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29ー2 絶望の先に

「ビリュアイト様、あの者にここに参加願いたいと言っていただけますか?」

「そういわれましても、彼はGランクです。傍聴すら認められていないランクの参加はしてはならないとおっしゃっていたではないですか?」


 天宮城達がイリスの家へ行った数時間後、イリスは質問攻めにあっていた。


「ですが、今すぐ参加していただかないといけないほどにあの店は影響力が強すぎる」

「そもそもGランクは料理自慢の冒険者が屋台を経営するためだけにあるようなランクですぞ」


 ざわつく会議室。イリスは天宮城のランクはこのまま上がらない方がいいのではないかと考え始めていた。


(アレクさんは他の人とは違う。それが周囲に知れ渡ってしまえばきっと取り合いどころではすまなくなる)


 イリスは天宮城の腰の低さも危険だと考えていた。


(あの性格だと押しきられる可能性もあるけれど、本人の意思が異様なまでに強いときがたまにあるんですよね……漬け込まれないか心配です)


 今はここにいないのほほんとしているようでたまに殺伐とした雰囲気を放つ青年のことを考えて少しため息をついたのだった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「ここは……?」

「イリスさんの家。流石に疲れてるようだったから勝手に運ばせてもらったよ」

「申し訳ありません……」

「だから仕方なかったんだって。あのとき防げてもまたいつか同じことになっていただけだ。シーナの無事で充分だ」


 手元を動かし続けながらそういう天宮城。普段ならその器用さに舌を巻くところだが、今回はその手の動きが自分のせいだとわかってしまっているので背負い込んでしまう。


「それにお金なら持ち出せたから品物さえ揃えばいつでも店を開ける。また不動産屋へ行かないとね」


 天宮城の手をシーナが包んだ。天宮城の傷を撫で、再び涙を流す。


「美しい手に傷をつけてしまいました……」

「男だからいいんだよ。これぐらいなんの支障にもならないしね」

「…………」


 天宮城は首をかしげて手を止める。


「シーナ。前にも言ったけど俺たちは対等だ。チームだ。シーナ一人が店をやってるわけじゃない。だから自分のせいで、とかはない。全てがシーナの責任であり、俺の責任であり、アインの責任。特に今回はそうだ。誰が悪いとかはない。運が悪かったんだ」


 その手から伝わってくる感情と言葉には一切の偽りがなかった。


 シーナは目を瞑って手に力を込める。すると天宮城が一瞬驚いたように目を見開いた。


「へぇ、驚いた。もう使いこなせるようになってるね」

「そうでしょうか」

「そうだよ。普通使いこなすには数ヵ月はかかるのが当たり前だからね」


 こっそりと耳打ちをするように話し始める。


「君の力はきっと魔力がない人がその代わりに持っているものなんだと思うんだ。俺は超能力って呼んでるけど、それは魔法よりも希少価値が高いんじゃないかなって」

「ですが、私は魔力の方が欲しかったです………」

「だろうね。俺もそう思ったし。けど魔法よりも超能力の方がいいっていう人だっているだろうし、それは結局経験したことがないからそういうだけなんだと思う」


 天宮城は手を離して再び裁縫を始める。


「経験っていうのは凄いと思わない? お金じゃ買えないし、マイナスになることもない。だから皆欲しがるのさ」

「そう、でしょうか………」

「そういうもんだって。魔力がない人たちがこれを知らないのは使い方を知らないからだよ」


 本当は皆平等に力はあるんだと言い、玉どめを終えて糸を切る。


「糸ってこの世界を見せていると思うんだ。縁の紐という言葉があるくらいこの世は糸で作られている。まぁ、そう仮定しよう」


 糸のたまを取り出して、


「これがこの世界だとする。一つの大きな塊のように見えるけれど、本当は細い糸が纏まったものでしかない。それは絡まったり捻れたり時には切れたりしながらも一枚の布をつくり、また別の糸で縫い合わされ服や靴が出来る」


 天宮城は青い毛糸玉に赤い糸を一本巻き付ける。


「これがたまの中に入ってしまえば消えるように見えてしまうけど、ちゃんとそこには存在しているだろ? 俺たちも同じさ。世間が存在を許してくれなくても世界は許してくれる」


 出来上がった服をシーナに手渡した。それはシーナの燃えてしまったはずのコートと手袋だった。


「いつかきっと報われる。それまで少しの辛抱だ。一本だろうが存在しているということはその意味があるんだから」


 シーナはそれを握りしめて小さくお辞儀をした。


「ありがとうございます」

「ないと困るだろ? 俺達の分はあるからさ。ほつれたり破れたりしたら持ってきてな」


 また新しく服を縫い始めながらそういった。


 シーナは、一番最初に自分の服を作ってくれたことが嬉しかった。店の商品が最優先だと言いながらいの一番にシーナの防寒具を作るところはなんとも天宮城らしいというべきだろうか。


 それから一時間後、イリスが帰ってきた。


「どうですアレクさん」

「順調ですよ。もう少しである程度の分は作れます」

「一日くらい持ちますか?」

「いや、半日くらい…………」

「これだけあって半日ですか…………」


 積み上がった服の山。これで半日ぶんとはいったいどれだけの売り上げなのだろうか。


「あ、そうでした。アレクさん、商人ギルドではランクを上げない方がいいかもしれません。アレクさんはよくも悪くも異質ですから、今回のように危険が迫るかもしれません」

「目立つのも困りますもんね………でもそれじゃあ他国へ行くランクまで上がらないじゃないですか?」

「それなんですが、直接国王様に謁見してこればいいのでは」


 そんなに簡単に出来るのか、と首をかしげる天宮城にイリスが苦笑する。


「その気持ちもわかりますよ。中々いない王族ですから。変わり者で有名なんですが、平民でも下に見ない良い王様ですよ」

「そうなんですか」

「はい。それから提案なんですが」


 イリスが言ったのは天宮城が想像にもしていなかったことだった。


「え、それ良いんですか」

「やっている人も居ないわけではないですよ」

「へぇー。でもそれだと移動が楽ですね」

「そうですね。税金は少し多くなってしまいますがアレクさん達なら問題ないと思いますよ」


 税金が上がるということに一瞬躊躇った天宮城だったが、それ以上の利点があったためにイリスの話に乗った。


「それ、いったい資金はどれくらいかかりますか?」

「そうですね、大体300万くらいでしょうか」

「300万ですか。中々かかりますね」

「でもアレクさんなら狩ってこれるのでは?」

「できますけど、あんまりやりたくないんですよね」

「そうなんですか? でもそうするなら狩るしかないですよ」

「それ、最終手段にしときます………」


 イリスの手には何らかの冊子が握られていた。いつの間に。


「こんな感じのものから、あ、こういうのもあるんですね」

「どうです?」

「時間はどれくらいかかりますか?」

「そうですね、うちの従業員フルで使って一週間でなんとか出来ますよ」

「そんな、それは悪いですよ」

「いいんですよ。アレクさんとは今後も長いお付き合いになりそうですから、先行投資で」


 商人って怖いな、等と思いつつイリスと握手する天宮城。方向性は、決まったようだ。

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