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20 芋虫は無理

 ガシガシとなにかを擦る音が止む。


「終わったぁ………」


 こびりついていた風呂場の汚れを落としきった天宮城がそんな声を出しながらたわしを放り投げた。


 フッと消えていくたわしを見ながらグッとのびをする。


「この風呂なんでこんなにデカイんだよ………個人用の大きさじゃないんだけど」


 いったい何人入る予定で作ったんだよと問いたくなるほどデカイ浴槽に文句を言いつつ、汚れを排水溝に流す。


 それだけならちょっと掃除が大変かな、くらいで済んだのだが汚れが半端ではなかったのだ。上からちょっとみただけではわからない所に黴や藻がびっしり生えていたのだ。


 見つけたときにゾッとしたのは言うまでもない。


 現代文明レベルの洗剤を使えたからこれぐらいの時間で済んだのだがこの世界の洗剤だったりでこの汚れ落とすには一体どれ程の労力がかかるのだろうか。


「よっし。とりあえず生活スペースは全部掃除できたかな」


 ゴム手袋を消して手を洗い、リビングに行く。


「そっちはどうだー?」

「けっこういい感じよ? ほら」

「悪くないけど………もっと床に座れるスペース作らない?」

「え? あ、炬燵置くのね‼」

「ああ、うん炬燵も置くけど………これじゃ靴で生活するのとそう変わんない家具の配置じゃない?」


 床に座る場所がない。精々が通路くらいの幅しかなく、空間が狭くなったように感じる。


 元々は靴で生活するスタイルの部屋だったのだが、天宮城のやっぱ靴脱ぎたいの一言により、入念に掃除した後フローリングを貼ったり玄関を作ったりしてしまったのだ。


 何故か畳の部屋まで用意してしまい、後になって別に必要なかった気がすると気づくのだが。


「じゃあもうちょっと家具減らす?」

「んー、そうだな。とりあえず和室に炬燵出してくるから要らなさそうな家具決めておいて」


 そう言って部屋を移動し、全員が入ってもまだあまりあるほどの大きさの炬燵を出した。もうこの部屋は炬燵一個でパンパンである。


 炬燵部屋を出てリビングに行くといくつかの家具が端に寄せられていた。


「あ、それ全部消しといて」

「はいはい」


 天宮城が手を触れると空気に溶けるようにして消えていく。


「どうよ?」

「おお、中々いいじゃん」


 かなりスッキリしたリビングにカーペットを敷くとその上にスラ太郎が寝転がり、びちゃーと体が広がっていく。


「スラ太郎。それでは誰も座れんだろ」

「きゅ?」

『めっ』


 少し叱られてカーペットの端に移動していく。心なしかカーペットがひんやりしているがそれは気にしないで置くのが一番だ。


「で、昨日の成果は?」

「うむ。これだ」


 コインを数枚取り出して天宮城に見せる琥珀。


「お、結構とれてんじゃん。肉は?」

「勿論貰ってきたよ」

「さんきゅ。ここら辺で売ってる肉鮮度が低いからなぁ」


 食べられるタイプの魔物の肉は全部分けてもらっているのだ。魔物を食べることに抵抗がなかったわけではないのだがそれ以外となると非常に消費期限が危なそうな何かの肉か虫食になりそうだったので自分で狩ってくることにしたのだ。


 虫食というのは芋虫である。この辺りではフォレストクローラーと呼ばれる芋虫が出現するのだが、これを主食にする人も割りといる。


 しかもこのフォレストクローラー、最低でも一匹で一メートル程の大きさなので食べごたえがある………らしい。


 肉屋で端の殆どを占領していた半透明の肉を見つけた天宮城が店主に質問したところ、芋虫ということが発覚した。


 普通の肉より数倍安く、デカイ。それはいいのだが流石に芋虫は無理だと天宮城が言い張ったのでなしになった。


 別に節約を強いられるほど金に困っているわけでもないのでいいと言われればいいのだが。


 味の方はというと、まぁ、不味くはないらしい。旨くもないが。


「じゃあ適当に夕飯作るけど。なにか希望はある?」

『カレー食べたい』

「カレー? いいけど匂いって大丈夫か、ここ」


 一応住宅街のすぐ側なので。


「魚焼いても怒られないんだからいいんじゃない?」

「そういうもんかな……。この世界の人ってこの匂いって美味しそうって感じる?」

「うん。スッゴいいい香りだって最初は思ったよ? まぁ、見た目は凄いけど」

「食べ物でこんな色のものそうそうないもんな」


 虚空からリンゴの絵がパッケージにかかれているカレールゥを取り出して早速調理に取り掛かる。


 すぐ近くにある八百屋で買った人参と玉葱、じゃがいもを切って鍋のなかに放り込んでいく。


 人参の色が白いのと玉葱がやけに透明なのとじゃがいもが妙に柔らかい所を無視すれば立派なカレーの食材だ。


 猪肉を豪快に切って野菜と一緒に軽く炒める。これが普通の猪の肉だったら臭みであまり美味しくはないと感じるかもしれないが、そこは異世界クオリティー。


 この猪は魔物に分類される猪で、味はほぼ牛肉のそれだ。下手したらそれよりも癖がない、様々な料理にあう肉なのだ。


 魔物というのは名前からもわかる通り、魔力を豊富にその身に宿している。魔力を宿した肉や野菜はそのぶん栄養価も旨味もあり、結果として癖がなくなっていくのだ。


 何故かと言われてもそういう現象なのだ。強いて言うなら異世界だから、である。


「こんなもんかな」


 どうせ自分達で消費するだけなので適当でも文句は言われまいとかなり適当に作っている。


 水を鍋に入れ、魔道コンロと呼ばれる道具で火にかける。この魔道コンロは家庭用コンロとほぼ同じようなもので、ツマミに魔力を流しながら捻ると火が出てくるシステムなのだ。


 天宮城は魔力だけはほぼ無尽蔵である。世界樹ルペンドラスの名は伊達ではない。


 ただ、魔力の使い方はわからないので魔法は一切使えない。結局物凄い残念な人である。


「よっし、ついでにサラダも作っとくか」


 スラ太郎を呼んでからレタスらしき葉物野菜の外側の葉を剥いでスラ太郎にあげる。完全に三角コーナー扱いだが本人は喜んでいるのでいいのだろう。


 黄色いトマトのヘタを取ってスラ太郎にあげ、鍋のアク取りを開始する。


「きゅ?」

【それは捨ててしまうので御座いますか?】

「ああ、そうだよ。最悪やらなくても良いっちゃ良いんだけど。とった方が味がよくなるから」


 そう説明してもスラ太郎はうまく理解ができていない様子だった。天宮城は小さく笑いながら、


「ま、別に知らなくても良いよ。ほら、もうそろそろ出来るから皿だして」

「キュ!」


 みょん、と触手を伸ばして戸棚から皿をだす光景は中々にシュールだった。


 火を一回止めてルゥを入れ、かき混ぜながらもう一度火にかけるとカレー特有の香りが部屋一杯に充満する。


「キュッ♪」


 嬉しそうに声をあげるスラ太郎。その手(触手)は釜からご飯を手際よく皿に盛っていっている。自分達一行のなかで一番優秀なのは彼なのではないのだろうか。


 性別不明だが。


「ありがとう。皆を呼んできて」

「キュイ」


 ぽよんぽよんと跳ねて移動する姿はとても愛らしいのだが、


【御意に】


 中身がとことん堅かった。

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