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32ー4 息抜きの筈が

 テストやら卒業式やらでもしかしたら3月中頃まで更新できないかもしれません……


 ごめんなさい……冗談抜きで忙しいんです。

「あー、面白い。こんなに笑ったの何年ぶりかしら?」


 目の端に涙を浮かべるほどに爆笑していた。


 天宮城は帽子を離さないようにしっかりと両手に持ちながら話し始める。


「えっと、君が助けてくれたの?」

「ええ、本当ならおもてなしするために呼ぼうかと思ったんだけど、地上の生き物って息が出来ないってこと忘れていてね。ごめんなさい」

「ああ、そういうことだったのか………」


 ん? と首を捻り、


「じゃああのグライアスって?」

「私のお友達」

「あ、ごめん。息苦しかったから手? に穴開けちゃった」

「大丈夫よ。キネッシュは回復が早いから」

「キネッシュ?」

「あの子の名前」


 雄なのか雌なのか。


「ってことは俺が人間だっていつから気づいてた?」

「ああ、それは簡単よ。私達人魚は変化魔法を得意としていてね。その関係であれぐらいの幻影だったら見抜ける目を持っているの。正確にいうと直接見えている訳じゃなくて体温が見えるって感じだけど」

「蛇のピットみたいなものなのかな………」


 ピットというのは蛇には獲物を関知する場所があり、そこで体温を感じ取って獲物を見付けることができる。


 要するに赤外線レーダーだ。


「それで人間だったからグライ………キネッシュに頼んで俺を海中に?」

「ええ。でももがいてるところを見て思い出したの。地上の生き物って海では住めないんじゃなかったっけ、って」

「うん。死ぬかと思った………」


 実際死んだかと思った。


 あのキネッシュがやけに丁重に天宮城を扱おうとしていたのは傷つけてはいけないという人魚の掟に従ったものだったらしい。


「なんで人間を傷つけてはいけないって?」

「簡単よ。私達は珍しいし陸では抵抗することができない。だから観賞用として昔は売り買いされていたの。それを人間が廃止させたのよ。そして逃がしてくれた。だから今でもこうやって生きていられるのよ。地上の生き物は海の底に来ることは出来ないから」


 確かに最高の隠れ家だろう。もし頑張って下に行ったとしても泳ぐ速度は段違いなので逃げられる可能性は高い。


 それに、


「まぁ、人魚は強いからそれなりに大丈夫なんだけどね。水魔法が得意なの」


 陸の上での抵抗手段は少ないが海の中なら無双できる。意外にも人魚は逞しい人種だった。


「それにしても、人族様の生き残りがいたとはね」

「人族様っていうの、やめてほしいかな。アレクで良いよ」

「わかったわ。あ、私はクレアよ」


 なんか他人行儀なのは嫌いなのだ。


「アレク様が最後の人族なの?」

「いや、だから様は………もういいや。………わからない。元々俺もよくわかっていないんだ。人族がなんなのか」

「? 聞いたりしていないの?」

「うん。あんまり興味もないしね。俺は今生きていられればそれでいいよ」

「達観してるわね。まだ若いのに。170歳くらい?」

「え、人間そんなに生きられないよ………?」


 人魚は長命なのだろうか。


「じゃあ何歳?」

「今18」

「赤ちゃんじゃない⁉」

「そもそも80まで生きられれば充分ってくらいだし」

「世界一短命だっていうのは本当だったのね」

「世界一なのか」

「それはそうでしょ。一番短いって言われてる妖精だって200年は生きるのに」


 どうやら人間はこの世界ではかなり短命な種族なのだそうだ。


 へぇ、と返してから重要なことを思い出す。


「あ、そうだ。俺の仲間と連絡がとれないんだけどその辺りどうなってるか判ってたりする?」

「ええ。勿論。こっちよ」


 そう言って水路に飛び込むクレア。こっちよと言われてもそんなに長い間潜水出来ないし、と天宮城が迷っていると足を引っ張られて水のなかに落ちた。


「こっちって言ってるじゃない。あ、ここだと陸上の生物でも暮らせるようになってるから大丈夫よ」

「え、どういう………あ、息できるんだ………」

「上のあれはカモフラージュよ」


 よくみるとうっすらと膜が張られていてその上には普通の水で満たされているような構造になっているようだ。人が通り抜けられることを考えるとガラスというよりシャボン玉のようなものなのだろうか。


「ほら、こっち」


 下にも水路がある。クレアはそこを游ぎながら天宮城を先導していく。天宮城は濡れて重くなった服の端を絞りながらそのあとを着いていった。


 扉を開けた瞬間に絶句した。


「おお、遅かったな」

『こっち』


 そこにいたのは大量の料理を胃の中に収めている琥珀と凛音、それと黙々とフォークを動かすアイン。その横で少しおどおどしているシーナとスラ太郎だった。


 めっちゃ元気だ。


「お前ら………俺がどれだけ心配したと思って……っていうかお前リンクくらい繋げよ!」


 琥珀を指さして怒鳴り付ける。


「うむ。そうしたいのは山々だったのだが。ここの料理があまりに美味くてな。忘れていた。はははは」

「この駄竜が………!」


 最早怒る気にもなれない。ただただ自分が虚しくなるだけだと気付いて盛大にため息を吐く。


「シーナ。状況を説明してくれるか?」

「あ、は、はい。リンネ様方と海岸で遊んでいたのですが突然の波にスラ太郎様が流されまして、捜索していたのですが、そこを人魚族の方に助けていただきまして、このようなことに」

「うん。聞いてもよくわからなかった………」


 何故そんな浅瀬に人魚がいたのかも謎である。それをクレアに訊ねると、


「あの辺のアサリが美味しいのよ」


 そんだけ? と言いたいような答えが返ってきた。


「それ他の人種にバレないか?」

「大丈夫よ。化けてるから」

「ああ、そういえばそういうのが得意だって言ってたな」

「ええ。それなりにね」


 実は普通に人魚はどこにでもいるのではないかと一瞬思った。人魚は人間と同じく伝説上の存在のような捉え方をされているのでちょっとした衝撃である。


 普通に天宮城がごまかせている時点でなんとでもできそうであるが。


 ただ、人魚が伝説上の存在のような捉え方をされているのは神聖視されている人間とは違い、迫害による数の激減からであるので最悪ばれてもなんとかなる天宮城とは違い、見つかったら売られるのが確実な人魚が化ける力を持っていることも頷ける。


「あの島は観光客が多いから少しくらい混じってもバレないのよ」


 島の警備がザルなのも関係あったようである。

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