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18ー4 港町シュリケ

「それにしても………とんでもない新人つれてきたな。本当に弟子じゃないのか?」


 天宮城が出ていった後、買い取り用のカウンターで肘をついてニヤニヤとイリスに話しかけるオリバー。


「本当にさっき会ったばかりですよ」

「一発で見抜いたんだろう?」

「見た瞬間に感じましたよ。ただ、本人に自覚がないのと少し臆病なのがまだまだですが」

「それは自信がないからだろう」


 渡された熊の毛皮を見て口笛を吹く。


「こりゃ凄い。綺麗にスッパリだな」

「ええ、見ていて驚きましたよ。少し脅かすつもりがまさか一撃で倒してしまうなんて」

「それと、馬車の物も見たぜ。ありゃあ生きてるな」

「はい。仮死状態になっているだけですので解凍すれば普通に動き出すでしょう」


 イリスは元々小声だったのを更に小さくし、


「何より驚いたのはそれをマジックボックスに入れていたんです」

「………なんだって?」


 オリバーの顔から笑みが消える。


「マジックボックスだと? どんな魔力持ってんだ……いや、そもそも何で入るんだ?」

「そう、そこです。マジックボックスに生き物は入れられない。なのに彼はそこに生きているハイグリーンボアを入れている」


 生き物は入れられない。それがマジックボックスの鉄則。


「それに、氷の状態から見てあれはまだ凍らせてから3時間も経っていない」

「それの何が………ああ、そうか。この辺りに三時間くらいの移動距離でハイグリーンボアがいることはまずないからな」

「そうです。それに二時間前から私は彼と一緒に行動しています」

「………なんだと? じゃあ一時間程の場所にボアが?」


 オリバーは暫く黙って、


「まさか時空間魔法………?」

「の可能性があります。あれはマジックボックスではない別のものです。本人があの価値に気付いていないのは少々問題ですがそれは私達でフォローしましょう。私の商会で保護を申し出れば下手な貴族は手を出せない」

「了解。こっちでも手を出さないように軽く圧力くらいはかけておこう」

「はい。お願いしますね。あの戦闘力や見たこともない職業ジョブ、おまけに時空間魔法。彼ほどの人材が狙われない筈がない」


 オリバーは登録したばかりの天宮城のデータに自分とイリスの名前を保護者として追加、何かの紙に二人がサインしてその話は終了となった。








『緊張した?』

「んー、緊張というよりなんかよくわかんなかったかな」

『当然。アレクの知らない話』


 待ち合わせ場所についた天宮城と凛音は(スラ太郎は天宮城の肩の上なのでカウントしていない)町を見回して楽しそうに会話する。


「それにしても………獣っぽい感じが凄い」

『? おかしい?』

「いや、俺がなれてないだけ」


 人間っぽい感じに耳とか角がついたような姿を思い浮かべていたのだが、80%獣である。よく知る動物が二足歩行しているようにしかみえない。


 とはいってもあんまりじろじろみるのもいけないと思うのでなるべく目を逸らすようにしているのだが。


「ファンタジーだなぁ………」


 ついそんな言葉が漏れてしまう程に普段とは全く違う町並みに戸惑っていた。


 何せ動物が立って歩いて喋って走っているのである。天宮城は帽子を深く被り直して膝の上にいる凛音の頭に顎をのせた。


『退屈?』

「いや、そんなんじゃないけどさ。俺の住んでるところとここがあまりにも違いすぎてね」

『ん。しょうがない』


 天宮城の手にすりすりと自分の頬を押し付ける凛音を真似してか、スラ太郎も天宮城の頬に自分の体を押し付ける。


「ぅおっ⁉ 冷たっ⁉」


 首筋に氷を入れられたのとそう大差ない感覚なのでちょっと驚いた。


「アレク? 何やってるの?」

「さぁ…………? あ、ちゃんと登録できたみたいだね」

「勿論よ。アレクこそ変なことしてないよね?」

「俺の事なんだと思ってるんだ………」


 ため息をつきつつ、鞄から一枚の紙を取り出す。


「これは?」

「商業許可証っていうのかな。商売してもいいですよっていう紙」

「とりあえず登録はしたが………店はどうするんだ」

「あ、それはもう何軒か探してきた。これから見に行こうと思うんだけど一緒に来てよ。それから税金のこととかも調べてきたから後で説明する」


 手際が良すぎて恐い。アインがそう告げると、


「え? ああ、あっちでは雑用っていうかこんな感じのことばっかりやってたから慣れてるんだ。とりあえず場所とか色々向こうで相談して聞いてきたしイリスさんからも一筆貰ったからそれなりにいい物件が見つかったんだよね。何軒かピックアップしたから下見に………」

「アレク」

「ん?」

「何いってるか全然判らないからもう案内して」

「あ、そう………」


 説明してもわからない人はわからない。天宮城も直ぐに立ち上がって一軒目の店候補の場所に案内した。


「大通りじゃないの?」

「大通りはやめておいたんだ」

「なんで? 人は来るでしょ?」

「馬車の通りが激しすぎて寧ろ立ち寄りにくいんだよ。だから大通りから見える位置のそれでいて歩いている人が立ち寄りやすい場所を探しておいたんだ」


 鍵をあけて中に入ると少し埃っぽい空気が外に雪崩れ込む。


「広さはまぁまぁってところね」

「会計場所が一番奥、その辺が服を並べるところになるかな」

「フィッティングルームはどうする?」

「作るよ。ただ、ここは日本と違って盗まれやすそうだからちょっと規則は厳しめにするけどね」


 他の部屋を回ってみるとこの建物は一階部分が店舗、二階部分が普通に住めるようになっていて、二階にある部屋数は3LDKだった。


「場所も悪くないからここは一旦保留にしておこうか」


 二軒目。ちょっとだけ貧民街に近い場所で広さは一軒目よりやや広い。天宮城の作業スペースなんかを確保した場合住むスペースが小さすぎたのでここは見送ることにする。


 三軒目。少し大通りから離れた場所ではあるが近くに住宅地があり、人通りはそれほど少ないわけでもない。


 最初の所と広さはそんなに変わらなかったのだが設備が凄かった。


「アレク! お風呂! お風呂があるわよ!」

「キッチンもしっかりしてるし、部屋数も中々あるな」

『私自分の部屋がほしい』


 何よりトイレが水洗だった。衛生面でもほぼ完璧である。一階の店舗の方も服や小物類、フィッティングルームを設置しても余るほど広かったので満場一致でここに決定した。


 広さ自体は二番目のところの方が広かったのだが空間を広く使えるという点ではこっちの方が勝っていた。


 直ぐに不動産屋に行き、買い取りたいと告げる。


「まいどっす! 100万に税を乗せて100万5000リギンっす」

「安くない⁉」

「? そうっすか? 割りと普通だと思うんすけど」


 家一軒より熊&猪の方が高いってどういうことだ。


「なんでそんなに動揺してるのよ?」

「いや、物価調べるの忘れてたなって………」


 日本円にしたらどれくらいなのだろうか。ローンを組む気だったので即金で払えてしまえたことに酷く動揺する。


 敷金礼金なしな上にその他諸々の値段込みで家一軒ならあの熊たちはいったいどれ程の価値があったのだろうか。


 半ば呆然としながら店を出る天宮城。


「きゅ?」

「ん、ああ、うん。大丈夫………」


 何がどう大丈夫なんだろうと自分でも思ってしまうほど意味不明な反応だった。


「あ、物価調べないと」


 今晩の食べ物調達にもいかなければ。ということで。


「では我等は討伐に行ってくるぞ」

「わかった。じゃあ俺は掃除と模様替えと買い出しと夕飯作り……なんか俺だけやること多いな」

「じゃあアレクが討伐行く?」

「勘弁してくれ」


 ということで天宮城と凛音のみ別行動となった。


『ごはん、なに?』

「まだ決めてないなぁ」

『シチューがいい』

「シチュー? じゃあメインはバゲットかな」


 どう見ても会話が親子の二人は手を繋いで街中を散策する。


 和服なので滅茶苦茶目立つかと思われたがそうでもなかった。ほぼ全裸とか布巻いただけだとか寧ろガッチガチのフルプレートとか。


 自分よりも奇抜な格好をしている人が多かったので気にしなくても問題はなかった。まぁ、少し珍しげな目で見られはしたが。


「パン一個で………3リギン? え? 3?」


 パン一個が100円だとすると1リギンは30円ちょっと。つまり100万は30×1000000で、


「三千万円………そりゃ家買えるわ。まだ安いけど」


 っていうかあの熊たちヤバイ値段で売れたなと改めて理解する。


「お? 見ない顔と恰好だね。観光かい?」

「いえ、今度ここからそう遠くない場所に店を出そうかと思っている者でして。さっき着いたばかりなので観光と言っても間違いではないのですが」

「何て店だい?」

「あー、名前はまだ決まっていないんですが服と小物を扱う店にしようかなと」

「服? そんな服かい?」

「これは正装ですから。勿論いろんな服を取り扱う予定ですので」


 世間話をしていると凛音が天宮城の手を引っ張って自分に目を向けさせる。


「どうした?」

『あれ、なに?』

「あれはコートの実って言ってね。魔力回復なんかに食べたりするやつさ。冒険者なんかは必須なもんだからパン屋のうちでもいつもおいてんのさ」


 目を輝かせる凛音に苦笑しつつ、天宮城が食べ物を幾つか指差して、


「これとこれとこれ、あとその奥のパンを4つ。それとコートの実を籠一杯分」

「はいよ。それにしても籠全部とはね。お金あんのかい」

「少しだけなら。それに仲間に冒険者がいるのでそっちにも渡そうかと」

「嗜好品としても美味しいよ。はい。全部で40リギンだ」

「? 41リギンでは?」

「なに? もしかして暗算のスキル持ちかい?」

「はい」


 くくくっとパン屋の店員が笑う。


「スキルをそんな適当に扱うんじゃないよ。内緒にしておくべきさね」

「は、はぁ……?」

「よくわかってない顔すんじゃないよ。1リギンはおまけだ。ほら、持ってきな」


 どうやら計算ミスとかではなく厚意で安くしてもらえたらしい。


「あ、その、これからもよろしくお願いします」

『お願いします』

「はいはい。何かあったら私に頼りなさい。基本ここにいるから」


 天宮城が嬉しそうに笑顔を向け、


「ありがとうございます」


 そう言うと不機嫌そうになった凛音が天宮城の腕をさっさと引っ張る。パン屋の店員は最後まで面白そうに笑っていた。

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