16ー10 記憶消去、請け負います。……200万で
テストがやっと終わりましたので更新速度上げられるように頑張ります!
天宮城は風呂場で肩を擦りまくっていた。
「取れない………やっぱりインクじゃないな………」
真っ赤になった皮膚の下には翡翠色に光を放つ刺繍がある。また幼馴染みにからかわれそうなものが体についてしまった。
そもそも何故こんなことになったのか。それは前日の夢の中に遡る。
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「俺、魔力使えるようになったのか⁉」
目を輝かせてスラ太郎に詰め寄る。
【勿論で御座います。拙者もご主人様から溢れ出るような魔力をこの身にひしひしと感じております】
相変わらず言葉は似合わないが、それはもう気にしないしか方法がない。
『ん、魔力ルペンドラスのもの。貴方にも、繋がれてる』
「つまり俺はルペンドラスの魔力を借りれるのか?」
『ん』
諦めていた魔法が使えるようになるかもしれない。期待に胸を膨らませる天宮城。
なんだかんだ言って憧れなのだ。ロマンなのだ。
『名前』
自分自身を指差しながらドライアドがなにかを催促するような目で天宮城を見つめる。
「? ああ、そういや名前ないんだっけ」
『ん。眷属できたから名前もらう権利ある。名前』
眷属、というのはあえて突っ込まなかった。もうどうにでもなれ。
「いや、でも俺ネーミングセンス無いし……」
『適当でいい』
「そうもいかないだろ………名前だからな」
そういえば宝石の名前がセカンドネームになるとアインから聞いた。それも考えた方がいいだろう。
「あ、でもセカンドネームって勝手に決まるか」
自分のロードライトも誰も話題にしていないのに勝手に決まった。
「じゃあやっぱり名前だけでいいのか」
チラ、とドライアドを見ると期待の目でこちらを見ている。正直すごくやり辛い。
「えっと、希望ってある?」
『? ない』
終わった。もうこうなったら頑張って捻り出すしかない。そう思ったら、
『でも、同じような名前がいい』
「俺と?」
『ん。りゅういち、同じようなの』
「日本風の名前がいいのか? スラ太郎みたいに?」
コクコクと首肯くドライアド。どうやらスラ太郎はアリらしい。基準がもうわけわからない。
「えっと……和名、和名……それでいてこっちでも違和感無さそうな……」
唸っているとドライアドが眠くなったのか天宮城の膝を枕にして寝始めた。自由だな、この子。
そう考え、
「あ、そうか」
それでいいじゃん。そう思い、もう少し色々考える。
スラ太郎に貰った紙切れで候補を幾つも書いてはグリグリと斜線を引っ張って消し、書いては消しを繰り返す。
「どうかな……?」
自分自身のネームセンスがあまりないのを自覚している天宮城。何度も考えてやっと出した答えでも不安は不安なのだ。
「ドライアド」
『ん………?』
「これで、どうかな?」
紙を渡す。
『………』
「あ、嫌だったら全然別の考えるし、その」
沈黙したドライアド。気に入らなかったのか。
『いい』
「え」
『気に入った』
「そ、そう? なら、よかったけど」
本当に嬉しそうな顔をしているドライアド。なんだか恥ずかしくなってくる。
『私の、名前。初めての、名前』
本当に嬉しいのか紙切れを持ってピョンピョン跳び跳ねる。
『凜音!』
天宮城は最初、他の神精霊達のように名前を長くした方がいいのかなどをずっと考えていたのだが、よくよく考えてみれば自由でいいのだ。
わざわざ他の国にルペンドラスの情報を開示する必要もないので寧ろ短い方が都合がいい。
ルペンドラスの中にある穴に天宮城を連れていこうと手を引っ張る凜音。
スラ太郎はそれを見て直ぐ天宮城の肩に乗る。首筋にひんやりした感覚がして、一瞬ドキッとした。
手を引かれるまま穴に入ってみると思ったより広かった。普通の家の一室程度の広さはある。とはいえ天井が凜音仕様なのでかなり腰を屈めないと頭をぶつける。
「っと、凄いな……」
ずっと下を向いたままだった天宮城はその場に座って上を見上げる。すると天井に巨大な蜂の巣がはまっているかのような柄だったことに気づいた。
片目を瞑って調べてみるとある鉱石だったことが判明した。雪の結晶のようにある一定の形から場所によって様々な形に変化するらしい。
穴の中なのに明るいのはこれが自然発光していたからなのだ。
どうやら魔力を流すと光る天然のライトらしい。流石は異世界。
『こっち、こっち』
休憩している天宮城を更に奥へと誘導する凜音。どんどん道が狭くなってくる。もう腰を屈めるより四つん這いになった方が楽なのでは、と思うほどの通路になってきた。
結局四つん這いになって進み、その状態で数分移動する。
「り、んね……。ちょっと待って………ゼェ、ゼェ、これ案外キツイ……」
思った以上の重労働。その理由は未だに肩に乗ったままのスラ太郎も含まれていた。
『もう直ぐ、ガンバ』
立ち止まるつもりはないらしい。何とか進んでいくと小さな扉があった。
『ん、ここ』
「え、俺入れるか……?」
相当狭い。肩幅がつっかえそうだ。
『ん』
凜音に差し出された手をつかんで取り合えず入ってみる。
「いや、これムリで―――あだだだ⁉」
後ろからスラ太郎に全力で押され、前では凜音がぐいぐい引っ張る。格闘し始めて5分弱。ようやく通れた。
「俺、帰れないかもしれない………」
帰りもここを通らなければならないのかとぐったりする天宮城を横目にズンズン進んでいく凜音とスラ太郎。
最早立ち上がる気力もなく匍匐前進のような体勢でついていく。
『着いた』
「………?」
ほぼずっと地面しか見ていなかった天宮城が顔を上げると目の前に何らかの石碑があった。どうやらここは天井が高いらしく天宮城でも普通に立ち上がれるだけでなく、竜形態の琥珀でも問題ないくらいの広さがあった。
「ここはルペンドラスの内部か?」
【丁度中心部分で御座います】
スラ太郎のノートを見ながら辺りを見回す。内部は空洞だったのか、というのは少し驚きだったが意外にも確りしている。
天井はほぼ無いに等しく、頂上は見えない。このまま上にいけばルペンドラスの丁度真上に行けるのだろうか。
『ここ、来る』
石碑の前に行き、天宮城を呼ぶ凜音。天宮城は言われた通りに石碑の前に胡座をかいた。
そしてその上に凜音が乗る。
「これ、なんだ?」
『読む』
天宮城の手をとって石碑に触れさせる。
「いや、でもこんな文字見たことないんだけど」
そもそも日本語とこの世界の言葉、それと簡単な英語がなんとなく理解できるくらいの語学力しかない天宮城によくわからない文字の羅列にしか見えないこれを読めというのはいくらなんでもハードルが高い。
『ん、誰も読めない』
「じゃあなんで俺に読めって?」
『わかる』
「? どういうこと?」
言葉数が少なすぎて意味不明である。
前に視線を戻す。やはり読めない。そもそも掠れていてかなり見えにくい。
「日本語ならわかるんだけどな……」
いくらそう言ったって翻訳してくれる訳ではないのだ。それは十分分かっている上での発言である。
「?」
次の瞬間、天宮城が訝しげな表情をしてじっと石碑を見つめる。
「ん?」
指でゆっくりと下から上へ、字をなぞっていく。
「……大樹の主よ、これを読めていたら幸いだ。この木は特殊であるから他人の手に渡って欲しくない。故に大樹の守り神ドライアドにこの木の権利をすべて引き渡す。だが、これを目にしているということはドライアドが信頼できる仲間を見付けたのだな。父として嬉しく思う。ドライアドよ。いや、もう名前は貰ったのかな。私が共に居てやれなくてすまない。父として最悪の事をお前にしてしまった。これからはその仲間と共に世界を見て回りなさい。これが私の伝えられる最後の言葉だ。忘れないでくれ。私はいつまでもお前の味方だ」
……読めた。何故かはわからない。だが、すんなり読めた。まるで言葉自体を最初から知っていたかのような感覚だ。
『父様………』
凜音は泣いていた。天宮城は事情もなにも知らないのだが、この文面を見て凜音に対する深い愛情は感じとることができた。
なにも言わず、凜音が落ち着くまでその頭を撫で続けていた。
―――実は、その下にも文は続いていた。
【これを読んでいる君へ。君は男性かな、女性かな? ドライアドが選んだのだからきっと素敵な人なのだろうな。どうしても君に言っておかなければならないことがある。ドライアドは君の側から離れることが出来ないと思っているが実は離れていても問題はないんだ。一人にさせたくないという親心でドライアドにそう伝えてしまっているけどね。この事はドライアドには伝えないでくれると嬉しいな。君はこの大樹の力を手にいれた。それで何をしてくれても構わないがうちの娘を泣かせるような事だけはしないでくれ。それからその子を連れてある場所へ行って欲しい。場所は君ならわかるだろう。長々とごめんね、親として心配なんだ】
これから先の旅路に幸運に恵まれますように。そう最後に書かれていた。端に名前らしきものが彫ってあったが掠れて読めなかった。