21 セ・レノーザ
今回キリのいいところで切ったらかなり短くなってしまいました。
だから明日も更新します。
カレーを食べ終わったあと、全員が炬燵で丸まっていたら突然天宮城が、
「あ、割りと重要な用事思い出した」
「?」
「店の名前決めてない」
「「あ」」
そういえばその辺りなにも話していないと今更になって思い出す。
『どんなのが普通?』
「見てきた店を例にだすなら大半が店主の名前入りだったかな」
「じゃあアレキサンダーでいいんじゃない?」
「やだ」
もうなんだか面倒になってきているアインがそう提案するが、天宮城が断固拒否する。
「じゃあそれこそアインでいいじゃん」
「やだー。私別に店主じゃないし」
「店員でもそう変わらないだろ」
「かわるわよ」
互いの名前を押し付けあう二人。琥珀が、大きくため息をつきながら蜜柑を口のなかに放り込む。
「もうなんでもいいだろう。こんなことに時間をかける方が無駄だ」
「いやまぁ、そうっちゃそうなんだけど。じゃあ琥珀にする?」
「何故服屋で琥珀なんだ」
宝石を扱っている店でもないのに、と肩をすくめる。
「スラ太郎と凛音は?」
【拙者はただのスライム故、そういったことは勉強不足なのでございます】
『私もわかんない』
天宮城が、
「……もう服屋でいい?」
「服屋の名前が服屋なの⁉」
「判りやすいだろ」
「いや判りやすいけど混乱しそうじゃない」
服屋の服屋ですと毎回説明するのも面倒だなと一瞬天宮城も感じたのでこの案は無しになった。
『どうするの?』
「どうしような。もういっそのこと名無しでいいんじゃないだろうか」
半分冗談でいってみた。どちらにせよ店としての申請はしなければならないので名無しではいけない。
「それじゃあ一生決まんないよ」
まずここにいる全員が決める気ゼロなのだ。決まるものも決まらない。
「じゃあこうしよう。今から一人一個名前を書いて抽選で決めよう。これなら文句ないだろ。あ、人の名前は無しでな」
名前にするとその人から文句が来そうだったので人名は無しで全員が適当に考えることになった。
なんだか罰ゲームみたいになっている。
数分後。
「全員いれたな? じゃあ適当に引っ張るけど、恨みっこなしだぞ」
『ん』
天宮城が引き抜いた紙に書かれていたのは、
「セ・レノーザ? どういう意味これ」
首を傾げる天宮城の顔を見ない人が一人。
「凛音? 凛音の案なの、これ」
『まさか引かれるとは思ってなかった………ごめんなさい』
「え、なんで謝るの。っていうかなんで目逸らすの」
『昔の読み方すれば、わかる』
昔の読み方、というのは所謂古代文字である。とはいっても使っている文字は今と変わらないので今の読み方をすると意味不明な文になるだけなのだが。
「えっと………『私の王子様』?」
読み上げた瞬間、全員が吹き出しそうになる。凛音の案が意外だったと言うのもあるが、中々恥ずかしい名前だ。
「これでいいよな」
「ちょっと待ってアレク!」
「ん?」
「アレクはいいの⁉」
「んー、っていうか恨みっこなしって俺が言ったし……」
相変わらず変なところで律儀である。
「どうせ渋ってても始まんないしこれでいいだろ?」
「ダメな理由はないけど」
「どうせこんな読み方する人いないから大丈夫だって」
というわけで。
服屋セ・レノーザは住宅街に程近い商業区で開店することになったのだった。
暖かくした店内に柔らかな朝日が差し込む。天宮城は服をジャンルごとに整理しながら塵や埃が落ちていないか丁寧に確認していく。
『アレク、これでいい?』
「おー、似合ってるぞ」
天宮城が作った服を着た凛音が少しはにかみながら笑顔を見せる。
【ご主人様はその服でよろしいので?】
「ん? ああ、これ一応正装だからさ。ま、慣れてきたら普通の動きやすいのになってくと思うよ」
相変わらず和装の天宮城だが、その腰の帯には引っかけるタイプのポーチがついており、そこには針や糸をはじめとした様々な仕事用の道具が入っている。
いつでも縫えるようにしているのが天宮城らしい。
因みに、神解きもその針のなかに混じっている。天宮城はどれが神解きなのか感覚でわかるらしいので混同することはない。
帽子を深く被り直し、店の入り口にあるランプに魔力を注ぐ。これが店が開いているという合図になるのだ。
「それじゃ、初めてのお仕事頑張りますかね!」
緑色に光るランプを指先でツン、と押して店内に戻る。
辺りにはうっすらと霧がかかり、ぼんやりとした緑色の淡い輝きが際立っていた。