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25ー1 シーナを選んだ理由

「どう? 馴れてきた?」

「はい」


 レジの前にたってほぼノールックで手元を操作するシーナ。ちょっと慣れすぎてて逆に怖い。


「夕飯何にしようかな………」

「………先程昼食を終えたばかりでは?」

「いやまぁそうなんだけど。あいつらに何がいいって聞くと『美味しければなんでも』って言うんだよ。難易度高すぎるだろう」


 なんでもいいではなく、美味しければなんでもいいのだ。要するに美味しくないと嫌なのである。


「俺は料理人じゃない」

「え、違ったのですか………?」

「…………シーナまでそんなこと思ってたの? 俺色々家庭環境複雑だったから独り暮らしの期間長くて、それで簡単な料理覚えてるだけだよ」

「料理人よりも圧倒的に美味しいと思うのですが」

「んな馬鹿な。俺が本気でやってる人に勝てるわけないし、もし勝てても調味料の問題だよ」


 この世界にちゃんとした調味料の概念がないのでそう感じるだけだ。


「あ、そういえば聞いてなかったね。シーナってなんて職業ジョブ? 言いたくなかったら言わなくていいよ」

「…………それは」

「ああ、嫌ならいいんだって」

「しかし、ご主人様の命に従わないのは………」

「へ? これ命令じゃなくてお願いだから。お願いっていうのは断ってもいいんだよ。少なくとも俺のは、ね」


 服を追加しながら小さくあくびをする。夢の中でも働いているからか、よく寝れていない気がする。


「だから断ってもいいよ。シーナのプライバシーはちゃんと守るし」

「………ご主人様、その」

「ああ! わかった‼ 違和感の原因‼」


 バッと顔をあげてつかつかとシーナの前に行き、


「ご主人様やめてくれ」

「へ?」

「呼び捨てでアレクでいいよ。ご主人様なんて恥ずかしい」

「で、ですが」

「俺は雇用主、君は社員。社員が上司にご主人様とか言わないように俺だってそうでありたい。俺たちは対等。わかった?」


 有無を言わさない迫力に少し驚きながら首を縦にふるしかないシーナ。


「じゃあアレクって呼んでね」

「で、ですが、スラ太郎様はご主人様と」

「あー、スラ太郎は別ね。あいつに名前で呼べって言ったんだけど断固拒否してきたからそのまんまにしてんのさ。直接喋られないから駄目とも言えないし」


 スラ太郎にすら様をつけるシーナに苦笑する天宮城。


「それからシーナって堅すぎないか?」

「堅い、ですか」

「そうそう。俺、奴隷ってものがどういうものかわからないけどそこまで頑固なものなの?」


 どこからか取り出した服を縫いながらそう聞く。


「どの辺りが、でしょうか」

「自覚ないか。いや、名前とか服の時とかもそうだったけど高そうなものは物凄い反応するよな」

「……昔、一度奴隷として飼われていた時期がありました。その時に壺を掃除したら血が止まらなくなるほど仕置きを受けまして」


 シーナの過去に唖然とする天宮城。別に割ったわけでもなく掃除しただけでその有り様ということはもし割ったらどうなるのだろうか。


 自分なら無理だと思う。


「俺奴隷制度あるところで産まれなくて良かった………」

「何故ですか? コハク様のご兄弟なのでしょう?」

「あー。そうなんだけど………これ見ればわかるかな」


 琥珀の竜人族は一応種族としての地位はかなり高い方なのでその生まれなら売られることはまずない筈なのだ。普通ならば。


 天宮城は帽子をとってそこに隠してあるものを見せた。その瞬間にシーナの目が見開かれる。


「まさか、混ざりモノ………⁉」

「そうそう。親なんて知らないけどね」

「し、失礼しました‼」


 混ざりモノは蔑称だ。それをつい口に出してしまったシーナはすぐにそれに気づいて頭を下げる。


「いやいいよ。事実だし、今はアインが一緒にいるからね」

「申し訳ありません。どんな罰も受け入れます」

「いやだからいいって」

「なりません‼ ご主人様に蔑称をつかうなど―――」

「じゃあ敬語、ご主人様、そのガッチガチに固まった考え方やめて。はいこれ罰ね」


 爽やかな笑顔でそう言って見せる天宮城。


「し、しかし」

「はい敬語アウトー」

「で、ですが」

「だめー」


 悪戯を仕掛ける子供のような笑みを向けて指先でシーナの額をつつく。


「いい? 君の言葉遣いとかっていうのは過ぎればただの嫌みなんだよ。俺がいいって言ってるんだからいいの。言葉ひとつで怒るほど俺も短気じゃない」

「で、ですが」

「ほらまた敬語。俺が怒るまで続ける気? 俺だって好きで混ざりモノやってる訳じゃないけどそれで謝られても困るの」


 ビキッと額に青筋が浮かぶ。近くで偶然塵を取り込んで掃除してくれていたスラ太郎が逃げ出す程の怖さだった。


「俺さ、基本あんまり怒らないんだけど本気で苛ついたときって覚えてないくらい暴れるらしいんだよね。それこそ地形が変わるレベルで」


 正確には、本人意識無い状態で力が勝手に暴走するだけなのだが。


「それとさ、君なら俺が今なに考えてるかわかるよね? ん? その力は見せ掛けかオラァ」

「ご、ごめんなさい…………」


 グリグリと指先を額に押し付け始めた。下の喧騒を耳にしてアインが階段を下りてきたがあまりの天宮城の迫力に逃げていった。


「…………はぁ。君さ、そんなにいいもの持ってるんだからちゃんと考えて使ってよ。勿論乱用しろなんて言わないし良心が痛まない程度でいい。何のために君を雇ったと思ってる? 別にご主人様気分を味わいたかったわけでもないし友達感覚で頼んでる訳じゃない」


 未だに青筋が浮かんだままの天宮城だが、シーナの額に当てた指は離そうとはしていない。


「俺ってそんなに短気に見える? 俺の事を蔑称で呼んだだけで? アホか。んなもんどうでもいいわ! そんなどうでもいいこと言ってる暇あったらもっと有意義なことに頭使えよ!」


 グリグリと更に押し付け、ため息をつきながら離す。額が赤くなっていた。


「俺のことなんか気にすんな。正直面倒くさい。俺達がちょっと世間とは複雑な立ち位置にいるだけでそれ以外は他と何ら関係はない。君の力だってきっと上手く使える筈だ。シーナが受け入れさえすればきっと使いこなせる」

「ちょっとアレク……? なにやってるの」

「ああ、アインか。いや、………年甲斐もなく説教してしまった」


 片手で顔を隠しながら顔を赤くする天宮城。


「ごめんな、偉そうにして。けど君はそれをどう使うかちゃんと考えてくれ。俺は君のような人を管理する仕事をしているんだ」

「話が見えないんだけど」

「あー、前にも話したろ? 俺の国では超能力って呼ばれてるもののこと」

「アレクは確かこっちに来れる力よね」

「そうそう。シーナはサイコメトラー。相手の考えていることを読みとく力だ」

「テレパシー?」

「違うけどそうとも言える」


 天宮城はざっと簡単に説明しだした。


「テレパシーは能力者が対象に向かって使うものでサイコメトラーはそこに残った思念とかを読みとける。触れていれば相手の思考も読むことができる筈だ」

「あ、だからグリグリしてたんだ」

「そういうこと。俺、能力者の波長が見えるからさ。一目見てシーナが能力者だって判ったんだよ」


 わざわざシーナを選んだのはそれが理由だったのだ。


 天宮城はシーナに目線をあわせ、


「君を選んだのにはちゃんと理由がある。俺の感情を読まないようにしてくれてるのは嬉しいけど、そんなの別にいいから。君は君のやり方でここに居てくれればいい。な?」


 ぽんぽん、とシーナの頭を撫でる。赤いサラサラした長い髪がその表情を隠してはいたが、下には水がポタポタと垂れていた。


 嘘偽り無い天宮城の言葉が、何より嬉しかったのだろう。

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