29ー3 絶望の先に
ちまちま針仕事を続け、時には琥珀達の食料調達兼討伐に付き合わされ、一週間後。
「すっげぇ………!」
「中々の物だと自負していますよ? 中も見ますか?」
「ぜひ‼」
中に入って直ぐのところの部屋の天井を見て、
「あの照明って………」
「折角ですから同じものをご用意させていただきました」
「ありがとうございます!」
吊り照明が元々店にあったやつと同じものになっていた。店のものは壊れてしまっているのでもう手には入らないと思っていたのだが。
そもそもあの照明、天宮城が拘りに拘り抜いて選んだもので中々愛着があったのだ。
それを覚えてくれていたらしい。
「奥から居住スペースになります。ご要望通りお風呂もありますよ」
「おおー!」
部屋を周り、感嘆の声を漏らす。想像していたものよりずっといい。
「本当にありがとうございますイリスさん! 商品もある程度充実してきたのでこれなら直ぐにでも店を始められそうです!」
「いえいえ。お役に立てて何よりです」
貨幣が大量に入った袋を受け渡し、ホクホク顔のイリスと天宮城。正直、二人の笑顔がなんか怖い。
「あ、それと滞在費用です」
「いえいえ大丈夫ですよ」
「これぐらいは払わせてください。もし要らないのであればこれを作った方々を労うために使ってあげてください」
別の袋を押し付け、内装を再び見て回る。
「いやー、それにしてもこんなに機能的なものになるとは思ってなかったです。どうしても小さいイメージがあって」
「確かに、居住スペースが大きいとそうなりますね。ですが、アレクさん達の場合それほど小部屋が必要なかったのでこういう形に」
窓から外を見たりしている天宮城にイリスが、
「国王様からいい返事がいただけるといいですね」
「ですね。こんな新参者が受け入れられてる事自体が奇跡だと思ってますので、もし駄目でもそれはそれで仕方ないと思いますけどね」
天宮城はそう言っているがイリスは確信にも近い形でそうは思っていなかった。
それだけの理由があるからなのだが、それの理由を天宮城は知らない。
「それにしても、噂では放火犯は捕まったそうですよ」
「え? 放火ってなんの放火ですか?」
「え?」
「え?」
「「?」」
互いに意味がわからなくなって首を捻る。と、
「あ、ああ! うちの店燃えた件ですか!」
「それ以外に何があるんです⁉」
寧ろ忘れていたようだ。過ぎたことは仕方ない、みたいなところはあってもこれは行きすぎではないだろうか。まだ一週間しかたっていない。
「何方でした?」
「古着屋のチェーン店の御曹司だそうです」
「やっぱりそうでしたか………」
「気付いてたんですか?」
「こっちみる目が悪意に満ちていると言うか、殺気に近い何かだったと言うか」
悪意や敵意には人一倍敏感な天宮城だ。もう既に犯人に検討はついていたようだ。
「別に捕まえなくても良かったんですけどね。あ、治安的にそれはアウトなんですかね」
「アレクさん」
「はい?」
「恨んでないんですか?」
天宮城が一瞬言葉に悩み、
「シーナを泣かせた件については恨んでます」
「商品とかは」
「いくらでも作れますし、折角家買ったのに。くらいにしか思ってないかもしれないです。被害者が出なかったからですけど」
人死が出ていなければそれでいい、とでも言いたそうな言い回しだ。
まるで無関心だった。自分の店が焼かれたことにショックはないのだろうか。
「本当に、そう思ってます?」
「んー………ちょっとだけ恨んでるかもしれないですね。まぁでも立ち直れるレベルなので問題ないですよ。店舗を移転したと考えればいいだけですし」
時計をみて、アッと声をあげる。
「イリスさん! 時間時間!」
「急ぎましょう!」
ドタドタと慌ただしく出ていって、向かった先は城だった。青と白の配色の、落ちつているようで華やかな印象を与える。
「シンデ○ラ城みたいだよな……」
「え? なにかいいました?」
「いえ、綺麗だなって思って」
某夢の国に聳え立っているなんのためにあるんだろうくらいにしか天宮城は思っていないあの城である。
瓜二つ、とまではいわないが、雰囲気があんな感じなのである。
中に入るために列に並び、あらかじめイリスから受け取っておいた紹介状を警備員に渡す。
「む? 服屋のアレクか」
「ご存じなんですか? ………いや、一度ご来店してくださいましたね?」
「客の顔を覚えているのか?」
「すべてのお客様は、とまではいいませんけどある程度は頭に入っております」
フルプレートを着込んでいたのでわからなかったが、一度家族連れで来てくれた。
「一緒にいらっしゃったのは奥様とお子様ですか?」
「そんなことまで覚えているのか」
「ええ。確か子供服とピアスをご購入いただきましたよね?」
「あ、ああ。最近店がなくなったと聞いて驚いたぞ」
「ちょっとしたことで全焼してしまいまして。もうそろそろ場所を変えて再開いたしますよ」
きっちり宣伝までした。
城に入ってみると思っていたのとイメージが違った。
よくわからない鎧とか置いてありそうだと思っていたのだが、精々所々に花が飾られているくらいで、かなりスッキリしていた。
後で知ったことだが泥棒が盗まないようにという事だったらしい。
「礼は覚えていますね、アレクさん」
「はい。顔を見てはいけないんですよね?」
「声をかけられるまで王族を目に映すのは禁じられています。下手に見てしまえば最悪反逆罪で捕まりますのでお気をつけを」
なんで顔をみたらいけないのか、というのはこの世界に魔法があるからである。
魔法は手や体を動かさなくてもどこに撃てばいいのか確認さえすれば最悪簡単に放ててしまうのだ。魔力がない天宮城には無理だが。
ルペンドラスという世界樹の魔力を持っていても、それを出すための器官がない、簡単に言えば普通の人の魔力がバケツ並みだとしたら天宮城は湖並みの魔力を持っているがそれを出す蛇口がない為に魔法が一切使えないのだ。
因みに魔力はあるので勝手に魔力を吸い上げてくれる魔法の道具は使える。
「はいれ」
「「失礼いたします!」」
謁見の場というとなんだかとてつもなく広い場所というイメージがあったがパッと見ただの客室だった。
顔を見ないようにしながら跪く。片足を立て、頭を下げ、その際に背筋を伸ばす。
イリスに言われた通りに完璧な礼をする。
「名を名乗れ」
「イリス・ビリュアイトです」
「アレキサンダー・ロードライトです」
イリスが一瞬驚いたような目をした。下を向いていたので国王には見えていないだろうが天宮城には丸見えである。
そういや本名名乗ったの初めてだ、とか思った天宮城。
(ん? なんか引っ掛かる………なんか忘れ物でもしたかな?)
「面を上げよ」
言われた通りに顔をあげ、引っ掛りの意味に気がついた。
「まぁ、座れ。色々あったようだな。店がなくなったと聞いて貴殿の無事を確認するために騎士団を走らせたからな」
「そ、それは申し訳ありませんでした」
「それは役に立っているか?」
「運がいいのか悪いのか、まだ使っておりません」
「それはいいことだろう。権力に頼るのはあまりいいことではないからな」
イリスが驚いたような目で天宮城に問う。
「お知り合いですか?」
「お得意様です」
「貴殿の服は庶民向けなのに質がいいからな。今もこの服の下に着込んでいる」
それなりに偉いんだろうなぁ、くらいにしか思っていなかったので天宮城も驚いている。あのちょっと奇妙なお客様は、変わり者で知られる王様だったのだ。