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22ー3 新しい店

 ぐったりと床に転がる天宮城。死んでいるのかと思うほど動こうとしない。


「もう、駄目………明日筋肉痛確定だよこれ……」


 そう言いつつもその手は布を見もせずに縫い続けているのだから、慣れとは恐ろしいものである。


 店で出している服は全て天宮城の手製で、ズルしたのは材料だけである。大分前からちまちまと作ってきた物なので在庫もそれなりにある…………筈なのだが。


「まさか初日でここまで客入るとか思ってなかったから徹夜して作らないと在庫なくなるレベルなんだけど………」


 この世界にミシンはあったため、それで縫って細かいところを手で縫っているのだが、それでもキツい。


「お風呂ありがとうございました」

「ああ、イリスさん………お湯加減どうでした?」

「気持ち良かったですよ。あれ、誰が調節したんです?」

「凛音です………」


 魔法の腕が一番いいのは凛音だったりする。年の功というやつだ。本人に年齢を聞いてはいけない。一回聞きかけて死にかけた。


「それにしても、今日は私がいたからなんとかなったように見えましたが、明日からあの人数一人で捌けます?」

「無理です………」

「ですよね」


 イリスが苦笑する。レジは殆どイリスがやっていたのだがそれでも天宮城はギリギリだった。


「アインは商売に向いてませんし、琥珀は愛想悪すぎて論外、凛音も人見知りだしスラ太郎は………まぁ、なんというか………」

「そもそもスラ太郎ちゃんって本当にスライムなんですか?」

「いや、スラ太郎です」

「? いや、ですから種族名です」

「スラ太郎です」

「え」


 隠すのも面倒なのでスラ太郎というのが種族名でもあるということを明かす。


「なんですかその適当な感じ……種族名と名前一緒って」

「いや、本人気に入ってるからいいかなって………」


 本人は今カーペットにびたーん。滅茶苦茶寛いでいる。


「まぁ、それは置いておきましょうか。誰か雇います?」

「雇うのはちょっと……」

「あ、他人を近くに置きたくないタイプですか」

「いえ、僕らの種族とか故郷とかそういうので」

「ふむ………それもそうですね。確かに生活環境も大分変わった地域みたいですし」


 家のなかは靴を脱いで上がるということに若干の違和感を感じているイリスは顎に手をおいて眉間にシワを寄せる。


 暫くそのままでいたかと思うと、その表情のまま、


「奴隷を買ってみたらどうです」

「奴隷、ですか……」

「勿論、無理にとは言いませんし、気分の良いものでもないとはよくわかりますが」


 天宮城は一応混血種ということになっている。地位が高いらしい(天宮城自身もよく理解していない)アインがいるからなんとかなっているだけで、普通なら奴隷として売り払われているような立場である。


「あ、いえ。気を使ってもらわなくても大丈夫です。………僕の住んでいた所では奴隷の制度は無かったのでよく判らないんです」

「そうなんですか……。奴隷は一人大体三万リギン程で取り引きされるんですが、借金奴隷はお金さえあれば自分を買い戻すことができ、犯罪奴隷はそれが不可能で大抵重労働に使われます」


 イリスは真剣な面持ちで天宮城に丁寧に説明をした。


 奴隷は持ち主の物として扱われる為に入れない店などもあり、また魔法によって逆らうことができない上、持ち主の不利益になるようなことは話すことも許されない。


 そんなことをつらつらと聞き、天宮城も少し考える。


「やっぱり、奴隷というのは気分がいいものではないですね………」

「そうですが、この家には合っているかと思いますよ?」

「うーん………皆に相談してみます」

「そうですか。ああ、それとこれを」


 鞄からイリスが取り出したのは青いリボンのついたピンバッチだった。よくよく見ると中央の模様に赤、緑、青の宝石が嵌まっている。


「アレクさんとコハクさんの分の二つあります。これを絶対に手放さないようにいつも見える場所に身に付けておいてください」

「? なんですか、これ」

「簡単に言えば身分証明になるもので、奴隷を買うときや何かトラブルになったとき少し位は助けになれると思います」

「わかりました。じゃあここに」


 帽子の横につけてまた被る。


「………」

「?」

「いや、帽子とったの始めてみたので……」

「別に一体化してる訳じゃないですよ⁉」


 一瞬犬耳を出し忘れたかとビビった。


「思ったより、その」

「なんです?」

「耳、触らせてください」

「何故に⁉」


 目が、光っている。獲物を狩る猛獣の目だ。


「あの、ウィリアムさんのほうがきっと気持ちいいと思いますよ?」

「人狼族って中々いない上にいてもプライドが高いので触ることができないんですよ。それにウィルは髪洗わないからギシギシなんです」

「あ、ちょ、わっ………」


 気付いたときには帽子をとられて撫でくり回されていた。くすぐったくて仕方がない。


「ふわふわです!」

「うぐぅ………」


 幼女に耳をモフられる。見ようによっては微笑ましいようで危ない映像だ。


「いやー、貴重な体験ができました!」

「もう止めてください………」


 余計疲れた。









 帰るイリスにバイト代を無理矢理押し付けてから家族会議に入る。奴隷の件を全員に伝えて、


「どう思う?」

『アレクの好きにするといい。私はアレクの判断に従う』

「きゅい」

【拙者も凛音様と同意見で御座います】


 スラ太郎と凛音は天宮城に丸投げ、


「いいんじゃない? 部屋も余ってはいるし」


 アインは賛成、


「我は反対だな。アレクが人間だとバレる危険が増える」


 琥珀は反対。


「見事に分かれたか………」

「アレクは?」

「俺はいてもいいと思ってる。今の店は俺一人じゃキツいかな」


 金の問題はないので後は天宮城の種族問題だ。


「逆に最初に明かしちゃうとか」

「何で危険を犯すのよ」

「それを言えないようにだけ縛らせてもらえば裏切られる心配は薄くはなるだろ」

「そうかもしれないけど、わざわざ最初に言うのよ」

【種族についての一切を他言するなと言えばいいのでは?】

「ああ、そっか」


 確かに。と頷きつつ、琥珀に目をやると、


「お前の好きにするといい」

「………ありがと」


 自分で自分の責任をとれ、と遠回しに言ってくれた。


『どうするの?』

「奴隷…………買おうか」

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