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27ー1 夢の力

「こっち?」

「多分」


 進んでみると、見知った顔がいた。


「あ、水野さん、天宮城君!」

「ひなたちゃん」


 手を振る方に行くと、小林が青い少し露出の高い衣装を着て、そこにいた。


「どうしてここが? 下で連絡つけるようにしようと思ったんだけど」

「琥珀が見てきてくれたんですよ。こいつには壁とか関係無いですし」

「そういうこと」


 天宮城の肩の上で胸を張る琥珀。そこで水野が、


「あれ? 床とかってすり抜けないんじゃないんだっけ」

「なんか物によるんだ。俺にもよくわからないけど」


 割りとアバウトだった。


「今撮影の休憩中なの。終わったら遊びにいきたいな、って思って呼んだんだけど待っててもらっていい?」

「はい。勿論」

「いいよ」

「やった! あ、休憩終わっちゃう。ちょっと時間かかるけど、待っててね」


 慌てて戻っていく小林に苦笑しながら天宮城と水野は近くのベンチに座り、自販機で買った珈琲を飲む。


 撮影の邪魔は出来ないし、中に入るのも色々と許可が必要なのでここで待っていることにしたのだ。


「それにしても、小林さん大変そうな………」

「ね。芸能人って色々と凄いと思う」

「俺もそう思う」


 芸能人ではないが有名人に片足を突っ込んでいる天宮城は他人事ではないのだが、今のところ認知度は低いためにこんなことが言っていられる。


 今が一番楽な立ち位置なのかもしれない。


「ねぇ、龍一君」

「ん?」

「藤井さんから昔のこと聞いたんだけど、龍一君の能力って結局どんなものなの?」

「まーた勝手に喋ったな、秋兄………」


 はぁあ。と大袈裟にため息をつきながら肩をすくめ、


「俺もよくわかんない」


 困ったような表情でそう言った。


「夢を作る能力なんでしょ?」

「うーん………一言でいうとそうなんだけど、多分もうちょっと別のものなんじゃないかなとも思うんだ」

「というと?」

「みいなってわかる?」

「亜空間作成の」

「そう。あれと似たようなものなんじゃないかなって」


 缶を傾けながら言葉を選びつつ、一言一言ゆっくりと話す。


「みいなのは現実世界に作るけど俺は全く別の………精神空間とでも言おうか、それを作ってるんじゃないかなって。中々使いづらい代わりに出来ないことはほぼない。みたいな」


 言ってて自分でもよくわかんないけど。と笑いながら、


「だから山を消し飛ばすとかそういうことが出来るんじゃないかなって。自分の世界に他人を引きずり込んでいる状態にするから」

「なんでも出来る場所を現実にするから?」

「そういうこと。よくわかんないからなんとも言えないけどね」


 飲み終わった缶をぽいっと放り投げると、それは自動販売機の角にぶつかって綺麗にゴミ箱に吸い込まれていった。


「あ、凄い」

「なんかこういうのも出来るようになっちゃったんだよね。何が能力なのかわかんないや」


 その瞬間、ピタリと動きを一瞬止めてから顔をあげて辺りを見回し始める。


「どうしたの?」

「怒鳴り声と走ってる音がする」

「?」


 数秒後、バタバタと何かが走るような音が聞こえてきた。


「どいて!」


 女性だった。汚れたスニーカーを履いて、汗を滲ませ息を乱しながら走り去っていった。


「え、なに?」

「テレビ局でマラソンとかやってるんじゃない?」

「あー、なんかの番組でやってるって聞いたことあるかも」


 芸能人がテレビ局を出発点としてぐるっと一周して帰ってくる、あれである。


「君達!」

「え、あ、はい」

「ここでなにをしてるんだ⁉」

「友人がここで撮影をしているので、それが終わるの待ってます」

「そうか、では今ここを走っていた人は見たか」

「女性ならあっちに走って―――」


 行ってしまった。


「ねぇ、これ本当にマラソンなの? 警備員も走るの?」

「コスプレした人が走る企画っていうのも見たことあるけど」

「そんなのあるんだ」


 納得する。天宮城が突然、


「じゃあここに立ってない方が良いんじゃない? 撮影の邪魔にならないかな」

「それもそうね。ちょっと邪魔にならないところに行きましょう」


 テレビカメラがない時点で色々とおかしいことには誰も気付いてはいない。


 するとゾロゾロと警備員の集団が先程の二人の通った道を走っていった。


「全員が全員警備員コスってあるのかな」

「そういえばカメラも一台も見ていないしね」


 ようやく異常性に気がついた様子である。


「………?」


 天宮城が首をかしげ、窓の方に歩いていく。そして目を見開いて水野を手で呼んだ。


「水野さん! あれちょっとやばくない⁉」

「撮影じゃないの⁉」

「マットとかないよ⁉」


 屋上の柵の裏側に女性がいる。先程走っていった人だ。柵の裏側、つまりもう一歩踏み出せば落ちる。


 この高さで落ちたら命はないだろう。


「水野さん、あの人なに考えてるか見える⁉」

「えっと、えっと、遠くて見えない!」

「双眼鏡あるから!」


 何故双眼鏡を持っているという突っ込みは後回しにしてそれを使って女性の肩を見る。


「何回も下と屋上を見てる。ただ、顔は凄い思いつてる感じ」

「不味いな。俺にもわかるぞ」


 撮影の雰囲気ではない。しかももう一歩踏み出せば落ちるといった場所。ビル風も相当強いので足を踏み外してうっかり落ちてしまうことも考えられる。


「龍一君、どうしよう」

「どうしようって俺に言われても………何とかする方法はいくつか考えれるけどどれも割りと不確かだし、煽りかねないのもある」


 窓のそとから視線を外さないままに窓を開ける天宮城。勝手に開けていいのかと一瞬思った水野だが、一応黙っておく。


「なんで龍一君はわかるの?」

「なんとなく。同類って感じがする。けど、まだ生きれる感じだから死なせるわけにはいかない」

「なんでわかるの」

「目を見ればわかるよ。本当に参ってるなら直ぐに跳ぶだろうし、何よりまだ迷っているようだから」


 窓枠に足をかけながら身を乗り出す天宮城。


「ちょ、なにやってるの」

「もし落ちたとき対処しに行けるようにするだけ」

「できるの」

「受け止めるくらいなら」


 そんなことになど勿論なってほしくはない。だが、まだわからないのだ。

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