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22ー2 新しい店

 呼ばれる度に店内を駆け回り、その人にあう服を捜し、走っては探して話して説明してを繰り返すうち、ほぼ切れ目なく入ってくる客に目を回していた。


「こ、こんなに来るもんなんですか………?」

「いや、初日でこれは中々ないですよ」

「っていうか、いいんですか? 手伝ってもらって」

「いえ、全然問題ないですよ。あ、いらっしゃいませ」


 慣れた手つきでレジを打っているイリスだが、レジなんて今日はじめて触った人である。


「あのー、この服なんですがー」

「ほら、呼ばれてますよ」

「いってきます………」


 この世界の人に合うように、色々と用意している。子供服の大きさでもドワーフなどがいるために子供用と背の小さい大人用でデザインも違うし、容姿など半数以上の人がほぼ獣なので尻尾を出すところだったり獣耳につけるアクセサリーだったりも販売している。


 だが、尻尾の穴が少し広かったり耳が分厚かったりは個人差があるので結局その都度手直ししているのだ。


「はい、どうされましたか?」

「これの色違いってありますか?」

「はい、青と薄い桃色、それと緑が御座いますが、もって参りましょうか?」

「お願いします」

「少々お待ちください」


 店の奥に戻って何枚か同じ服の色違いを持ってくる。


「これになりますね」

「あ、この青いいですね。おいくらですか?」

「シールは黄色なので66リギンとなります」

「安いわねー」

「そういっていただけると嬉しいです」


 人件費も作業費も実質タダなのでその分かなり値段が安くできるというのはかなりの利点らしい。


 そんなこんなで走り回り、やっと人がいなくなったと思ったらもう既に2時を過ぎていた。腹の虫が鳴り止まない。


「イリスさん。ご飯どうしますか?」

「そうですね、なにかあったりしますか?」

「昨日の残り物を少しリメイクする形になるものでよければ作れますよ」

「それ、私ももらっていいですか?」

「勿論。琥珀ー」


 二階に向かって呼び掛けるとあくびをしながら琥珀が降りてきた。


「昼飯はどうなった」

「今からつくるからそれまで店番してて」

「メニューは?」

「カレーうどん」

「面倒臭いからか」

「うん」


 すぐに二階に走っていく天宮城。イリスは琥珀に軽く挨拶をする。


「兄が世話になっているようで、かたじけない」

「いえいえ。それよりもここ凄いですね。暖かいし、安いし、何より金のにおいがします」

「そうか………」

「ここの秘密教えてくれません?」

「秘密などないぞ?」

「ええ? じゃあこの魔道具はなんですか」


 レジを指差してそう聞いてくる。厳密に言えばそれは魔道具ではない。


「む? レジがおかしいのか?」

「あ、これってアレクさんのところでは一般的でしたっけ?」

「うむ。珍しくもなんともないな。どの店にもあるぞ」


 天宮城がいないと本当に口が軽くなる琥珀。いつか会話の途中でぼろをだしそうだ。


 天宮城の場合、何を喋ってよくて何が駄目なのか意外と冷静に分析しながら話しているのであまりそういったへまはしないのだ。


 失言も楽しんで言っているような感じである。


「どれだけ魔法文明が進んだ国ですか、そこは」

「それは言えぬな。我らがこの年まで生きていられているのは故郷のお陰だからな」

「素晴らしい国ですね」

「………どうだろうな。確かにそうかもしれんが、アレクにとっては生き辛い国なのもまた事実」

「それはどういう―――」

「琥珀ー! 出来たから交代でいいぞー!」


 天宮城の声で会話が中断された。


 お盆に二人ぶんのどんぶりを乗せた天宮城が降りてくる。


「あ、なんか話してた?」

「いや、いい。我の分は?」

「上にある」


 店の中が見えるいちにある机に座ってフォークと手を拭くものを差し出して食べるように促す天宮城。


「これは………なんでしょうか」

「カレーうどんって言います。僕の故郷の国民食みたいなもんです。あ、苦手な味でしたら教えてくださいね。別のものに変えますから」


 見たこともないスープに白く太い麺が浮かんだそれはやはり変に見えるらしい。


「不思議な香りですね」

「これはスパイスを何種類も組み合わせて作る食べ物なので、その分香りも複雑になるんです」


 少し戸惑っている様子のイリスだが、天宮城がフォークでうどんを食べ始めるとまるで得体の知れない生き物の口の中に手を突っ込むような顔をして恐る恐るフォークで麺を絡めて口に運ぶ。


 それをゆっくりと飲み込んでから目を見開き、うどんをまじまじと見つめる。


「これは………何でできているんですか?」

「え? その麺ですか? ただの小麦粉ですけど」

「小麦粉ってパンに使うあれですか⁉」

「ええまぁ………」


 恐ろしい食いつきっぷりに逆に天宮城が引く。


「これの作り方売ってください!」

「うどんですか? スープですか?」

「出来れば両方お願いしたいです!」

「うーん………」

「お金なら言い値で払います!」

「あ、いえ、そういうことではなくて」


 天宮城が懸念しているのはこの世界への影響である。まぁ、カレーうどん一個で何が変わるんだとは思うが。


 そもそもカレーをスパイスから作るとか無理である。


「うどんはともかくカレーは作れないんですよ」

「え?」

「正確に言うと、スパイスを何種類も組み合わせたものを故郷から持ってきているのでそれの作り方は知らないんです」


 調べてくればわかるがそこまで面倒なことはしたくないし、それで下手に料理ができるとか思われたくない。


 料理はするが、料理人には勿論勝てる可能性などないしそもそも料理自体好きか嫌いかと聞かれればどちらともいえない、かろうじて好きに入るくらいの感覚なのでやりたいとも思わない。


「それ、売ってもらえますか⁉」

「いや、それはちょっと………っていうかもう殆ど残ってませんし、それで故郷の場所がばれるのもちょっと」

「もしそこを見つけたとしても不利益はないように交渉しますけど?」

「あ、無視するっていうのはないんですね……」

「こんな金のなる木みたいな地域見逃しませんよ」


 むしろ開き直っているような態度に苦笑する。


「申し訳ありませんが、売ることはできないです。自分達で楽しむ程度にさせていただくので」

「それは残念です」


 残念ですとか言いながら確実に機会があったら狙ってくる目をしているイリス。天宮城はぽろっといいですよと言ってしまわないように自分で自分に釘をさした。


 別に売ってもいいのだが、天宮城の勘がそれは危険だと告げていた。そこらの商人ならまだいいが、イリスは商売の達人だ。


 そのイリスに敵うはずがないというのとそれでもし人間だとバレたときの面倒くささが売るというメリットに勝っていないと今のところは認識しているので下手にボロは出せないのだ。


 カレーが飛び散らないように気を付けて麺をすすりながら、もし人間だとバレたときにどう対応するのか頭の中で何度も予行練習をしていた。

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