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3ー1 何のために

「検査して! ちゃんとやって!」

「仕方無いなぁ」

「あんた本当になにしに来たんだよ!」


 天宮城が魚住に呆れながら服を捲って石を見せる。


「また大きくなったね」

「やっぱりか……。大きくなるにつれて能力の方も歯止めが効かなくなってきた。夢で喰った筈のやつの記憶まで全部消しちゃったみたいで」

「記憶をか……」


 石に聴診器を当てる魚住。


「やっぱり心臓と連動してるな……。その内覆いつくされちゃったりするかも」

「なにそれ。心臓なくなるってこと?」

「可能性はあるね……。その代わりはちゃんとこの石が勤めそうだけど」

「そうか……」


 黒い石をコツンとつついたり少し叩いてみたりしながら今のところは問題はない、という結果に落ち着いた。









「龍一君。あの人は一体なんだったの?」

「あの人は魚住(うおずみ)駿(しゅん)。異常察知の能力者で見て判ったと思うけどゲイ。何故かめっちゃ狙われてるんだよ俺……」


 少し不憫である。琥珀もげんなりしている。


「異常察知?」

「うん。元々医師だったんだけど色々あってここにも診療所があるんだ。自分の病院も持ってるんだけどね」

「へぇ……」


 良い男を探しているのだろうか、という考えが一瞬頭をよぎったが、気のせいだと自分に言い聞かせる水野。


「それで、今日は家に帰る……あれ? 水野さん? 聞いてる?」

「き、聞いてる! 聞いてるから!」

「そう? じゃあ送るね」

「え? 何を?」

「やっぱり話聞いてなかったんじゃん」


 くすくすと笑う天宮城。琥珀がぺちぺちと水野のリスを尻尾で叩いた。


「あ、使い同士は触れられるんだ」

「そうなんだ。俺は知らなかったな……」


 意外な新事実が発覚した。


「それでさっきの話ね。水野さんは明日仕事だよね?帰るでしょ? 送るよ」

「良いの? でも」

「いいのいいの。転移持ってる人にちょちょっと真似させてもらうだけだから」


 便利な能力である。水野なんて人の肩の動物が見えるという何に使えるのかさっぱりな能力なので羨ましい限りだ。


「ん……」


 どこか一点を見つめる天宮城。右手がトントン、と少しだけ動いている。


「龍一君?」

「よし、覚えた。いつでも行けるよ」

「早いね……」


 荷物が置いてある部屋に転移し荷物をとったら即移動、そのまま近くの路地に転移した。


「それでは水野さん。また何かあったら連絡してね」

「うん。色々ありがとう」

「それじゃあ、さよなら」


 ふっと琥珀と天宮城が消えた。


「さ、私たちも帰ろうか」


 肩にいるリスに一言そう言ってから路地の先へ歩いていった。








「龍一。結局どうするんだ」

「俺は……ここに入るよ」

「本当か!」

「再来週卒業式だし、このままだと本気でフリーターになりそうだし」


 フリーターは流石に嫌だったらしい。


「これで正式に私たちの仲間入りね」

「よろしく。りゅう」

「……うん」








「おはよう、龍一君」

「おはよう」


 学生服を着た天宮城はいつものように学校に来ていた。声をかけたのはクラスメイトの(もり)由里子(ゆりこ)である。


「今日テスト返しだって」

「え……そうだっけ」

「まぁ、龍一君ならいつものように学年一番だと思うけどさ」

「いや、あれはたまたま勉強したところが出るだけだから」

「いやみだー」

「違うって」


 天宮城と森が二人で教室に入っていくと、教室が異様な雰囲気に包まれていることに気付く。


「えっと……?」

「皆どうしたの……?」


 男子の一人がスマートフォンを持って天宮城に近付く。


「龍一。これお前だろ?」

「え?……あ」


 画面に天宮城が水野の腕を掴んで走っている写真が映された。博物館の前で逃げているときの写真だ。


「まさかお前……」

「え?」


 教室が静かになる。


「熟女好きなタイプだったのかー!」

「違う!」


 あらぬ誤解を受けていた。








「水野さん? 大丈夫?」

「え、あ、はい! 大丈夫です!」

「そう? 辛かったら休んで良いからね?」


 一方水野は苦戦していた。


(まさかこんなに気になるなんて……)


 肩に乗っている動物達が気になってしょうがないのである。琥珀の様に飛び回ったりしないのが幸いした。しかも問題はそれだけではない。


 水野は爬虫類は大丈夫なのだがイカやタコ等の軟体動物や毛虫や芋虫などのぶよぶよした虫が本当に苦手なのだ。


(一番仲が良い上司がウミウシだったなんて……!)


 気持ち悪くて見ていられないのである。


「はぁ……」


 溜め息をつかなくてはやっていけない水野だった。








「龍一! 何点だった?」

「課題点足して……98点かな」

「うっわー」

「その反応はないだろ」

「ありえんわー。お前本当に人間?」

「じゃあ俺はなんなんだよ」


 テストが返ってきて一喜一憂しているクラスメイト達を横目で見ながらノートに解けなかった問題を写しておく天宮城。


「やっぱり勉強の仕方が違うのかぁ」

「そんなことないと思うけど。俺塾も行ってないし」

「凄いよなぁ。それで点取れるんだもん」

「問題の出題形式さえ判れば皆解けると思うけど」

「それがわかんないから苦労してるんじゃないか」


 琥珀がクエスチョンマークを浮かべているような顔をしているがいまここでその顔が見えるのは天宮城だけである。


「はい、皆? どうだった? 成績に反映するテストだからしっかり大学に上がれるように復習しておいてねー」


(大学……行きたかったな)


 天宮城の場合行けないこともなかったのだが諸々の都合上就職の方が良いと判断したので大学進学は諦めたのである。


「龍一って大学行かないんだろ?」

「うん……。就職する」

「どこに?」

「んー。内緒」

「えー? なんでだよ」

「いいじゃん。秘密にしておいていつか成り上がってテレビに出たときに皆の反応面白そうじゃん?」

「ははは! お前ならやりかねないな!」


 天宮城は普段、能力を隠している。実は殆ど天宮城が能力者であると知っている人はいないのだ。


「龍一ならどこの大学だって一発合格できるだろうに」

「金がないんだよ」

「世知辛いな……」


 天宮城はどこに放り込んだって生きていける順応力があるので実際誰も心配していない。


「あ、でも晋也(しんや)は大学受かっただろ?」

「受かったけど補欠合格に近いくらいだぞ。高めのところだからキツかった」

「はは。まぁ、留年しないように頑張れ」

「他人事だと思って……」


 天宮城は中々良い友達に恵まれているようである。


「あ、龍一。これ見てみろよ」

「なに?」

「最近10人目が北海道に居るって噂が流れてるんだよ」

「何の?」

「能力者の最初の10人の一人だよ」

「へー……」


 目の前にいるのだが、指摘するつもりもない天宮城は当たり障りのない返事を返す。


「なに、能力好きなの?」

「能力はロマンだよ、男のロマン!」

「へ、へー……」

「こんな漫画みたいな世界になったのは神様のプレゼントなんだ!」

「あ、そう……」


 徐々にハイテンションになっていく柏木(かしわぎ)晋也(しんや)


「お前も男なら判るだろ! 物を触れずに動かすとか空を飛ぶとかロマンだろ! 最高じゃないか!」

「でも晋也は能力者じゃないよな」

「くぅ! まだ覚醒してないだけだ!」


(ごめん晋也……。お前には適正が見えない……)


 天宮城は可哀想だったので言えなかった。

 

「で、なんで北海道に?」

「それがさ、北海道にレベル6の周囲を凍らせる能力者がいるって噂が立っててな? それほどまでの事ができるなら最初の10人の一人なんじゃないのかって。しかも世間から隠れてるみたいでさ。それっぽくないか?」

「へぇ……」

「もっと興味もてよー」


 向こうとしては良い迷惑である。


「その人幾つなんだろ?」

「さぁ? 大学生って言われてるけど。年齢的にそうなんじゃないかって」

「あ、適当なんだその辺は」

「男はロマンを追い求める生き物だからな!」

「はいはい」


 軽くあしらう天宮城。慣れている。


(もし協会に来たら謝らないといけないかもな……)


 天宮城は実に律儀だった。









「今週中に作文提出だから忘れないように。さようなら」

「「「さようなら」」」


 天宮城は黒板の横に貼ってある掲示物を見て、


「あー。俺今日中庭掃除だ」

「龍一もか。一緒に行こうぜ」


 鞄と箒を持って一階におりていく天宮城と柏木。


「龍一ってさ、彼女とか本当に作る気ないのか?」

「なんだ突然……。ないよ」

「先週二人だろ?」

「なんで知ってるんだよ……」

「モテない男子のカレカノ情報網舐めんなよ!」

「あっそ」


 箒で砂埃を集めながら天宮城は笑う。


「第一お前にそれっぽい話聞いたこと無いぞ?」

「俺は龍一みたいにモテないからな! 畜生!」

「晋也って女に貢がされるタイプだろうな……」

「聞こえてるから! バッチリ聞こえてるから!」


 柏木は箒の先を地面に立たせてタイルの溝を綺麗に掃除していく。何故か掃除が上手い。


「お前に告白できる最後のチャンスだって考えてるんだろうな」

「そうかもしれないけど……。俺は誰とも付き合ったこと無いのにさ」

「ある意味凄いよな。今まで何人に告られた?」

「数えてない」

「俺もその言葉言ってみたかった……!」

「大学で言ってくれ」


 ゴミを集めて袋に詰める二人。手付きがこなれている。


「なんで頑なに拒否するんだ?」

「なんでって……まぁ、色々あるけど。やっぱり人に合わせるのが難しいからかな」

「十分できてると思うけど」

「いや、俺極貧だし。バイトとかもやってないと金がね……」

「極貧って……」

「だって俺の先週の夕飯なんだと思う?」

「え? コンビニ弁当とか?」

「残念。水」


 は? と言って柏木が固まった。


「え? ん? 何て言った?」

「だから水」

「それ飲み物! 飯じゃない!」

「だって金がマジでなかった。一日くらい良いやと」

「ある意味で尊敬するわ……」

「極貧だろ?」

「想像越えてたわ」


 柏木は袋の先を縛って持つ。天宮城は2本分の箒を持ってそのあとに続く。


「お前それでよく生きてられるな」

「俺もそう思う。もしいつの間にか死んでたら燃やして埋めといてくれ」

「発想が怖いわ!」


 袋を規定の場所に置き、箒を返しに教室に再び向かう。


「今日も勉強するのか?」

「うん。バイトまでまだ時間あるし。あ、作文やろうかな」

「忘れてたのに……」

「ははは。諦めてたまには早めに提出しろ」

「お前は早すぎるんだよ」


 教室に箒を戻して自分の席に座る天宮城。


「俺は帰るぞー」

「おーう。作文やれよー」

「わかってら! じゃあな」

「また明日」


 教室でペンを動かす音が響く。


「ん? どうした?」


 琥珀が落ち着かない様子で机の上に降りてきた。


「……何かあるのか?」


 くいくい、と撫でる動作をする。突然教室の戸が開いた。


「わっ! ……って先生か……」

「遅くまで残ってるのはいいが、せめて鍵の申請はしてくれ」

「あ。すみません」

「いや、天宮城が残ってるのは判ってたからな」

「そうですか。すみません、忘れてて」


 天宮城は徐に壁掛け時計を見る。


「あああああ! バイト‼」

「なんだ突然。もっと遅い時間じゃなかったか?」

「今日から少し早めに出るように頼まれてたんです! 先生! 鍵お願いしても良いですか!?」

「お、おお……」

「さようなら!」


 鞄を掴んで走っていった。


「落ち着いてるのか騒がしいのかわからんな……」


 苦笑しながら部屋の電気を消した。









「忘れてました!」

「時間間に合ってるから大丈夫だよ」


 全速力で走ってきたのか息切れと汗が凄い。


「ま、それにどうせ客はそんなに来ないし……」


 このコンビニで閑古鳥が鳴いているのは周知の事実である。天宮城も判っているのでフォローできない。


「あ、着替えますね」


 棚から仕事着を出して早速着替えて店に出る天宮城。


「店長。休んでていいですよ」

「そう? じゃあお言葉に甘えて」


 商品の整理をしながら客が来るのを待つ。


(作文も終わったし、数学の復習も粗方終了。後は物理と世界史か……。まぁ、やる必要無いんだけどね……)


 大学に行かないのに何故か勉強している天宮城は自分で自分に突っ込みながら琥珀が店内を飛び回るのを見ていた。


(暇だな)


 声に出すと店長がグレるので勿論心の中で言っている。


「いらっしゃいませ」


 やっと客が入ってきた。と思ったら滅茶苦茶柄の悪そうな面々である。


(怖……)


 根がビビりなのでカウンターの奥で縮こまる天宮城。しゃんとせいと良く藤井に言われている。


 しかし見た目が怖いだけで実際そうでもないのがお約束である。


「後チキン盛り合わせ30個」

「チキン盛り合わせ30……え? そんなに買われるんですか」

「問題あるか」

「いえ、ありませんが少しお時間をいただいても?」

「どれくらいかかる?」

「五分ほど」

「そうか。じゃ、頼む」


 会計を先に済ませてチキンが揚がるのを待つ。一言も話さないので静かなものである。


「……おい」

「……! は、はい」

「お前、俺の組に入らねぇか?」

「……はい?」

「だから、俺と一緒に来ねーかって話だよ!」

「え。それはつまり、その」

「お前、隠してるがかなり強いだろ?」


 ビクン、と見て判るほどに震える天宮城。


「い、いえ! そんなことは! 滅相もございません!」


 使い方が間違っていそうな日本語を口走る。


「俺にはわかるぜ。喧嘩慣れしている体だ」

「い、いやぁ……。護身術知り合いから習ってるだけです、はい」

「それでも十分じゃねえか。来ないか? 歓迎するぜ」

「け、結構です……」


 天宮城が勇気を振り絞って言ったその時、何かが見えた気がした。


(ん……? なんだ?)


 じっと目を凝らすと、波長が浮かび上がってくる。波長は誰でも持っているもので呼吸、心拍数などで変わってくる。また、能力者の場合、その波長の奥にもう1つ波長を持っている。


 その波長が、見えた。


「……!」

「? どうした?」

「いえ、そろそろチキンが揚がるなと」


 綺麗な回れ右を披露して奥に入っていく天宮城。挙動不審だ。ピピピと電子音がする。ナイスタイミングと言うべきか天宮城の体内時計が正確と言うべきか。


 素早く30セット作って渡す。


「お買い上げ、ありがとうございます」


 袋に入れて渡したらその腕を掴まれた。


「……!?」

「なぁ。来てくれよ。あんたがいると、なんかこう、体が軽くなった気がするんだ」

「そ、それは……」


 が反応してしまった。天宮城の心臓に覆うようにして繋がっている石は近くにあるだけで能力者の体調を少し改善させ、あることをすれば能力値まで上げてしまう事ができる。


「お断りします!」

「あんたがいると調子が良くなる気がするんだ」

「ありえませんから! 気のせいです!」


 手をなんとか引き剥がしてそのまま天宮城はバックする。


「……また来る」


 ぞっとした天宮城は近くのパイプ椅子に座り込んだ。掴まれた腕を見ると紫色の痣になっている。


「怖いんだけど……」


 天宮城が痣のある方とは反対の手で痣を包むように触れると数秒で綺麗さっぱり痣が消えた。


「どうしよ……。また来るとか言われたし……」

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