表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/237

3ー3 何のために

「まぁ、気を付けるよ」

「そうしておいてくれ。いつどこで狙われてるかわからないからな……。もうこっちに住んだらどうだ」

「そうなんだよね……昨日二回も手を掴まれたし」

「? どういうことだ?」


 天宮城は昨日の事を二人に説明する。


「本能的に気付かれる、ってこと?」

「そうみたいだ。これなんとかならないのかな……」

「そうは言っても心臓に繋がってるんじゃ手術も意味がないし」


 最近よくこの話してるなぁ、と他人事のように考えつつ天宮城が徐に時計を見る。


「わっ! 一時間目始まる!」

「そういえばそんな時間だな。龍一。今日中に荷物を纏めておいてくれ。早めに引っ越さないと危険だからな」

「……うん」


 天宮城が出ていくのを見ながら二人が大きく溜め息をつく。


「秋兄。やっぱりこれ、りゅうを狙って来てるよね」

「だな。俺たち全員って言ってはいるものの龍一が目的だろうな。珍しい能力を幾つも持っててしかもあの石だ。それと、知ってるか?」

「能力者狩りでしょ」

「そうだ。俺達は世間に自分自身を公開してるから襲われないだろうけど龍一は誰にも知らせてないからなぁ……」


 盛大な溜め息をつく二人だった。








「龍一。さっきのなんだったんだ?」

「先生に呼ばれたやつ?」

「そうそう。進路の話?」

「就職の話かな」


 大筋では外れていないだろう、と考えつつ適当にそう答える天宮城。


「そっか。ねぇねぇ、能力者狩りの噂知ってる?」

「能力者狩り? 物騒な噂だな」

「なんでも能力者が次々と行方不明になってるんだと」

「あ、私聞いたことあるよそれ!」


 突然周囲が話に入ってきた。


「俺もある。人体実験させられるんだろ?」

「ネット上で大騒ぎになってるやつでしょ?」


 本当に物騒な話である。


「ま、俺達は能力持ってないから関係ないけどな」

「だな!」


 ここに一人ガッツリ能力者が居るのだが。自分の事を誰かに悟られぬよう気配を消すのはお手のものである。


「そんなことより皆宿題やった?」

「「「あ」」」


 天宮城の言葉で全員現実に引き戻された。








「龍一。送るぞ」

「近藤さん……。凄い気持ちは嬉しいですし、送っていただけるならそうして貰いたいんですが。怖がられるので正門はちょっと」

「……すまん」


 天宮城が正門を出ようとしたときに近藤がいつものサングラス姿で出迎えてきた。近くに高級車が停まっていて運転手までついている。


 過保護すぎると感じながら人気のない場所まで一旦歩いてから車に乗る。


「突然どうしたんですか? あ、今朝の怪盗のやつですか」

「ああ。龍一は世間に知られていないからな。拐われても大騒ぎまで発展しない為に先に狙われる可能性があると思ってな」

「それはどうも。ですが、流石にあんな感じで校門前に立たれると嫌でも関係性が見えてしまいますので……。今日は人が殆どいなかったから良かったですが」

「すまん」


 やんわりと言ってはいるが要約すると、あんた顔恐いし能力者ってばれるの嫌だからせめて隠れてやってくれ、というちょっと自己中心的な発言だったりする。


「今日中に移動した方がいいですかね」

「そうだな。荷物は?」

「もう纏めてあります」

「早いな。流石だ」

「いえ。……皆の尻拭いするために早く動く癖がついてるだけですよ……」


 天宮城、働いてもいないのに気苦労が耐えない男のようだ。


 そうこうしている内に天宮城の自宅に到着した。近藤と二人で荷物を取りに行く。


「龍一。その、……すまんな」

「なにかありましたっけ?」

「龍一は協会に入ることをあんなに拒んでいたのに、なし崩し的に入らせてしまった……」

「ふふ。もうそれ大分今更ですよ。僕があんなもの見付けたからこんなことになったんですし……。自業自得ですよ」


 天宮城は部屋にあがり、スーツケースと幾つかの鞄を奥から取ってきた。


「これだけか?」

「はい。後は売りましたし、基本極貧なもので元々家具が幾つかあるだけの部屋みたいなものですし」


 悲しい貧乏生活である。


「ま、まぁ、行くか」

「そうですね」


 本人気にしていないので良いのかもしれないが。


 二人は車があった場所に来たのだが何故か車がない。


「あれ? この辺でしたよね、降りたの」

「その筈だが……。電話してみるか」


 近藤はスマートフォンを弄って耳にあてる。


「駄目だ。繋がらない」

「繋がらない? それって――――」


 天宮城が近藤にそう言いかけたとき、なにかに気づいて近藤の服を思いっきり引っ張りながら後ろに大きくジャンプする。


 すると、スーツケースになにかが激突してスーツケースが大きくへこんだ。


「っ!」

「これは!? 龍一!」

「近藤さん。誰かいます。確実に僕等の敵、でしょうね。少なくとも味方ではない」


 天宮城は冷静に格闘技の構えを取る。その視線は街路樹の先に向けられている。


「何方ですか? 能力者ですよね」

「判るのかい?」


 低く、比較的若い男性の声が周囲に響く。


「龍一。能力は判るか?」

「見たことがない波長です。新種の能力でしょうね」

「ほう。目は節穴ではないようだね」


 街路樹を挟んで背の高い仮面を着けた男が出てきた。


「近藤さん……。ちょっとヤバイかも」

「龍一?」

「多分戦闘系の能力者だ。近藤さんも俺も非戦闘系だし、分が悪すぎる」

「同調は?」

「無理だ。最低でも30分はかかりそうだからシックスではあると思う。けど、何だ、この波長……! 気持ち悪くなりそう」


 相当焦っているのか額に汗を浮かべ、敬語が無くなった。


「貴方……何者ですか? まるで能力が混ざってるみたいに滅茶苦茶な波長だ……」


 天宮城が頭を押さえながらそういうと男がパチパチと拍手をする。


「まさかそこまで判るとはね! でも僕の事、粗方の予想はついてるんじゃないかな」

「怪盗、Y」

「その通り!」


 再び拍手をする男。近藤が天宮城を守るように前に出る。


「改めまして、怪盗のYと申します。君を頂きに参りました」

「人の趣味にとやかく言うつもりはありませんが、何故そんなことを? 教えていただけませんか?」

「簡単さ。美しいものを集めるのが僕の生き甲斐でね。能力も例外ではないというだけ」


 男は足音をたてずに近付いてくる。それを見ただけで相当盗みの技術を極めているのだと窺える。


「本当だったら能力だけを抜き取って君達自身はどうでも良かったんだけど、君中々綺麗な顔してるよね。気に入っちゃった」

「それはどうも。ですが、お断りさせていただきます。僕もまだやることがありますし、近藤さんにもお仕事が残っています。それで、こんなときになんですがもう少し後にしませんか?」


 天宮城が突然誘拐犯に交渉し始めた。


「二週間。二週間待ってください。その後でなら好きに襲っていただいて構いません」

「何で二週間だい?」

「ご存じかとは思いますが僕は高校生です。周囲には能力を隠しているので突然学校に行けなくなったりするのは困るんです。同級生を巻き込みたくないんです。ですからかなり勝手ではありますがもう少し待ってて頂けませんか。せめて、卒業まで」

「はははは!」


 腹を抱えて男が笑い出した。


「はは! いいよ。どうせ今日は様子を見に来ただけだし。但し、逃げるのは無しだよ? それと、僕の事を他の人に話すことも。破ったら即捕まえに行くからね?」

「勿論です。約束は守ります。そちらも守っていただけるなら、ですが」

「いいよ。君面白いし。ちょっと時期が延びるだけなら」


 心底楽しそうな声色で仮面の男が言う。


「それと、僕の学校の友人や先生には一切の手出しをしないでください。二週間が過ぎても」

「へぇ? 隠し通す気なんだね」

「いつかバレるでしょうけど、こんなことには巻き込みたくないので」

「僕が襲われた場合は?」

「その時は破棄していただいて構いません。その辺り自己責任ですので」


 構えを解いてわざと隙だらけの様子で天宮城は男と交渉する。震え上がってもおかしくはない場面でよく堂々としていられるものである。


「じゃあまた来るよ。次会うときが楽しみだよ」


 突風が周囲に吹き荒れる。近藤と天宮城が目を開けたときにはもうそこには誰も居なかった。


「ぅ……」

「龍一!?」

「大丈夫です……。ちょっと気を張りすぎただけですので……」


 天宮城の足元が覚束無い。気を張りすぎただけでこうはならない筈だ。


「! 酷い熱じゃないか!」

「ちょっと力使いすぎました……。体に熱が籠ってるだけですから、大丈夫です……」

「大丈夫じゃないだろう! 魚住さんの所へ行くぞ!」

「大丈夫ですって……。数時間もすれば、治りますし……」

「行くぞ!」


 天宮城の話を完全に無視して天宮城を背に背負い、潰れたスーツケースや散らばった幾つかの鞄をかき集めて近藤はタクシーを拾いに奔走した。


 容姿が恐すぎて中々停まってもらえなかったのは言うまでもないだろう。








「近藤さん? と、龍くん!?」

「龍一の熱が下がらない。何とかしてくれ」

「だから……。時間が経てば……」

「はい! ここに! ベッドに早く寝かせて!」


 天宮城の声は誰にも届かないようである。


「これは……! 龍くん。またやったね?」

「……やりましたね」

「あれほど急激に体温を上げるなって言ったよね」

「……言われましたね」

「なんでこんなことしたんだい?」

「……波長が気になる人がいたんです。あれは……なんだったでしょうか、色んな能力が無理矢理くっついてるみたいな波長。ちょっと集中して見てしまって」


 天宮城は嘘が嫌いで、嘘をつくことも嫌っている。なのに、嘘をついている。その事に近藤はとても驚いた。


「もう。駄目だって言ったよね?」

「すみませんでした」

「全く。冷やすもの持ってくるから待ってて」


 呆れた様子で魚住が部屋を出ていった。


「……龍一」

「いいんです。これで」


 有無を言わさない声色だった。天宮城は少し荒い息をしながら近藤を目だけで見る。


「暑い……。ちょっと疲れました……」

「……何をしたんだ?」

「能力の波長を急激に体に馴染ませようとすると体温が急激に上がるんです。あの人の波長は……僕には強すぎる……」


 深呼吸するような呼吸を繰り返す。大分落ち着いてきたようだ。


「何故波長を合わせようと?」

「もし戦闘になったら戦えなくても能力を相殺することくらいはやらないと危険だと感じまして……。あの人、何かがおかしい……」


 天宮城に鞄で風を送る近藤。鞄の面積小さすぎて殆ど意味がないのだが。


「龍くん。これ、太い血管の所に置いて……ああ! 僕がやるよ」

「何か企んでませんか……?」

「た、企んでなんか! 龍くんに合法的に触れる事が出来るとか考えてないから!」

「「………」」


 焦りすぎて全部喋ってしまっている。もう呆れるしかない。


「ほ、ほら。腕あげて」

「はぁ………」


 触れる時間が妙に長いがもう天宮城は気にしなくなってきた。この人はこうだから、と。


「大分下がってきたね」

「随分楽になりました……。ありがとうございます」

「まだ駄目。37度はあるんだから」

「最初40度位まで上がってましたか」

「そうだね。39度8分。充分高熱だよ」


 天宮城は時計を見る。


「あ……。バイト……。まだ間に合うけど……」

「駄目に決まってるでしょ。今日は少なくとも安静に。一時的とはいえ高熱だったからね。細胞もかなり死滅してるし」


 天宮城の目に魚住の能力の波長がぼんやりと見える。


「よっぽどの事がないとここから出る許可出さないからね」

「うう……」

「自分で撒いた種でしょ」

「そうですね……。店長に電話します……」


 鞄からスマートフォンを取り出す。液晶に大きくヒビが入り、機体がボロボロになっている。


「「!?」」


 攻撃を受けたとき、スーツケースが犠牲になったのだがその時スーツケースの上に鞄を乗せたまま歩いていたのでこれも餌食になっていたのだろう。


 近藤と天宮城が焦る。魚住は不思議そうに携帯を見つめている。


「落としたの?」

「そうなんですよ。荷物の整理してたときにスーツケースとかの下敷きにしちゃって」

「へぇ」


 嘘は言っていない。もしかしたら吹き飛ばされたスーツケースの下敷きになって壊れたのかもしれないという可能性があるからだ。大方最初の攻撃だろうが。


「それにしては綺麗に全面割れてるね」

「偶々ですよ。偶々」


 冷や汗をかきそうになりながらスマートフォンの電源をつける。


「あー。やっぱり反応しないか……」


 一応電源は付くが触っても反応しない。機体を取り替えるしかないだろう。


「すみません、公衆電話行ってきます」

「俺も行こう」

「逃げないでねー」


 小銭を制服のポケットに入れて診察室を出た天宮城を送り出した直後、魚住の顔から笑顔が消えた。


「全く……。何かあったな、あれは。しかも絶対に話さない……。秋人君に報告しておくか……」


 天宮城が体に当てていた氷水の袋を回収する。ニヤリとその顔に笑みを浮かべる。


「フフフ……。困った子だ。……本当に面白い」


 結露で滴る水も気にせずに新しい氷を補充しに歩いていった。








「ええ、そういうことでお休みしたいんですが」

「熱? 大丈夫?」

「はい。もう大分下がったので。ですが医師からは絶対安静と言われました……」

「無理しなくていいのよ。わかった。お休みにしておくわね」

「はい。すみませんでした」


 店長に公衆電話で電話をかけ、休む旨を伝えると大いに心配してくれた。


「良かったな」

「はい。早く戻らないと、魚住さんが面倒くさくなりそうですね……」

「だな。行こうか」


 天宮城は協会の長い廊下を近藤と歩きながらふと出会ったときの事を思い出して少し笑った。


「どうした?」

「いえ、近藤さんと初めて会ったときも廊下だったなぁ、と」

「ああ、6年前か」

「ええ。あの時は驚きましたよ。突然、変な力を持ってるっていうのはお前か! って学校に怒鳴り込んできたので」

「あれはすまなかった……。突然自分の力が覚醒したものだから気が動転していてな……」


 どんな出会いだ。この時、天宮城はあまりの見た目の凶悪さに泣いたらしい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ