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26ー2 不思議な来客

「では、これは?」

「それは服の中に着る服です。インナーと言いますが、要するに下着です。汗を吸収しやすく、また服を重ねて着ることで寒さを防いだりしやすいですね。貴族の方ですとやはり重い服を何枚も重ねることも多いとは思いますが、働いているほうからすれば寧ろ動きづらくて邪魔ですからね。こういった薄いものがよく売れるんです」


 そう、この店では何故か下着の売れ行きが好調なのだ。キャミソール等の物は数枚買っていく客も多い。


「ふむ、どういうのがいいのかわからんな」

「お客様の場合ですと、よく鍛えてらっしゃるご様子ですので、少し幅の広い服の方がいいのではないでしょうか。ピッタリすぎても動きづらいことはよくあります」


 今見て気が付いたが、ボディビルダーのようにムキムキである。普通のTシャツ等を着ても腕がギリギリになりそうだ。


「例えばこれとか、これとか。寒いならこういった上着もお勧めですね。因みにこれは裏と表で色が違って、ひっくり返して着ることもできるんですよ」


 表が茶色で裏がクリーム色のどちら側からでも着れるタイプのジャンパーを取り出して男性の前に並べる。


「こっちの生地の方が暖かいので普段は茶色を表にして、何らかの理由で汚れたり暑くなってきたときはひっくり返してクリーム色の面で着ることもできるんです」


 ひっくり返したりして見せながら笑顔で説明する天宮城。もう完全に商売人になってしまっているようだ。


「おお、これはいいな。暖かいし楽だ」

「はい。少し大きめに作ってあるんです。部屋着としても便利ですよ」


 意外とゆったりしているそれを何度も裏返したりしながら着る男性。


 本当に服が好きなようだ。


「それはマフラーか?」

「はい。ストールとしても使えますよ。首に巻いてもよし、肩からかけてもよし、重ねれば膝掛けにもなります。首に巻くものなので柔らかい生地を使用しておりまして、少々値は張ってしまいますが、暖かさは抜群です」


 チェック柄のマフラーを見せながら、近くの小物を手で示して、


「また、こちらの小物類でアレンジすることも可能です。お客様の中にはお揃いで色違いのバッジを購入し、マフラーの端につけてくださる方もいらっしゃいますね。それからほんの少しお時間と追加料金を頂きますが、ご購入いただいた服等のものに名前や言葉を刺繍することも可能です。この間は恋人の名前を入れてくれと言われましたね」


 場所さえあれば刺繍は今すぐにでもできる。


「勿論、なくさないようにと自分の名前をいれる方も大勢いらっしゃいますし、そこまで多くなければ大抵の言葉ははいります」

「では、『いつもありがとう』などは?」

「勿論可能ですよ」


 少し考え込むようにして、男性が下を向く。天宮城も買う気がなさそうな商品を棚に戻していった。


 その後、男性が顔を上げて、


「では、この服とそのいんなー? を三枚、そのマフラーを一本買おう。マフラーに『いつもありがとう』と刺繍して貰えるか?」

「はい。かしこまりました。では、刺繍の色は何色にいたしましょう?」

「そうだな、青で頼めるか?」

「かしこまりました。では今やってしまいましょうか。どの辺りがご希望ですか」


 少し話し合った結果、青色の刺繍糸で裏地の一番端に『いつもありがとう』と書くことになった。


「失礼いたします」


 ポーチから針の状態の神解きと糸を取り出し、その場で縫い始めた。恐ろしいスピードだが、機械でやったかのように正確である。


「いい腕だな」

「ありがとうございます。これでよろしいですか?」

「うむ。すまないな」


 刺繍分もプラスしてお金を払ってもらい、丁寧に袋にいれる天宮城。それを見た男性が、


「そこまで丁寧にやるのか」

「買われた時点でこれはお客様の物ですしね。それに、服は消耗品ですから。作り手からとしてもできるだけ長く使っていただきたいのです」


 でないと作った意味がない。天宮城は綺麗にシワを延ばして袋にいれてそっと渡す。


「お買上ありがとうございました。ジャンパーとマフラーは破れた場合、一度ならこちらで無料修復いたします。またいらしてくださいね」

「うむ。良い買い物をした。また来よう」

「ありがとうございました」


 店を出ていく頃には大分店のなかは暖まっていた。


 この後、なぜ休みの日なのに店を開けたのかとアインにしこたま叱られた。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「えっと………あ、ここだよね」

「だね。まさかテレビ局とは………」


 小林から渡されたメモには何故か住所だけが記されており、「そこがどこか調べずに来てくださいね」と言われたために何度か道に迷いかけ、ようやく見つけたのが、テレビ局だった。


「なんでテレビ局? なんかイベントとかやってたかな?」

「うまいもんフェアってやつじゃない?」

「え、そんなのあるの?」

「朝の情報番組でやってたけど、見てない?」

「あー、テレビをつけてないかな……」


 正直テレビを見る時間より書類に目をやっている時間の方が圧倒的に長いと思う。


「とりあえず中入ろうか」

「そうね」


 よく暖房の効いたテレビ局内はある程度まで観光することができるようになっており、売店も割りとたくさん見える。


 協会の半分程の大きさの局内は窓が多く、照明無しでも十分な明るさが一定に保たれているようだ。


「水野さん。四階っぽいよ?」

「なんで?」

「琥珀が見つけてきた」


 そういえば琥珀がいつもの定位置にいない。


「どこから?」

「ここ窓多いでしょ? だから外から見えたんだよ。あ、帰ってきた」


 パタパタと真ん丸とした体を支えきれているのが不思議なほど小さな羽を動かして飛んできた。大分息が切れている。天宮城もちょっと走ってきたかのように息を少し乱していた。


「琥珀ちゃんが疲れてるから龍一君も疲れてるの?」

「あ、ああ、うん。そうだよ。感覚が繋がってるとこういうの厄介だよね」


 苦笑しながら肩を前に出すと琥珀がゼェゼェ言いながら天宮城肩に乗ってそのままうつ伏せで寝転がった。


 一歩も歩きたくない。そんな感じである。


「全く………行こうか、水野さん」

「ええ」


 エレベーターに乗って四階まで行く。天宮城はふいに水野の肩を見て、


「えっと、確かリスだったっけ? 名前つけたの?」


 見えていないのでそこにいる気がする、といった感覚しかないのだが。


「あ、うん。さっちゃんっていうの。ささみ」

「ささみ」

「うん。ささみに異様に反応してたから」


 鶏肉のささみ肉である。天宮城と負けず劣らずのネーミングセンスをお持ちのようだ。


「特性は見つけられましたか?」

「ううん。まだ。よくわからなくて」

「あせらなくても大丈夫ですよ」


 特性というのはその内獣の得意なことや能力である。琥珀だとバク、夢に入り込むことが能力といえる。


 さっちゃん………ささみはまだ不明のようである。

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