」
記者の一人が、ボイスレコーダーを向けてそう聞いてきた。天宮城が一瞬躊躇うと女性が、
「息子です!」
そうよく通る声でハッキリと告げる。
「ちょ、公表していいの………?」
「もう龍一も大きくなったからいいかなって」
「そんな適当な………」
天宮城もすこし困惑気味だ。だが、一番混乱しているのは周囲のギャラリーであろう。
「「「えええええええええ⁉」」」
「ほら、こうなる………」
「わかってたけど、ここまで驚くものなの?」
「俺も一応日本では有名だし………」
有名人二人が親子だったというのは割りと驚きである。いや、それだけではない。
「こ、子供がいたんですか⁉」
そう、この天宮城の母親。子供がいたとかそれ以前に結婚したことすら一切明かさなかった。
だれも子供がいるなんて思わないだろう。
次々と飛び交う質問に辟易としながらこう思うのだった。
(ああ、やっぱり厄介事だった………)
と。