18ー3 港町シュリケ
クリスマスですね。関係? あるわけないじゃないですか(笑)
「これで当分は暮らせるかな?」
「そりゃね」
熊と猪だけでこれである。勿論大金を持ち歩くのは怖かったので既に収納済みだ。
「それでアレクさん。冒険者ギルドに行くんですか?」
「いえ、商人ギルドの方に」
「え?」
「え?」
なにかおかしいのだろうか。
「いや、あの、アレクさんって戦闘職ですよね?」
「? 職業ですか?」
「はい」
「生産職ですけど………?」
「あれで生産職………レベルは?」
「この前20になりました」
「は?」
目を白黒させるイリス。
「ちょっとアレク。あんまり自分の事話しちゃダメだって」
「この人にならいいと思うよ」
「なんで」
「勘」
勘で物事を決めるとは何事だと思われそうだが天宮城の勘は相当な確率で当たる。ほぼ百パーセントで。
とはいっても「なんか起こる気がする」といった感じなので肝心のなにが起こるのかとかはさっぱり判らないのが残念である。
「いや、ちょっと待ってください。アレクさんは……本当に何者なんです? 見たところその、混血種のようですし……」
「あ、わかりますよね」
「当たり前ですよ。そこまで似ている兄弟がいるのに種が違うっておかしいですもん」
琥珀と天宮城を交互に見ながらそう言うイリス。この三人はあまり混血種に偏見を持っていないタイプの人だそうでその辺りは助かっている。
禁忌だなんだと言われやすいのだ。
この三人は以前混血種に助けられた事があるそうで、その為に寧ろ混血種を保護するような活動にも参加しているらしい。
「せめてどっちかによれば良かったのに……」
「僕らに言われても」
たまたま変身できたのがこれだったのだ。どうしようもない。だからといって人間ですというと更にヤバイ。
これが一番いいのだ。
「まぁ、取り敢えず。商人ギルドには私も一緒に行きます。さっき仕入れたマウントベアとハイグリーンボアも高値で売り捌けそうですし」
マッドな笑みを浮かべながら馬の手綱を握り締める幼女。この様子だけを見たらあまりお近づきにはなりたくない。
先程から様子を見ていると普通に金の亡者である。
「それで、商人ギルドに登録するんですよね? なんの商売をするんですか?」
「服屋です」
「服?」
「はい。僕の職業が服作りに特化したやつでして」
「裁縫師ですか」
「いえ、服飾師です」
「こーでぃねーたー」
「そうなんですよ」
いろいろとよくわからない天宮城の職業はイリスでも知らないらしい。
というかルペンドラスにさえそんな職業のデータはなかったので多分この世界の誰に聞いても判らないだろう。
「商人ギルドはこっちですよ」
もう半分現実逃避に入ったイリスがさっさと道案内をする。とはいってもイリスは馬車を操作しながらなのでそれに並んで着いていっているだけなのだが。
人を避けながら進んでいくイリスを見て、
「馬車専用の道ってないんですか?」
と聞く天宮城。要するに歩道と車道はないのか、という問いだ。本当に素朴な問いである。
「馬車専用の道? 聞いたことないですけど………そんな道あるんですか?」
「いや、別に………。ただ、そうやって避けて行くのって馬車の方も大変だし危ないかなぁって」
別にないならないでもいいのかもしれないが道路を分けた方が絶対に事故も減るのにな、などと思いつつ巧みに手綱を操るイリスの手を見る。
(俺も御者できるようになったほうがいいのかな………)
車の免許すらとっていないのに大丈夫なのだろうかと自問自答しつつ馬車は車庫のような所に入っていく。
「ここで待っててください。馬をおいてきますので」
そう言ってイリスは中に入ってしまった。
「アレク。我等は冒険者ギルドに行ってくるぞ」
「ん? ああ、わかった。登録してくるのはアインと琥珀?」
「うむ。スラはお前の従魔だからな。本来はこちらなのだろうが」
「きゅ」
もしスラ太郎が人だったら冒険者ギルドに行っていただろう。
アインと琥珀は冒険者、天宮城と凛音は商人にと登録する職業を変えているが別段たいした違いはない。
どうせ皆一緒に働くのだ。
「では、行ってくる」
アインと琥珀はウィリアム達に連れられて去っていった。
「アレクさん。あ、もう皆いきましたか」
「はい」
「こっちです。あ、スラ太郎ちゃんはアレクさんの肩に」
首筋にひんやりしたものを感じながら(スラ太郎のひんやりボディ)少し古そうな建物の中に入る。
よくよく考えてみれば凛音とイリスはパッと見子供、というか幼女である。これ大丈夫かと思わずにはいられない。見た目的に。
「「「っ⁉」」」
入った瞬間、何故かエントランスに緊張が走る。
「アレクさん、こちらです。ここで受付をしてもらえる筈ですので」
妙に視線を感じながらカウンターへ行くとひょろっとした男が顔をひきつらせながら見てわかるほどの作り笑顔を浮かべ、
「い、いらっひゃいませぇ……」
と今にも倒れてしまうのではないかと思うほど弱々しい声を出す。
「すみません、登録をしたいのですが」
「は、はいっ‼」
天宮城は見て直ぐにわかったが、彼、汗がヤバイ。極度の緊張にあてられて顔面蒼白である。
その視線が自分の横に注がれていることを知ると、
「イリスさん、何かしたんですか」
「なにもしてませんよ。私は」
テンパって寧ろ動きが遅くなっている男を横目で見て、
「あれ見て何かしたのかって聞かない方がおかしいと思いますけど」
『ん。怖いっていってるみたい』
「そうですかね」
イリスの反応は楽しげだ。とはいっても他人から見れば全く判らないだろう。表情から感情の浮き沈みを直感的にわかる天宮城だから気付けたようなほんの少しの違いだ。
やはり彼女は商売人なのだろう。
「ちょっとちょっとビリュアイトさん。新人倒れちゃうよ」
「ああ、これは失礼」
クスクスと楽しげに笑うイリス。奥から出てきた男性は元々受付をしていた男性を下がらせ、ぐちゃぐちゃにしてしまった書類をてきぱきと片付ける。
「ビリュアイト………?」
「私の名前です。イリス・ビリュアイト」
「あ、そうだったんですか」
「それで、今出てきたのが」
「オリバーです。宜しく」
差し出された手を握り返す天宮城。軽く自己紹介を終えるとオリバーが、
「ビリュアイトさん。こんな風に出てこられたら本当新人教育もできやしない」
「いいじゃないですか。どんな人が出てきたって何とかしようっていう根性が育ちますよ」
「トラウマになっちゃうよ」
天宮城そっちのけで話が進んでいく。随分と親しげである。
「それで? ビリュアイトさん。やっと弟子でもとったのか?」
「とるわけないじゃないですか。偶々街道で会ったんですよ」
「ほう? 運が良かったな小僧」
「こ、小僧………」
確かに目の前の男に比べたら年下だろうが、小僧と呼ばれたのは初めてだった為に面食らう。
「で? 職業は?」
「服飾師です」
「? はじめて聞く職業だな」
首をかしげながらもオリバーはどんどんと書類を埋めていく。
「それから戦闘能力は?」
「ないです」
「嘘言っちゃダメですよ」
「いや、もう正直戦うとか無理です。スッゴい遠くからブーメラン投げるくらいじゃないと戦える気がしません」
ブンブンと首を横にふる天宮城だがオリバーは戦闘能力有りと書類に書く。
「いやなんで書くんです⁉」
「ビリュアイトさんが戦闘能力有るって言ってるからだ」
「無理ですよ。言っておきますけど、無理ですよ⁉」
「はいはい。で、ここに教えてもいいスキルとか技術とか書いてくれ」
ペンと紙を渡されたので取り敢えず裁縫、料理、暗算、付与と書く。これ以上は言う必要もないかなと思っただけで別に面倒になったわけではない。
書くのが面倒だったから、なんて理由ではない。
「お、字が綺麗だな」
「そうでしょうか」
アインが書いた字をインプットするように書いて覚えたので綺麗とか綺麗じゃないとかよくわからない。
「これで登録は終わりだ。後はそこに手を翳してくれ」
斜め前に置かれた手の絵がかかれているタブレットのようなものに手をかざす。すると指紋認証のようなものなのかはわからないが登録完了と表示された。
「ほい。Gランクだ」
「Gランク? 最初ってHでは?」
「本当はそうなんだがビリュアイトさんがいるからな。それに俺が登録に顔をあわせたし、ビリュアイトさんが戦闘能力有りと判断したなら1ランクくらいあがるさ」
「イリスさん何者なんですか」
ついでに言えばオリバーも。何故この二人がいるだけでなにもしなくてもランクが上がるのだろうか。
「ん? 言ってなかったのか?」
「ええ。そっちの方が気楽に接していただけますし」
「あんたらしい考え方だが………」
どうやらなにもわかっていないのは天宮城だけのようだ。最初からそれはわかっていたが。
「ビリュアイトさんはよ、6大陸に店舗を構えるSランクの商人なんだよ。だからこの世で一番の商人って言っても過言じゃないぜ」
「へぇ……」
「なんだ、思ったより驚いてねぇな。知ってたのか?」
「いや、規模が大きすぎて一周回って落ち着いているというか」
世界一の商人。それが幼女。なんだか納得できるような出来ないような。
天宮城は終始首をかしげ続けて登録を終えた。
後で知ったことだが、オリバーはここのギルド長、つまり一番偉い人だった。そりゃランク1つくらい簡単に上がるわけである。