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4ー1 あやしい影

「懐かしいですね。僕からしたら自分の力の使い方さえよくわかっていなくて自分が怖くて。なんでこんな意味のわからない力を使って能力者を集めるのか、って考えてましたね」


 今はもう判りますけど。と付け加える。


「近藤さんみたいな非殺傷系能力ならまだしも秋兄みたいな殺傷系能力だと管理しないと本当に危険ですしね。能力者は危険な思想を持っているなんて言い触らされたらたまったものではありませんし」


 琥珀を指でつつく。勿論実体はないのですり抜けてしまうが、琥珀はちゃんとそれを理解して後ろにコロンと転げる。


「そうだな。だが、それなのに技術提供してくれたのか」

「近藤さん含め見取り図すら書けない人たちに任せてたら能力者教会は直ぐに潰れると直感したもので。皆が借金抱えるのも可哀想だと思いまして」


 それを当時中学一年生の男の子が色々と考えてやった結果である。天宮城は最初から規格外だった。


「遅いよ」

「「す、すみません……」」


 話しすぎてゆっくり歩いた二人が揃って頭を下げたのは言うまでもないだろう。








「龍一。魚住さんから聞いたぞ。またやったんだって?」

「……うん」

「なんでやったんだ?」

「秋兄。ひとつ聞きたいんだけど」

「どうした」

「相手の能力を奪う能力ってあるのかな」


 藤井の表情が険しくなる。


「そんな波長を見つけたのか?」

「うん。見てて気持ち悪かった。その能力者を見ただけなのに、体の波長がおかしくなる。発作の時みたいな感じじゃなくて、悪寒がするっていうのかな」

「同調は?」

「無理だよあんなの。目を開けてるだけでも辛かった」


 大きく溜め息をつく藤井。


「龍一。その人はどこで見た?」

「場所は覚えてないよ。ただの住宅街の道路だもん」

「そうか」


 藤井は天宮城の顔をチラ、とみて再び溜め息。


「龍一。何か隠してるだろ?」

「なにを?」

「なにってそれを聞きたいんだが。嘘は付いてないだろ? ただ、何か隠してる」

「なんでそんなことを?」

「俺達はお前の表情くらい読めるんだよ。何年一緒にいると思ってる」


 黙る両者。沈黙を破ったのは藤井だった。


「まぁ、お前が無事ならそれでいい。で、ここに呼んだ理由だが。お前に仕事だ」

「まだここに入ってもないのに」

「仕方ないだろ。龍一にしか出来ないことなんだから」


 一枚の紙を引き出しから出す藤井。


「この前、連続殺人事件があったのを知ってるか?」

「テレビでやってた」

「そうだ。その被害者の夢に入って欲しい」

「なんで俺?」


 藤井は少しの間の後、


「意識不明の重体なんだそうだ。そこで寝ている相手に話を聞く人員と言われて思い浮かべたのが」

「俺か」

「そうだ。寝てしまっているから心を読む類いの能力もきかないしな」


 天宮城は少し考えた後、


「いいよ。それで何かが判るなら」

「そうか。すまない。じゃあ明日早速学校の後いいか?」

「判った。バイトもないし」


 そう言って天宮城が部屋を出た。







「初めまして。能力者協会の会長をやっております、藤井秋人です」

「初めまして。佐藤(さとう)幸助(こうすけ)です」


 次の日、学校から帰って直ぐに天宮城は藤井に連れられて病院に来ていた。そこでは刑事の佐藤が既に病室の前で待っていた。


 本来は警察の仕事なのだが、他人の夢に入り込むなど能力無しでは不可能なので能力者協会に依頼が来たのだ。


「君は?」

「僕は……同じく能力者協会の天宮城龍一です」

「そうか。高校生?」

「はい」


 なんと自己紹介をしたらいいのか迷ったがどうせもう直ぐ能力者協会に入るのでそう自己紹介をした。


「この人なんだが」


 ベッドで寝ている女性を指し、色々と説明をする佐藤。


「年齢は20才。一昨日に直ぐそこの橋の上で頭から血を流している所を発見されて意識不明の重体」

「無差別殺人事件……この人の場合は未遂ですが、あれの一つだと。で、それを僕に探って欲しいと言うことですか?」

「そうだ。出来るか?」

「多分大丈夫ですが……。何かがおかしい気がする……」


 じっと女性を見詰める天宮城。


「龍一?」

「秋兄……。この人能力者協会に入ってないよね?」

「あ、ああ。それは調べてある」

「うん。俺もこの人見たことないから。でもこの人能力者みたいだ。いや、能力者だったみたい」


 何故言い直したのか藤井と佐藤には判らなかった。


「それは、どういう事だ?」

「いや、気のせいかもしれないけど。波長が能力者に似ているのに能力の波長を感じられない」

「よく判らない。私にもわかるように教えてくれないか」

「簡潔に言いますと、能力を失った後の能力者の波長とそっくりなんです。でもこの人を僕は見たことがない」


 よくわかっていない二人に少し考えるそぶりをしてから、


「昨日から出ている仮説の一つでしかないんですが……。もしかしたら能力を奪う能力もあるのかも知れませんね。それの口封じに殺そうとしたとなればこの波長も納得がいきます」

「能力を奪う能力……」

「前々からそんなのはあるんじゃないかと思ってるので。まぁ、被害者本人から聞いてみましょう」


 天宮城は椅子を持ってきて座り、女性の手を掴む。


「聞いてくることは、誰にやられたか、理由はあるのか。この二つを主にしてきます。他になにか有りますか?」

「い、いや、大丈夫だ」

「判りました」


 そういった瞬間、女性のベッドの方に手を繋いだまま倒れこんだ。


「確りしてるんですね、高校生なのに……」

「僕たちのなかで一番の良識人ですから……」


 一番の年下が一番の良識人というのもおかしな話だろうが。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「ここは……暗いな」


 天宮城は右も左も判らないような暗闇の中で立ち尽くしていた。


「誰か居ませんか」


 周囲に呼び掛けるも何も見えない上にどこまでこの空間が続いているのかさえ不明だ。


「琥珀」

『人使いが荒い奴だ……』


 いつの間にか巨大なドラゴンが天宮城の隣に出現し、雄々しく吼える。すると真っ暗だった所が徐々に光に満ちていく。


「……いた!」


 天宮城は倒れている女性に駆け寄る。


「すみません。お話をお伺いしたいのですが」

「ぇ……? ここは……?」


 起きた様だ。まだ眠いのか寝ぼけている様子だ。


「初めまして。僕は天宮城といいます」

「う、うぶしろ……? 珍しい名字ね……?」

「はは、よく言われます」


 ニコッと笑う天宮城。女性もつられて頬が緩む。


「私は……一体?」

「覚えていますか? 何があったのか」

「そう……そうよ! 私、能力を盗られたんだわ‼」

「その話……教えて貰いたいんですが、いいですか?」


 そう言って立ちあがりキョロキョロと周りを見る天宮城。ここは交差点のど真ん中で人が一人もいない。


 天宮城の夢の中ではないのだ。


「ここでは人工物ばかりで息がつまりますね。折角ですからもっと綺麗な場所に行きませんか?」

「綺麗な場所?」

「そうですね……。空上庭園なんてどうでしょう?」

「空上庭園ってなに?」

「行ってみれば判りますよ。琥珀!」


 天宮城が琥珀に向かって声をあげるとゆっくりと琥珀が飛んできた。


「きゃあああああ!?」

「あ、大丈夫ですよ。僕の……友達です」

『友達というより一心同体だがな……』

「まぁ、そうだな」


 突然現れた巨大なドラゴンを見て体が硬直している。


「琥珀。もっと可愛いのになって」

『提案が無茶苦茶だぞ……。そうだな』


 一瞬光ったと思ったら翼の生えた馬になった。


「おお、割りといいチョイス」

『当然だ』


 嬉しそうに鼻をならす琥珀。


「えっと、これは……?」

「僕の相棒です。琥珀といいます。普段はさっきみたいなドラゴンですが、好きに形を変えられます。さ、僕の前に乗ってください。折角ですから行きましょう?」

「え、ええ……」


 半ば無理矢理に琥珀の上に乗せられる。その後ろから抱えるように乗る天宮城。


「琥珀」

『任せろ』


 翼を大きく広げたと思ったら少しの助走をつけて琥珀が空に浮く。


「わぁ……!」

「高いところお好きなんですか?」

「ええ。いい景色ね……」

「雲の上に出ます。とは言っても気温も変わりませんので気にしなくて結構ですよ」


 ばっと雲の上に飛び出る。すると、


「わぁー!」

「あれが僕の作った空上庭園です。中々いい出来でしょう?」

「凄い! 漫画みたい!」


 ゆっくりと琥珀が庭に降りる。


「花畑……」

「こちらへどうぞ」


 花畑の中心に真っ白な柱数本に囲まれたテーブルと椅子が置いてあった。


「外国みたい」

「ええ、海外を参考にしてみたんですよ」


 椅子にエスコートし、自分も斜め向かいの位置にある椅子に座る天宮城。


「お茶でもどうですか? お茶菓子もご用意しますよ?」

「本当? でもダイエット中だし……」

「ふふふ。ここは夢の中ですよ。いくら食べても太りませんから安心してください」

「夢のような場所ね」

「夢ですけどね」


 クスクスと笑いながら天宮城が空中に手を出すとポットやカップが突然に現れる。


「凄い! 手品みたいね!」

「夢の中でしか出来ない手品ですけどね」


 カップに紅茶を注ぎ、お茶菓子としてマカロンやフィナンシェを出す。


「お菓子に詳しいのね」

「周囲の女性に夢世界で食べたいから覚えろって無茶苦茶言われて。仕方なく覚えてるんですよ。こんな場面で役立つなんて思ってませんでしたけど」


 クスクスと笑いながらお茶とお菓子を勧め、自分も口に運ぶ。


「それで、本題に入っても?」

「いいわよ。私が殺されかけたことでしょ?」

「はい」

「突然家に帰る途中で名前を呼ばれたの。そしたら何か女の人がこっちをじっと見てきて……」

「女性ですか……」


 天宮城は相槌を打ちながら話を促す。


「20代位で肩まで黒髪の伸びた人で、黒のスーツ、靴も茶色の革靴だったかしら。こっちをじっと見てくるの」

「それはなんと言うか不気味ですね……」

「そう。で、何故か体が全然動かないの。金縛りにあったみたいに、声をあげたくても逃げたくても動けなかった」


 お菓子を食べながら話を進める。


「その後、もう一人男が来た。坊主頭の、多分30代の男性、上下黒のジャージで何か金属の棒を持ってた」

「金属の棒……?」

「それで、私の頭に手を置いて、ブツブツ言ったと思ったら変な感覚がして……。気付いたら棒で殴られてた」


 その時のことを思い出したのか、泣き始めてしまう。


「すみません。酷でしたね」

「ううん……いいの」


 天宮城は女性に近づいて優しく抱き寄せる。


「もう、大丈夫です。貴女の体はきっと治ります」

「ぅう……ぁああ……」

「抑える必要なんてありません。ここは夢の中で、僕と貴女しか居ない。人目なんて、どこにもありませんから」

「ああああああ!怖かったよぉ……」


 女性は天宮城の胸に抱き付くようにして泣き続けた。


 誰も居ない花畑に泣き声だけが響き渡っていた。








「ごめんね。こんな情けない大人で」

「いえ、立派だと思いますよ。それにここには人目はありませんしね」


 お茶をカップに追加して少し静かに時間を過ごす。一旦話をしない時間も必要だと天宮城は知っているからだ。


「えっと、うぶしろ君……だったっけ?」

「はい」

「君は能力者なんだよね?」

「ええ。夢を操る能力者です」

「私も能力者の筈なんだけど、使えないの」

「何の能力者なんですか?」

「物を浮かせるやつ」


 サイコキッカー。最も所得している人の数が多く、尚且つ扱いやすさでは断トツの能力である。


「レベルは、2ですかね」

「え? 測ったことないからわからないや……」

「浮かせられるものは?」

「お皿とかは簡単に。けど、重たい段ボールとか無理かな」

「2ですね」

「そうなんだ」


 流石はレベル設定している人である。話だけでレベルを当てられる。


「天宮城君は?」

「僕は……実は良く判ってないんです」

「そんなことあるの?」

「僕だけのケースです。これ世間にも公表してないので内緒ですよ」

「世間って……天宮城君有名人?」

「違いますよ。ただ、能力者協会でも知ってる人は少ないので」


 再来週には公表するのだがなるべく隠す方針は貫くようだ。


「そうなんだ」

「ええ。あ、そろそろお時間のようです」

「え? 時間?」

「夢は覚めるものですよ。それでは、次会うときは夢の外で」







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「ん……」

「龍一。どうだった?」

「割りと友好的だった。それで、聞いた話だと……」


 犯人や能力の話など粗方話し終えたところで天宮城が立ち上がる。


「どこ行くんだ?」

「ちょっとトイレに」

「……まて」

「え?」

「無理してるだろ」

「何が……?」


 天宮城が訊こうとしたとき、藤井が天宮城の肩を自分の方に引くように押す。


「え……?」


 天宮城は何をされたのかわからないまま藤井の方に倒れこむ。


「熱い……! 龍一! お前」

「……ちょっと疲れただけ」

「それでここまで上がらないだろう! お前一体何をやった!?」

「……怪我を治した」

「そんなこと出来ないんじゃなかったのか」

「出来たんだよ。俺にもわからないけど」


 深呼吸のような深く長い呼吸を繰り返す。


「夢で触れてる間だけ、力が他人にも使えた。けど、消耗は普段の数十倍……。けど、もう殆ど完治させた。起きるまで後数分だと思う」

「無茶しすぎだ。全く」

「それ……だけが、取り柄、だから……」


 天宮城はそのまま眠ってしまった。








「龍一」

「ぁ……」


 天宮城は藤井の車の後部座席で目を覚ました。


「あの後、どうなった?」

「5分くらいしてから被害者の女性が起きたよ。お前を見て大層驚いていた。本当に夢じゃなかったって」

「夢だけどね」

「そうだな。だけど彼女の心に残るものはあったと思うぞ」

「……そうだと良いけど」


 低く唸るエンジン音を聞きながらぼんやりと昔の事を考える。


「どうせなら……夢の話で終わってくれれば、それで良かったのに」

「まだ昔の事を気にしてるのか?」

「一生俺について回るだろうな」

「俺達は気にしてないって」

「俺が気にするよ……。知ってるよ、魚住さんにたまに足を見てもらってるの。傷跡なんて一生残ったままなんでしょ」


 天宮城は窓の外を見る。楽しそうに歩く人達が今は憎らしく思えてくる。


「こんなの……誰も望んでない」

「龍一……」


 俯いて天宮城はそれきり喋らなくなった。


「はぁ……お前頭はいいのに本当にバカだよな」

「……言葉が矛盾してるよ」

「煩いなぁ。誰も気にしてないんだから良いんだよ。そうやってめそめそされる方が苛つく」

「めそめそ……」

「いいじゃねぇか。皆結果的に何にも無くてハッピーじゃん。それで良いだろ。どちらにせよお前があそこで発作を起こさなくても同じ……いや、もっと酷いことになってただろうし」


 藤井は少し乱暴に運転しながら鬱憤をぶつける。


「大体さぁ、誘拐沙汰なんて何度あったか数えてねぇだろ? その内のたった一回あんなことになったってだけでお前には非はないし寧ろあるのは俺らだし」

「でも……」

「でもじゃねぇ! お前のそのもっとこう出来たんじゃないかっていう態度凄い腹立つんだよ! 俺らの保護者か、お前は!」


 その言葉に流石にカチンと来た天宮城が表情を強張らせて、


「じゃあ俺に色々押し付けたのはどこのどいつだよ! 予算が足んないどうしようだの、協会の人集めどうしようだの全部押し付けたのあんただろうが!」

「いや、それは……」

「言い逃れ出来ないぞ、秋兄! 一番最初に丸投げしてきたのあんただろう! 俺は一番上だとかなんだとか言って全部俺に仕事回してた癖に! この役立たず!」


 日頃の恨みを存分に叫ぶ天宮城。いつも皆の一歩後ろを歩いて、そのせいで面倒ごとが回ってくる天宮城だが、かなり許容範囲が広い天宮城でも鬱憤は溜まるので、それが今決壊してしまったのだろう。


 この後天宮城の藤井に対する愚痴のような説教は一時間程続いた。

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