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23 奴隷商へ

 イリスに貰ったピンバッチのリボンが風に吹かれて揺れる。


 天宮城はアインと凛音と共に奴隷商を訪れていた。


「いい?」

「うん」

『ん』


 ガチャン、と重い扉を押すと中から呻き声やすすり泣く声が耳に届く。


「いらっしゃい」


 いかにも金に汚そうな男が嗄れた声でそう言う。


「奴隷が欲しいのだけれど」

「なんと、こりゃあ驚いた。人狼族かい? そっちの兄ちゃんも」

「はい。アレクと申します」


 目を向けられたので帽子をとって挨拶をする。すると男の目がその帽子に釘付けになった。


「あんた………それ、なんだい」

「これですか」


 視線の先にあったのはあのピンバッチだ。


「先日とある方からいただいたものです」

「ほう………まぁ、それだけの地位があるなら安心だね。来な」


 これを見た途端に態度が変わった。こんなに効果があったのかと心のなかでイリスに感謝する。


 男につれてこられた場所には男女関係なく無造作に放り込まれたようなまさに檻といった感じのものが並ぶ場所だった。


「好きなの選びな。値段は首輪に書いてある」


 そう言って男はどこかに行ってしまった。


 買ってくれと叫ぶ者や虚ろな目でぐったりと座り込んでいる者まで、反応は人各々だ。勿論その中に、笑みを浮かべているものなどいない。


「アレク。どうしたの?」

「………アイン。あの子、駄目かな」


 天宮城の視線の先には首輪を鎖で繋がれ、地面に完全に体を投げ出している状態の人がいた。


 赤い皮膚の、天宮城の肩ほどの背。


「ちょっと、ゴブリンじゃないの⁉」

「ゴブリン? いや、人だろ」

「どうみても魔物よ⁉」

「魔物と人は波長が違うよ。あの人はちゃんと人だ」


 顔は見えないが、天宮城の長年染み付いた感覚がそれをものがたっていた。


「ねぇ、駄目かな」

「駄目じゃないけど………」

『アレク。考えあるんでしょ?』

「まぁね。凛音もわかる人?」

『わからないけど、アレクの反応でわかる』


 凛音は天宮城に向かってそう言ってから何故か手をとって笑みを浮かべる。それを見たアインが少し口を尖らせて、


「好きにすれば?」

「なんで突然投げやりになった」


 苦笑しつつ奥に向かって声を出す。少しして男が出てきた。


「決まったのか」

「はい。あそこの……一番端にいる」

「ゴブリンか。あれはやめとけ。確かに安いが………」

「でも買えるんですよね」

「買えはするが言うことは聞かないわ要領は悪いわで値段ほどの価値はない。処分品だ」

「じゃあ尚更いいじゃないですか。あの子がいいです」


 天宮城の反応に不信感を覚えているのか、それともド変態だと思われているのか。


「それと、先にあの子と話をさせてください。少しでいいので」

「………わかった。噛まれるなよ、指がなくなるぞ」


 野犬みたいな扱いだ。天宮城が檻の端に近付くと足音で気付いたのかその奴隷が顔をあげる。


「ゲギャア!」


 威嚇するように声をあげる相手。奴隷商の男が体の構造的に言葉が話せないのだと説明した。


「こっちの言葉はわかってるね?」

「グルルル………」

「よし、わかってるってことで進めよう。俺は君を雇いたいんだ」


 鋭い牙を剥き出している相手がキョトンとした顔になる。買うという言葉ではなく雇うという言葉を使ったからだろう。


「俺はとある店で働いてるんだけど、どうも人手が足りなくてね。誰か雇おうって話になったはいいものの俺の家族は中々気難しくてね。雇うより奴隷に頼もうって話になったんだ。だからさ、俺は毎日君に日給として1000リギン払う。君は今3万だから一ヶ月働けば自分を買い戻せる。それ以上の期間になると流石にお給料は減らすかもしれないけど」

「ちょっとアレク⁉ 本気⁉」

「本気だよ。この人にはそれだけの価値がある。それに一ヶ月もあればなんとか俺一人でもやってけるって」

「過労死しても知らないんだからね」

「ははは」


 乾いた笑いしかでてこない。そのレベルで毎日仕事に押し潰されているからだ。


「どうかな?」

「………」

「あ、勿論ちゃんと衣食住の面倒は見るから一ヶ月分のお金はそのまま君に渡すからその辺りも心配しないで。ちゃんと一ヶ月で全額手にはいるから」


 目線が泳ぐ。なにか言いたそうだが何を考えているのか言葉に出来ないために理解のしようがない。


 すると、左手に右手の指先で何かを書くような動作をし始めた。それを見た瞬間、天宮城は袂をまさぐり始める。


「えっと、確かここに………ああ、これでいいかな」


 紙の束とペンを渡すとそれにスラスラと何かを書く。筆談ができるなら最初からそうするべきだったなと内心で苦笑い。


 まぁ、最初の警戒しているときに渡しても効果はなかっただろうが。


【どうして私なんですか】

「それは秘密。もしかしたら後で説明することになるかもしれないけど」

【その店で何をすることになるんですか】

「接客」


 またキョトンとした顔になる。


「君にはそれだけの価値があると俺は思うんだ」

【里の者に売られ、奴隷商を転々とした私にそんな価値はありません】

「そんなの他人の物差しだ。俺は俺だから、さ」


 訝しげな目で天宮城をみる。


「じゃなきゃわざわざ一番見辛い場所にいる君を指名できるはずないじゃんか」


 確かに、見ようとしなければ見えない場所にいる。


「君の意見を尊重したいから君がどうするか今ここで決めて欲しい。俺としては君に来て欲しいけどね。なんてったって昨日店開いたら忙しさで倒れるかと思ったし」


 実際今筋肉痛でバキバキである。これが毎日続いたらあっという間に召される気がする。


「どう、かな」

【よろしくお願いいたします】

「そっか! ありがとう!」


 迷っているような表情だが一応決断してくれたことにホッとする天宮城。後ろに振り向いて、


「この人、お願いできますか」

「物好きなんだね、あんた」

「さぁ、どうでしょう」


 言われた通りに親指に軽く針を刺して血を出し、首輪にそれをつける。うっすらと光った瞬間、魔法具を使ったときのような感覚がした。


「これで契約は完了。金は3万きっかりだ」

「はい、これでいいですか」

「ほいよ」


 袋から取り出した白金貨を三枚渡す。


 この世界の貨幣は鉄、銅、銀、金、白金、ミスリルの順で価値が上がり、鉄が1リギン、銅が10、銀が100、金が1000、白金が10000、ミスリルが100000である。


 白金貨から先になってくるとこの世界ではかなりの金持ちしか所持できない貴重なものになる。


 特にミスリルになると一枚で日本円だと300万円になるのでとてつもない金額なのは間違いないのだ。


「まいど」


 にやついた奴隷商の店主が直ぐ様それをマジックボックスにしまった。なんとなくこれ以上はここに居たくなかったので直ぐに外に出る天宮城達。


 と、その前に服をマジックボックスから取り出して渡す。なるべく肌が出ないタイプのものなので少し怪しいが、遠目から見たらどこかの魔法使いに見えるだろう。


「これ着て。外は寒いし」

【そんな高価なものはつけられません。汚れてしまいます】

「別にいいよ汚れても。見てて寒そうだし、俺は服屋だからね。これ試作品だからどうせタンスの肥やし状態になってたし」


 渋っていたので無理矢理着せてから外に出た。


「あ、そういえば君の名前聞いてなかったね」

【そんなものはありません。生まれて直ぐに売りに出されたので】

「そっか。じゃあ自分で決めておいてね」

【付けないのですか?】

「俺がつけてどうすんのさ。言っとくけど俺はネーミングセンスないからな」

『凛音は気に入ってる』

「そりゃありがとうな」


 少し不機嫌だったので肩車してあげたらずっとそこにいる凛音。そろそろ首がいたくなってきた。

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