17ー4 初めての外界へ!
落ち込んでいる様子の天宮城の前にコトリとマグカップが置かれる。
「なーにやってんの?」
「別に………」
亜空間作成の能力者の川瀬みいなだ。天宮城は目の前に置かれたマグカップを手で引き寄せ、カイロがわりに手を暖める。
「仕事は?」
「とりあえず落ち着いたって感じかな? 最近は支部の方で処理できるようになってきたから本部の負担減ってきたしね」
「そっか………」
ココアを飲みながら休憩する二人。なにかを思い出したように川瀬が、
「あ、そうだ。この前のお店、こっちにいれること決定したよ。あの人も喜んでたし」
「そりゃよかった」
あのあまりにも立地条件が悪いカフェである。着々と話が進んでいっているようで何よりだ。
「龍一? 風邪ひいた?」
「え?」
いやまさか。と頭を振る天宮城。別にこれといった症状はない。普通だ。
「ちょっと眠いけど、風邪ではないと思うけどな」
「どれどれ」
ピト、と額に手をやる川瀬。
「熱いよ⁉」
「あー? 風邪なのかなぁ」
「魚住さんに視てもらえば?」
「え、嫌」
「真顔…………」
真顔で拒否する天宮城。余程面倒らしい。
「風邪悪化してうつされるのも困るの」
「だって」
「子供か! ちゃんと行きなさいよ」
「やだ」
「まだ言い張るか」
こうなったら、と強行手段をとろうとする川瀬。天宮城も何をされるのか大体予想しているのでゆっくりと席を立つ。
「逃がさないよっ」
「恐いっ!」
目の前に広がる亜空間の入り口をなんとか避けて走る。扉を開けた瞬間、誰かが入ってきてぶつかった。
「ギャァァアアアアッ⁉」
「龍くん! 来たよっ」
「何てタイミングだよ⁉」
魚住だった。しかも後ろから迫っていた亜空間にそのまま吸い込まれ、なにもない空間に魚住と二人っきりという最悪なシチュエーションになってしまった。
魚住は大喜びだが天宮城は最悪である。その証拠に肩に乗っていたはずの琥珀は早々に避難している。
「さ、健康診断やろっか」
「最悪…………」
数十分後やっと解放された天宮城の体重は二キロ落ちていたらしい。何をされたかはご想像にお任せする。
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「それは災難だったわね……」
「琥珀も直ぐに退散しちゃうし」
「それは、まぁ、な」
目をあわせない琥珀とジト目で見てからなにかに気付いたように顔をあげる。
「お、街道が見えてきたぞ」
かなり遠くに石畳の道が見えた。
「やっと普通の道歩けるよー」
『今まで森だったから』
大変だった道のりを思い出しながら石畳を踏んだ。
「おお!」
「なに、アレクの国は石畳ないの?」
「あるけど俺の住んでるところにはほぼないかな。コンクリートとアスファルトばっかりだし」
「こんくりぃとって前見せてくれた灰色の壁?」
「そうそう。側溝の蓋とかにも使われてるんだ。けどまぁ地面はほぼアスファルトだね」
スラ太郎以外の全員はブーツなので足音が凄い響く。
「そんなことより、服ってこれで大丈夫なの? どうみても……」
「大丈夫よ。まさかアレクの国の伝統衣装が人狼族の正装だったとは思わなかったけど」
そう、人狼族の正装は和服だったのだ。しかも浴衣や甚兵衛、着物とちゃんと使い分けがされている。
なのに箸文化ではない。そこはなんとなくがっかりしたが。
種族問題も解決した。なんとルペンドラスの魔力が流れてきているお陰で軽い魔法が使えるようになったのだ。
とはいっても自分の魔力ではないので外に放出させることができず、精々が目の色を隠すのとケモミミを生やせるくらいである。それも滅茶苦茶疲れる。
なので普段は帽子を被って、とらなければいけないときに耳を生やす予定だ。因みにアインはもう既に耳と尻尾は狼のそれである。
最近わかったことだが、魔力操作に長けている者ほど人間に近い形をとれるのだそうだ。ほぼ人間になれるアインのスペックの高さがここで地味に判明したところである。
なのであまり魔法が得意でない人ほど姿は獣に近付いていくようだ。なんとなくその様子を想像しにくかったので見てからのお楽しみである。
琥珀はどうするかというと、なんと尻尾が生やせるようになったのだ。天宮城は耳だけなので偏ってしまった感じである。
ということで竜人のフリをするらしい。生えた尻尾がとかげのそれだったので。
凛音はドワーフだ。大きさ的にも問題ないらしい。本人は小さくないと怒っていたが。
スラ太郎はもうどうしようもない。ペット枠である。
天宮城は担いでいたバズーカを鉄扇に変更し、背中に背負う。天宮城にとっては滅茶苦茶軽いがこれ鉄の塊なので軽いはずがない。端から見ればとんでもない力持ちだろう。
「もう変えるの?」
「まぁ、いつ誰が来るかわからないから。それにもうここからは神解き任せじゃなくてもいけるだろ?」
「そうだけど」
『アレクは私が守る。大丈夫』
この中で一番弱いのは天宮城だ。とはいってももし本気で殺しあいをするならきっと天宮城が勝ち残るだろう。弱いのは接近戦なのだから遠くからひたすら攻撃していればいいのだ。
その威力がとりあえず半端ないのは確かである。
漫画とかだったらここで魔物に襲われている行商人とか出てくるのが王道だが残念ながら(そんなこと起きない方がいいのだが)なんのハプニングもなくただ草原が続く。
いい加減飽きてきた。
『まだ?』
「んー、このペースだとまだ少しかかるかな。とはいってもアインから聞いた速度より相当早いんだけどね」
「だって荷物ないもの」
「ああ、なるほど」
荷物は全て天宮城(正確には神解き)が持っているし消耗品は天宮城が出すので要らない。
こう考えると本当に天宮城は便利である。
「じゃあ街についてから何するか話しておく?」
「そうね。まず商人ギルドかな」
「だな。そこで営業許可証ととりあえず店を出せそうな場所を探して」
『あそこ、猪売れる?』
「ああ、そうね。凍ってるけど」
「それは…………まぁ………すまん」
引き金を引いたら中身がそれだったんだから。とモゴモゴと反論するが自業自得である。
「資金は大丈夫なのか?」
「とりあえず私の財産で足りると思うわよ。それとさっきの猪、相当保存状態がいいだろうから高値で売れると思う」
「おお。他に売れそうなものないかな」
「出すのはやめて」
「出さねぇよ」
そこまで能力乱用しようとは思わない。
別に急いで稼がなくてはならないわけではないのでその辺りは一旦保留にしておく。
「それにしても俺達、かなり怪しい集団じゃないか?」
「そう?」
「だって着物着て持ち物もほぼ持たず、中途半端に動物化したのが二人って。しかもアイン以外ほぼ全員種族不確定って」
「まぁ、確かに」
しかも設定では天宮城と琥珀は双子なので人狼と竜人の血が混じっているということになる。
もうぐちゃぐちゃだがこれ以上の説明が思い付かないのだから仕方がない。
「これ正装なんだよな?」
「ええ」
「正装で町中歩き回る人っている?」
「あ」
そういえばそれもそうだ。全員の考えが一致した。直ぐに店を出すのならともかく、普通に着いて直ぐは日用品の買い出しなどしかしない予定なので関係ない。
「どうする? もし変だったら今から作るけど」
『落ち着いたらでいい。歩きながらより効率はいい』
「そうか」
凛音のもっともな意見に首を縦に振る天宮城。
ルペンドラスの智識によればそろそろ………
「あ! ぼんやりだが見えるぞ」
少し高い丘に立つとそれが見える。
「首都シュリケだ!」
武装国家ジグムリーバ。天宮城は永世中立国と覚えているが、本当にそんな感じの国の首都。世界一の貿易港でもあり、各国の中でも高い地位を持っている。
『あれが………』
「町にはいれるかが問題だがな」
「それ今気にしない方がいいと思うわよ」
「きゅい……」
各々町を見て思うことは違うが新しい場所への期待が籠っているのは皆同じようだった。