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29ー4 絶望の先に

「改めて、カイト・シュリケ・トパーズだ。トパーズと呼んでくれ」


 天宮城に手を差し出すカイト。握手を交わした瞬間、カイトが身をこわばらせた。


「ふ、服屋。貴殿、何者だ」


 なにか不味いことがバレたのだろうかと一瞬身構える。


「手がマメだらけだ……」

「そこですか⁉」


 服を作るのは別に重労働ではない。時たま連れ出される討伐で基本はブーメランで戦うためにそれを掴んだり投げたりするときにどうしてもマメだったりは出来てしまうのだ。


 服作りの過程で出来ることもあるが。


「服作りとは過酷なのだな………」

「服作りが過酷というか、なんというか…………」


 そして、なんでもないことのように、


「貴殿、人狼族ではないな?」


 そう言った。


 イリスの表情すらも強ばっている。だが、天宮城は、


「お気付きでしたか?」

「いや、今手を握ってわかった。これでも魔力の動きを読むのは得意でな」

「得心しました」


 こちらもなんでもないことのように言ってのける。


「貴殿、マナ落ちだろう」

「マナ落ち、ですか?」

「魔力を外に排出できることのできない者のことだ」

「そうかもしれないですね」


 本当はその魔力すら持っていないのだが。ここは話を合わせた方がいいだろう。


「トパーズ様。その、自分がマナ落ちだということは」

「わかっている。広めるつもりなどない。安心しろ」


 まだ顔が少し強ばっているイリスが本題に話を移す。


「フム。個人的な意見としては断りたいが……だが貴殿にとっては朗報だ。許可しよう」

「何故個人的な意見としては、なのですか?」

「貴殿という職人を手離したくないのでな」

「そう言っていただけると嬉しいですね」


 ただ会話しているだけなのに妙な覇気が互いから発せられているように見える。


「ただし条件がある」

「なんでしょう?」

「宮廷服飾師としても働いてくれ」

「?」

「なに、祝い事の服や我々王族の普段着を仕立てて欲しいだけだ。普段の仕事の延長線上だと考えてもらえば結構。勿論金も払う」

「ええ。構いませんよ。仕事の手を抜くつもりなどありませんので」


 再び握手を交わして笑みを浮かべる両者。両方とも笑みを浮かべるのに慣れているためにその本心は全く探ることができない。


「では、失礼いたします」


 そこからは無言で歩き、城から出ると、


「ブッハァ! 恐かったぁ!」

「え、怖がってたんですか」

「当たり前ですよ! 国王様ですよ。お偉いさんと会話するなんて神経の磨り減ること望んでできませんって」

「普通に話してるように見えましたけど」

「トパーズ様が気さくに接して下さったからですね。高圧的な態度だったらちょっと僕逃げてます」


 満面の笑みでそういう天宮城。本当に怖がっていたのかも疑問である。


「じゃあ許可もいただけたことですしギルド行きます?」

「そうですね。あ、ランクはあげないほうが」

「わかってますよ。僕もなるべく安く税は払いたいですが色々とバレるのも怖いですし」


 色々と不便ではあるだろうが、魔法が使えないことだったり凛音のことだったりがバレると面倒なのでそういうことにしたらしい。


 ギルドにはいると、一斉に周りの目が天宮城とイリスに集中する。


 それを意にも返さず受け付けに向かい、ギルドカードを取り出した。受け付けには備え付けの税を納める機械があるのでそこにカードでタッチするだけである。


「イリスさん」

「はい」

「めっちゃ高いです」

「諦めてください」


 売上げの10パーセント。結構な金額になっていた。


 店が焼けたり新しく商売するところを買ったりしてしまっているので本来ならお金はほぼない。大赤字だ。


 だが、討伐系の依頼は危険が伴うぶん纏まった資金を集めやすいのでお金が完全にないわけではない。


 それを理解しているイリスだからこそ天宮城に諦めてくださいと言ったのだ。


 勿論天宮城もどうにもならないということを理解しての発言なのであっさりとそこにかいてある金額を機械に入れる。


「アレクさん、こっちです」


 結構なお値段になってしまった税金を払い終えた天宮城をイリスが呼ぶ。その手にはさきほど王城で貰ってきた許可証が握られている。


「はい、これ。ここのなかにいれて、これも入れてください」

「おお、man○caのチャージ機みたい」

「え?」

「いえ、なんでもないです。」


 某電子マネーのチャージ機のようなそれに許可証とギルドカードを入れると少ししてから両方がそのまま出てきた。


「これなにか変わりました?」

「ほら、ここ」

「あ、なんかついてる」

「ここには特殊な魔力が入ってまして、どの国でも使えるんですよ」

「ICチップか」


 妙に現代的な配慮である。便利なことには違いないのでこういうものだと受け取っておくことにする。









「アレク! 凄いわね!」

『ん。おっきい』


 部屋のなかを走り回ってそういう二人。


「イリスさん本当に凄いよな」

「ね!」


 色々と細かく注文したと思うのだがかなりの再現率だ。


「靴を脱ぐってのも理解して貰えたし」


 天宮城がイリスに頼んだ次の店舗、それは店としても使える船だったのだ。


 帆船が一般的なものだったので帆もついているが基本魔力で動かせるタイプのもので、日本円にして1億程の大金が手を離れていったがスタンピードで充分稼げたので手持ちには余裕があった。


 船でほぼ消えたが。


「あ、そうだ。商業許可貰ってきた」

「お疲れー」

『おつー』

「結構精神的に疲れたんだぞ」


 小さく笑いながらそう返す天宮城。全員なんとかなると思っていたのでこの態度なのだ。


「兎にも角にも明日から営業再開するぞ。それである程度稼げたらちょっと寄り道しながら凛音の友達に会いに行こうか」

『ん!』

「きゅい」


 凛音の友達というのは別の世界樹の精霊である。イフリートとウンディーネだと聞いているが、果たしてどんな精霊なのだろうか。


 因みに天宮城はこの一ヶ月間、休みの日でもこっそり自分の財布や売上から1000リギンを引き抜いてシーナの奴隷代金を返済していた。


 今日で貯まるはずで、今彼女は手続きが終わっているとは知らずに奴隷商に向かっている。ついこの前に放火されるということがあったのでボディーガードとして琥珀をつけている。


 勿論琥珀も完済しているのは知っているのでその際の説明その他もろもろは全て琥珀に任せた(丸投げした)


「さぁ、開店準備するか!」

「「おー(きゅー)!」」

『おー!』

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