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27ー2 夢の力

 女性が警備員となにか怒鳴りあっている。が、風が強い上に距離も離れているためになんと言っているのかは聞き取ることができない。


「本当に出来るの⁉」

「方法はある。やったことないから一発勝負だけど」


 琥珀にアイコンタクトをとっている所を見ると、琥珀が関係してくるらしい。


「あ、前やってた足場作るやつ?」

「あれ、カードが貴重で数回分しか無いんだよ。ここからじゃ足場作っても届かないし、届いても足場がすぐ消えるから多分一緒に落下するだけ」


 カードはあの時から数枚新しく作ったのだが、天宮城しか使えないという特性上需要があまりなく、その上一枚作るのに三日はかかるので中々枚数も増やせない。


 最終兵器はギリギリまで持っておきたい。


「っ、落ちた‼ 琥珀!」


 その瞬間、天宮城が窓枠を蹴って外に飛び出した。琥珀が一瞬で巨大化し、馬ほどの大きさになる。体の周りでは鱗粉のように黒いオーラが纏わりついている。


 その上に、天宮城が乗った。それで水野は気がついた。


 通り抜ける筈なのに、と。


 琥珀は翼を大きく広げて一気に加速する。弾丸のように飛翔し、女性を天宮城が受け止めた瞬間にUターンして戻ってきた。


 窓枠についた瞬間、琥珀が小さくなりゼェゼェ言いながら天宮城の肩に戻った。天宮城も女性を抱えたまま、荒く息を繰り返していて、今にも倒れそうなほど顔色が悪い。


「大丈夫⁉」

「なん、とか………」


 顔色は悪いが、表情はホッとしていた。女性は落ちた瞬間に気絶したようだ。


「ごめん、ちょっと疲れた………この人、任せてもいい?」

「ええ。ゆっくり休んで」


 琥珀が既に横で寝ていたので天宮城も眠いのだろうということに気づいていた水野がそう言うと、天宮城はベンチの後ろの壁に凭れて気絶するように眠った。


 今の何が大変だったのかはよくわからないが、相当キツいものだったようだ。他人の前であまり無防備にならないように気を付けている天宮城が寝てしまうくらいには大変だったらしい。


 水野は天宮城の頬に手を当ててみた。


「あっつ⁉」


 火傷するかと思った、とまではいかないがとんでもなく熱い。水野は天宮城の上着を脱がして女性に掛けた。温度差的にはこれくらいが十分だろう。


 すると、女性が目を覚ました。


「え………私、死んだの………?」

「生きてるわよ」


 まるで先程とは人が変わったかのように落ち着いている。


「えっと、私………屋上に行って……落ちた気がする」

「落ちたけど、この人が助けたの。後でお礼言った方がいいわよ。かなり疲れてるみたいだから」

「助けた………?」

「後でこの人に直接聞いてみればいいわ。それよりも何で飛び降りたの?」

「覚えて……ないんです。気づいたら落ちてて、ここにいました」


 すると突然天宮城が起き上がった。顔色は幾分か良くはなっている。


「龍一君、起きてたの?」

「今さっき起きた。まだ少し怠いけど、動けないほどじゃないから」


 ヒラヒラと手を振って大丈夫だとアピールする。肩の上では琥珀が死んでいるかのようにぐったりしているのでそうでもないのだろうが。


「それで、覚えていないって言いましたか?」

「は、はい。なんか途切れ途切れで」

「そんなことってあるの?」


 考え込む天宮城に水野がそう聞くと、


「俺もハッキリとは見てないんだけど……ここを通り過ぎるとき、なにか見えたんだ。今見てみたけど本人に能力はなさそうだし」

「誰かがやったってこと?」

「の、可能性が高い。ちゃんと見てれば良かったんだけど」


 かなり薄着なのにそれを気にもしていないような素振りで話す天宮城。実際に気付いていない。


「青い波長だったと思う。精神干渉系の能力だ」

「屋上に行って飛び降りろ、みたいな?」

「超能力でもそこまではできないよ。精々が信号の認識を誤らせて交通事故を起こさせる、くらいのことしかできない。それに青い波長は見えやすいから俺達の目が届かない場所にいるとは考えにくい」


 片目を瞑ってため息をつく。


「調べないとな………警察には直接青系能力者に注意してもらうように言ってみる。どうせそろそろ協会に来る頃だし」

「定期的に来るんだっけ?」

「最近事件多いから頻繁に来るんだよ。第二部隊はあんまり活動してないからまだいいけど、書類とか面倒なの全部俺が片付けてるからな………」


 相変わらずの苦労人だ。


 女性が怪訝な目で天宮城を見て、


「あの、今更ですがあなた方は………?」

「っと、申し遅れました。僕は能力者協会で勤務している天宮城です。こちらは同じく協会所属の水野さんです」

「ふぁあ、能力者の方ですか………私は化粧品会社の社員で日比谷と申します」


 名刺を貰ったので名刺入れに入れておく。


「それで、私を助けてくださったと聞いたんですが」

「ギリギリでしたけどね。助かって良かったです」


 バタバタと複数人の足音が聞こえる。


 天宮城は面倒な臭いを一瞬で嗅ぎ取って寝たふりをした。


「え、龍一君?」

「君達、そこを動くな!」


 警察っぽい人が入ってきた瞬間、水野は初めて天宮城に狡い、と内心で思った。


「話を聞かせてもらうよ」

「えっと、その……」


 寝ている演技をしている天宮城はかなり影が薄くなっており、その存在に誰も気がつかない。


 やはり演技に関しては天性の才能を持っているようだ。残念ながら使い方が酷いが。









「やっと解放された…………」


 警察からの圧力を感じながらの状況説明はかなり疲れた。


 因みに天宮城の存在は最後まで気がつかなかった。


 本人に死ぬ意思はもうないと何度も言って、実際にそんな感じだったので厳重注意ですんだ。


 能力者関連の話をしたら相手もよくわからないようで、うまい具合に質問を避けてとおれた。


「お疲れ様」

「本当に酷いよ」

「ごめんって。休みの日まで仕事したくないし………」


 目が死んでいる。ここまでくると天宮城が可哀相だ。


 因みに日比谷は詳しく事情を聞くために警察官が連れていった。


「それで、寝たふりしてまで考えたかったことがあったんじゃないの?」

「まぁね。まだ確証はないから言わないでおくよ」


 もう大分犯人像が浮かんできている様子である。天宮城の顔色はもうほとんど元に戻っていた。


 体温も平熱くらいまでには下がっている。


「二人とも、ごめんねー………? どうしたの?」

「いや、なんでもないです」

「うん、なんでもないよ」


 真横で起こっていた事件をなにも知らない小林の様子に小さく笑いながらことの顛末を話したのだった。

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