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32ー2 息抜きの筈が

「皆どこ行ったんだ?」


 琥珀と視界を繋げれば直ぐにわかるのだが、あれもそれなりに体力を使うので一先ず止めておく。


「そこの珍しい格好した兄ちゃん! ペルアビ、食べていかないか?」

「ペルアビ?」

「知らねぇのかい?」

「ええ。初めて聞きました」


 よく日に焼けた男性がゴツゴツした黒いものを見せてくる。


「これがペルアビだ。中身をくりぬいて食べるんだよ」

「フルーツですか?」

「そうだな。まぁ、焼けばパンみたいになるからこの辺じゃ主食としても食べられるぞ」

「へぇー」


 バゴン! とすごい音がして真っ二つに切られたペルアビはパッと見ではマンゴーのような色だった。甘い香りが漂う。


「じゃあ半分ください」

「はいよ。スプーンは?」

「あ、お願いします」

「了解。17ラギンだ」

「ラギン? リギンではないんですか?」

「あー、兄ちゃん北からの人か。リギンだったら8リギンだ」

「安いですね」

「ここじゃいっぱい採れるからな」


 8リギン渡して少し小さめの西瓜くらいの大きさのものを貰う。


「あの、ラギンって?」

「ラギンっていうのはこの辺りの諸島で使われている通貨だ。まぁ、リギンだったらどこでも使えるからそれ持ってりゃいいと思うぜ」

「貨幣価値はリギンの半分ってところですかね?」

「そんな難しい言葉よく知ってんな……まぁ、そんなもんだ」


 男性にお礼を言って食べながら凛音達を探す。


 ペルアビだが、食感はバナナみたいだが味は蜜柑に近い。面白い果物である。


 けれど肝心の凛音達が見当たらない。


「あんまり遠く行くなよって言ったんだけどな………」


 ペルアビも食べ終わり、やることがなくなってしまった。因みに、皮とスプーンは近くのゴミ箱に捨てた。観光地なだけに衛生面も確りしているようである。


 仕方がないので琥珀と視界を繋げようと意識を集中すると、強烈な目眩に襲われた。咄嗟の判断でリンクを断つと徐々に目眩も収まっていく。


「なんだ、これ………?」


 目をごしごしと擦ってみるが、特に目眩以外の不調は感じない。


 一旦店の方に戻ろうと反対方向に走りだしたが、砂に足をとられて転倒した。


「わっ、俺ダッセェ……っぇええ⁉」


 これぐらいでは痛みすら感じないが、少し恥ずかしい。そう思った直後、目を見開いて軽く絶叫した。


 天宮城が転んだのは慣れない砂場のせいではない。足に、海草の様なものが巻き付いている。しかもちょっと絡まっているどころではなく、簡単には解けなさそうだ。


 しかも心なしか、海に引きずり込まれているような気がする。


「っ⁉」


 それを断ち切るように地面から土の針を出そうとイメージしたが、何故か再び目眩に襲われ一瞬意識がとんだ。


 少し遠くまで来すぎたのか周りには誰もいない。砂浜に掴むことができる場所があるわけでもない。魔法具はほぼすべて置いてきてしまった。


 右足が、海に入った。その瞬間一気に体が引きずり込まれる。


 しかも夢なのに息が出来ない。


(どうなって………?)


 反射的に閉じていた目を開けると、海草が複雑に絡まりあった魔物が居た。天宮城はそれに見覚えがあった。


 アインに教わった、海の魔物。その名をグライアス。海草が固まっているような外見の魔物で手足というか触手というか、そういう役割をしている海草を砂の下に潜らせ、踏まれた瞬間に巻き付いて引きずり込むという魔物だ。


 手である海草を偶々踏んでしまったのだろう。


 しかもそこら一帯の魔力を吸い上げるので魔法が一切使えないために、グライアスに遇ったら死を覚悟しろというのは船乗りの常識らしい。


(こんな岩礁の多い地域には近付けないって聞いたのに………!)


 来てしまっているものは仕方がない。天宮城は即座に神解き(バズーカ)を召喚し、閃光弾を撃つ。グライアスはただの海草にしか見えないが多眼生物なので光には弱い。


 目を瞑っていても焼けつきそうだと勘違いするほどに強烈なそれを喰らったグライアスは天宮城の足を縛っていた海草を解いてしまう。


(おっし! 後はさっさと上に………⁉ 嘘だろ⁉ 知能は低いって聞いてたのに⁉)


 天宮城の退路がビッシリと海草で塞がれていた。しかももう弾を撃たせないようにとそれで包み込むように周りを囲まれた。


 どう考えてもかなり知能が高くないと出来ないだろう。


(息が持たない………!)


 ここで溺死するのも食われるのもごめんである。直ぐ様別の弾を装填し、上に向かって放った。


 ドン、と鈍い音がして丸く海草の壁がくり貫かれる。


 天宮城が放ったのは貫通力の高い普通の弾。魔法の威力の弾は水中では扱いにくかったり自分にも被害が及びそうだと考えたからである。


 普通の弾でも威力は落ちてはしまうがこれは拳銃ではなくバズーカなのだ。それなりの威力もでる。


 天宮城は直ぐにそれを逆さに持ちかえて、魔力を流し、生成した水を一気に噴射する。


 水の勢いで空を飛ぶスポーツと同じような原理だ。


 一気に上昇し始めたが、急速に勢いが弱まる。何故かと後ろを見てみれば、神解きに海草が絡み付いていた。


(速すぎるだろ‼)


 直ぐに神解きの装備を解除するが、時既に遅し。回り込まれていた海草が目の前に迫っていた。


「ぐっ………!」


 残り少ない空気が、完全に出ていってしまった。焦って水を飲んでしまい、喉が痛くなりそうな塩辛さのそれが喉を通りすぎていく。


 苦しさにもがくことしか出来ず、そのまま意識を失った。








「っ⁉ ゲホッ、かはっ……!」


 死んだかと、思った。何度も咳をして生きていることを実感する。


「はぁ、はぁ、はぁ……どこだ、ここ」


 洞窟のようで、冷たい岩壁に沿って歩いてみると光が見えた。


 そっちに向かって走ってみると、砂浜と海が見えた。洞窟の反対側にはジャングルがある。


「…………え?」


 明らかに、ベルタではない。それどころか人がいない。


 とりあえず島を1周。大体5キロ程で1周出来た。結構小さい島のようである。


 周りには本当に海しかなく、島の影すらない。


「ど、どこだよここはーっ⁉」


 誰もいない砂浜に寂しく天宮城の声が響き続けていた。

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