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3ー2 何のために

「そんなことが」

「すみません……なんか面倒事増やしちゃったみたいで」

「全然良いのよ。ただ、どうしてそこまで龍一君を欲しがるのかねぇ。ゲイだったりするのかしら」

「怖い事言わないでくださいよ……」


 身近な人物にゲイが居るので他人事ではない気がしてならない天宮城であった。








「いらっしゃいませ」

「龍一君? 元気ないね?」

「ちょっと色々と立て込んでまして……」

「そ、そう……。ポテト貰える?」

「はい」


 早速セットしてきたらしい。最早日課になっている。


「あ、お仕事どうでしたか?」

「大変だったわよ………。仲のいい上司のお使い様がウミウシで気持ち悪くて………」

「ああ、成る程……」


 察した。肩のリスがぐったりしているが天宮城には見えていない。


「立て込んでるってどうしたの?」

「……先程、ちょっと怖い人に絡まれまして」

「え? 警察呼ばなくて大丈夫? それ」

「勧誘されました」

「へ?」

「組に入らねぇかって……。腕掴まれて」

「そ、それはまた珍しい絡まれ方ね……」


 琥珀がレジ横でお腹を出して寝ている。だらしないところがまた可愛いのだが。


「しかも掴む力めっちゃ強くて……大きく痣が出来ました」

「それ大丈夫?」

「まぁ、一瞬で治しました」

「ああ、そんなこと言ってたね……」


 便利だなぁ、と思いつつ弁当を選ぶ水野。


「その人……ファーストの身体強化でした」

「え? 能力者だったの?」

「なるべく小さい声でお願いします……。無意識に僕のここを欲していました。また来るって言われましたよ……」


 レベル1なら殆んど問題はないのだが、元の力の強さも関係してくるので相当な怪力であることは予測できるだろう。


「また来てくれてるのかい、お客さん?」

「「わあああぁぁぁ!?!?!?」」


 突然店長が奥から出てきて盛大にビビる二人。


「て、店長……。いつからそこに?」

「今さっきだよ。おっと、お邪魔だったかい?」

「い、いえ! そんなことは、ね?」

「は、はい!」


 天宮城と水野が能力者であることは基本秘密なのでそれがバレないようにと気が気でないのだ。


 ピピピピ、とアラームがなる。


「っと、ポテト揚がりましたね」

「私がやるから着替えてきな」

「え、でも」

「いいから。今日はバイト終わり。はい、着替えてきな!」


 先週と同じ光景を見ているようで面白かった。少し違うのは水野の肩にリスが乗っていて、カウンターの上に琥珀が寝そべっているところだろうか。








「はぁ……」

「お疲れ様」

「水野さんの方が大変でしょ……毎日それだと」

「うん……ちょっとキツいね」

「俺のせいで……ごめんなさい」

「え? 謝らなくて良いのよ。なんだかんだ言って面白いし」


 ポジティブである。


「能力が覚醒するには幾つか条件が要るんだ」

「条件?」

「そう。一つは資質があること」

「私にはあったのよね」

「最初からあったよ。で、二つ目は才能を願っていること」

「? どういうこと?」


 天宮城は少し考え、


「例を出すと、俺は不眠症だったんだ。それを治したかった。だから夢使いの能力を持った」

「ああ、成る程。え? じゃあ私は? 使いが見たいって願ったことないわよ?」

「水野さんの場合は多分、人の気持ちを判るようになりたい。って思ってたんじゃない?」

「あ、うん! そう!」

「それが反映された結果だと思う」


 それで、三つ目。と言って水野を見る天宮城。


「何らかの気持ちの変動があったり周囲の状況が激変すること」

「え?」

「まぁ、水野さんの場合は石の影響だろうけど」


 天宮城はにっと笑う。


「俺達最初の10人はその過程を全部すっ飛ばして能力者になったもんだから他の人と圧倒的に能力の強さが違うんだ」

「それが全員シックス以上のレベルになった原因?」

「俺はそう考えてる。今初めて人に言った」

「そ、そうなの」


 なんで今この話を? と疑問符を浮かべる水野。


「だからね。それぞれペナルティを持ってるんだ」

「ペナルティ?」

「そう。俺の場合だと発作。結城だと疲れると思った場所にいけなくなる、とか」

「私にもあるの?」

「いや、水野さんはないと思う。ただ、俺が一番酷いから俺のことをいつでも警戒してて欲しい」

「警戒って……。警戒してても私戦えないし」


 天宮城はそう言われてゴソゴソと鞄を漁り、手のひらサイズの箱のようなものを取り出す。


「これを」

「これ……なに?」

「スタンガン」

「スタンガン!?」

「ここのスイッチを押しながら相手に押し付ければ電流を流してくれる物で」

「いや、なんで!?」


 天宮城は鞄をしめてから少し悲しそうな声色で、


「いつ俺の発作が起こるかわからない。それに、髪さえ紅い状態でなければ何とか自分の体の動きを抑制出来ることもあるから。その時にこれを首筋に当てて俺を気絶させて」

「そんなことできるわけないじゃない……」

「電圧は調節してあるから死ぬほどの威力はないよ。思いきってやって」

「やれないって」

「やらなければ死ぬよ。俺は自分の体をコントロール出来なくなる上に敵味方関係なく周囲を壊すようになる。それだけは避けたいんだ」


 真剣な目でそう言われ、水野も反論できなくなる。


「もし発作が起きたら真っ先に秋兄達に連絡いれてくれると助かるよ。俺の対処ができるのは皆だけだろうから……」








 天宮城は水野を家まで送った後、電車で家に向かっていた。


(そういえば今日って夕飯作りおきのだっけ……?)


 電車内の戸の近くで本を読みながらぼんやりと考えていると目の前に女性が立った。


(え……? なんでわざわざここに立ったの、この人……?)


 天宮城はなんとなく別の戸に向かおうとした。座るという選択肢は最初からない。天宮城は喩え電車内で一人だったとしても余程のことがなければ座ったりしない。


 藤井達に子供は立つものだと何故か叩き込まれて育ったので座るものではないと考えているからである。


 天宮城が歩き出そうとすると、その腕が掴まれる。


(え? 何? 今日は腕を掴まれる日なの!?)


 驚いているところが違う気がするが、天宮城はなにもしていないのに掴まれたことに驚いて思考が停止している。


「あの」

「……はい? 僕、何かしましたか……?」

「いえ、その……すみません。人違いでした」

「え?あ、そうですか……?」


 天宮城はまさかと思いつつ別の戸の前に行き、本を開いて読む振りをしながら女性の方に意識を集中させる。


(能力者だ……)


 天宮城の思った通り、彼女は無意識で天宮城と離れたくないと思い腕を掴んだようだった。


 そう考えると色々と不味いのではないかと天宮城は考える。


(能力者が絡んでくると面倒なことになりかねない……。俺も早く協会の方に引っ越さないと本当に危険かもしれんな……)


 突然力が強くなり、周囲も無視できないものになっているというのは今日で判った。


 能力者にとっては天宮城は能力レベルがどうとかいう話以前に何か一緒にいると調子が良くなる、と感覚的に判ってしまうので一緒にいて欲しいと無意識に思ってしまうのだ。


(せめて卒業までは静かに暮らしてたいんだけど……)


 天宮城は自分が存分にフラグを立てていることに気づかないまま先の事を案じていた。









「晋也。作文、出来たのか」

「できねぇ。っていうか覚えてねぇよ一年の時なんて」


 次の日、天宮城は普段の様に柏木と談笑していた。


 すると、突然教室のスピーカーから放送が流れる。


『三年生の皆さん、体育館にシューズを持って移動してください』


「? なんだろ?」

「さぁ? なんかあったっけ?」


 取り敢えず体育館に行こうと教室の外に一旦並ぶ。


「進路? なんかヤバイことが判明したとか?」

「ヤバイことってなに?」

「煙草吸ってた奴がいるとか」

「ありそうだな、それは……」


 小声で話しながら体育館に向かう。


 既に2クラス集まって座っていた。天宮城の学校は1学年12クラスあり、大体450人が各学年でいるため全校で1350人程いる。


 三年生だけなのでそこまでではないのだが、全校生徒の集会になると歩く隙間がないくらいの人口密度である。


「講習?」

「違うだろ。スクリーン出てないし」

「だよねー」


 天宮城の耳にいろんな所から声が聞こえてくる。概ね皆同じことを言っている。全クラスが集まり、舞台にマイクを持った校長が立つ。


「皆さん、おはようございます。本日集まってもらったのはあるお話をするためです」


 少しざわついた生徒を近くの教師が一喝する。


「生徒の一人が能力犯罪を犯してしまいました」

「……!」


 他人事とは思えない話が聞こえてきて天宮城に緊張が走る。


「その生徒は、現在能力者協会の方で取り調べを受けています。もし能力者になってしまった場合、どうすればいいのか。皆さんはこれから進学や就職をするでしょう。その時に自分で対処できるように今ここで学びましょう」

「?」


 天宮城が意味がわからず固まっていると舞台の袖から二人、若い男性と女性が出てきた。


「………」


 天宮城はその二人を見て、


(何やってんだよ)


 と突っ込んでいた。舞台の上に立っていたのは藤井と風間だった。藤井は人前によく立っているし風間もその辺り気にしない人なのでいい人選だろう。


(絶対に俺の学校だから二人で来たんだな……)


 こういう講習は無いわけではないのだが、基本トップが出てくるなどあり得ない。確実に天宮城をからかいに来ている。


「皆さん、おはようございます。能力者協会の会長を勤めさせていただいています、藤井秋人と申します」

「同じく、能力者協会の社員の風間結城です」


 少し視線を泳がせているので天宮城を探しているのだろう。


(うわ……。見ないでくれ。って言うかなんで秋兄と結城なんだよ!それこそ近藤さんとかでいいじゃん!)


 近藤の扱いが酷いが、近藤は実は秘書のような役割の結構偉い人なのだ。顔は怖いが。


「僕達能力者協会では覚醒能力者の保護、能力の研究などを行っています」


 こういうときに話すことは大体決まっているのか、すらすらと言っていく藤井。その間に風間がスクリーンを準備し、カーテンを閉めたりしていく。


 バチッと風間と天宮城の目があってしまった。風間がにやっと笑う。


(何からかいに来てんだよこの二人!)


 恥ずかしさで顔が赤くなる。すると小声で柏木が、


「なんだよ龍一。あの風間さん? って人がタイプなのか?」

「違う。そんなんじゃない」


 からかわれて苛ついているだけだとも言えずそう言ったら当然のごとく変な捉え方をされた。


 天宮城は早く終われと心から願い、柏木は龍一のタイプはあの人なのか。確かに可愛い、と考えていた。


「君達のような非能力者でも明日突然覚醒するかもしれません。そうなったときにどうするのか、家族と話し合っておく事も必要です。話を聞いていただきありがとうございました」


 やっと終わったとホッとする天宮城。


(っていうか秋兄はわかるけど結城はなんのために来たんだよ)


 そう思わずにはいられなかった。








「いやー、やっぱかっこいいな!」

「何が?」

「能力もそうだし、あの会長さん! あの人本当にイケメンだよな!」

「あー、うん」


 天宮城としては身近にいすぎてよく判らなくなっている。


「龍一の好みも判ったし」

「だから違うって」

「じゃあなんであんなに真剣に見てたんだよ」

「見てないから」


 寧ろ目をあわせないように逸らし続けていたのだがそれを柏木が気付く筈もなく。


「ふーん」

「その誤解を広めるなよ」

「広めてやる! そんでもってお前は学校中の女子から嫌われろ!」

「お前のその執念なに?」


 呆れた様子でそう言ったのだった。


「なにー? 龍一はあの風間さん? って人がタイプなの?」

「いや、違うんだけど晋也が一瞬見てたってだけで妙な誤解をしはじめてね……」

「成る程……」


 クラスメイトは柏木が天宮城に嫉妬し続けている……というか彼女が欲しくてたまらないことを知っているので日常茶飯事の事態だ。


「で、実際は?」

「なにが?」

「タイプなの?」

「な訳あるか。俺そういうのあんまり興味ないし……」

「秀才君は理想が高いんだねー」

「だから興味ないだけだって」


 大きく溜め息をつく天宮城。


「それにしても、能力者になったら、かー」

「? そういうの好きなの?」

「面白そうじゃん」

「へぇ」

「龍一はそう思わない?」

「面白そうではあるけど」


 天宮城は能力を好きになれない人である。昔から自分の能力を抑えて極力使わないようにしてきたので尚更だろう。


「就職に良いって聞くよ?あ、龍一は関係ないか」

「関係はないな、確かに」


 最初から能力者なので。


「龍一。能力者になれるなら何がいい?」

「なにって、そうだな。無難にサイコキッカーかな」

「無難だねぇ。でも確かに便利だよね。危険な薬品触らなくても実験できるとかそういうところで役に立つらしいし。私はねー、テレポーターがいいなぁ」

「移動楽だしね」

「そうそう!高い交通料払わなくてもいいんだよ!」


 天宮城はクラスメイトの話を聞きながら、


(ここは平和だなぁ……)


 等と考えていた。ゲイもいないしこき使われることもない。確かに平和ではある。


「天宮城。ちょっといいか?」

「先生? ごめん。また後で」


 先生に呼ばれて廊下に出る天宮城。


「能力者協会のお二方がお待ちだ。来なさい」

「え」


 なんで待ってるんだよ、と思いつつ校長室へ向かう。校長室は客室も兼ねていて外から来た人をもてなす場所でもある。


「失礼します」

「……失礼します」


 教師がいるので一応挨拶してから中に入る。


「では、私はこれで」


 先生が部屋を出ていった。なんで入ったの、と一瞬疑問に思った天宮城だが、すぐに気を取り直し二人に目を向ける。妙ににやにやしている。


「よっ、龍一」

「よっ、じゃないよ。なんで来たんだよ。恥ずかしいじゃん」

「一応りゅうと私達関係無いって話になってるじゃん」

「ここで呼ばれたから何らかの関係があるってバレるだろ」


 琥珀が頭を抱えて下を向くがそれが見えるのは天宮城だけである。


「龍一。俺達はからかいに来た訳じゃない」

「半分はからかいに来てるだろ」

「あはは。それは言えてる!」

「……」


 ジト目で二人を見つめる天宮城。


「これが今日の朝、協会の方に届いたんだ」


 そう言って藤井は一枚の紙を机の上に出す。


【最初の10人の能力者達。君達を盗みに来ました。   怪盗 Y】


「……こいつアホか?」

「さあな。アホかもしれんが、聞いたところによるとYってやつは世界的に有名な怪盗らしい。どんな厳重な警備でも容易く金品を盗っていくとか」

「漫画みたいだよね!」


 確かに漫画みたいだが、これが現実だとしたら相当ヤバい技術を持った人間である。


「これが、俺の机の上に置いてあったんだ」

「秋兄の? とんでもないやつみたいだな……」


 会長室はかなり厳重に警備が張り巡らされている。机の上に置くなど余程いい腕がないと無理だろう。能力を遮断する材質の壁で出来ているので転移も不可能である。


「俺達の能力を狙ってる訳じゃなくて俺達自身を狙ってるのか?」

「そうみたいだね。りゅうに気付いているのかさえ不明だけど」

「俺は表にでないからな……。でも多分気づかれてるだろうな」

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