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16ー7 記憶消去、請け負います。……200万で

『もう、来ないの……?』

「え⁉ ちょ、誰⁉」


 困惑している天宮城だがとりあえずかなり年下とはいえほぼ全裸なのは不味い。日本だったら確実にお巡りさんに連行される。


 どこに目をやったらいいのか判らずにとりあえず虚空に手を滑らせる。職業ジョブのお陰で体の一部だけを見ただけでもサイズがなんとなくわかるようになっていたのでそのサイズの服を適当に出す。


「えっと、とりあえずこれ着て?」

『………着なきゃダメ?』

「俺が困るかなぁ」

『わかった』


 下着すら着ていない。ギリギリその辺りにボロ布が巻いてあるが気休めもいいところだ。ほぼ丸見えである。


 勿論天宮城はロリコンではないし見えていたところで幼馴染みの(特に結城)全裸を見ることも少なくないのである程度耐性がある。


 女子の癖にズボラな結城はタオル一枚でリビングに入ってきたりするので慣れている。しかもそれがたまに緩んで落ちたりしているのに気にもしない。


 女としてそれはどうなのだと聞きたいところだが結城は結城なので仕方ない。


『これで………いい?』

「なんでズボンが手に入ってるの」

『わからない……』

「着方が?」


 こくり、と頷く。天宮城は結局全部着せた。着せる際にボロ布も取ったので結局なんとか隠れていたところまで全部見えた。結果的に全身余すところなく見てしまった。


『なんか……かさかさする』

「服ってそんなもんだからなぁ……」


 着なれていない人からすればそんなものだろう。


「……で、君の名前は?」


 やっと本題に入れた。


『わからない』

「………種族は?」

『わからない』

「えっと、どこから来たの?」

『わからない』

「…………」

『…………』


 もう質問することがない。


「なにも覚えてないの?」

『ここ、家』

「そうなんだ………」


 熊が住んでいるのかと……とは流石に言えなかった。


『ずっとここにいる』

「どれくらい前から?」

『気付いたらいた。動物たちとはずっと知り合い。そこの子も知り合い』


 スラ太郎を指差す。


『ずっと、あなたを見てた。大丈夫かなって思ったからその子に連れてきてって頼んだ』

「え、そうだったのか」

「キュ。キュイキュッ」

「ごめん俺スライム語はわかんないや……」

『勝手に連れてきてごめんねって』

「わかるの?」

『わかるよ。皆わかる』


 天宮城はスラ太郎を撫でながらその場に座る。それを見て、


『ここに、いてくれるの………?』

「急いで帰らなきゃ行けない用もないしね。スラ太郎が気に入ってるみたいだし。俺もここは好きだ」


 動物たちも少し遠巻きにこちらを見ているがそこまで警戒しているようには見えない。


「折角だからお茶でも飲みながら話そうか。スラ太郎はどうする?」

「キュ!」

「はいはい」


 欲しい! と目を輝かせるスラ太郎。天宮城は苦笑しながら空中からカップとティーポットを取り出し紅茶をいれた。使い終わった茶葉をスラ太郎が取り込む。


 じんわりとスラ太郎の青透明な体が紅茶色に染まった。


「どうぞ」

『?』

「こうやって飲むんだよ。熱いから気を付けて」

『いい香り。でも思ったより甘くない』

「蜂蜜入れる?」

『蜂蜜?』


 空中でくるりと指先を動かすとそこから金色の蜜がトロリと垂れてきてカップのなかに静かに落ちる。


 天宮城はスプーンでそれをかき混ぜてまた渡す。


「熱かったらスプーンに掬って飲んでごらん。こうやって」


 実践して見せると握り込むようにしてスプーンを持ち、恐る恐る口にいれた。


『甘い………!』

「どうかな? 紅茶は好きになった?」

『うん』


 花の咲くような笑みを浮かべてカップの中の紅茶を冷ましながら少しずつ飲む。


 嬉しそうなその様子を見ながら天宮城も紅茶を飲む。干し葡萄が好きだというので干し葡萄をおやつとして出したら周りの小動物まで寄ってきた。


『これ、私の』

「クルルル」

「ミャー」


 お皿をもって走り回る女の子が微笑ましかった。動物達にも干し葡萄をあげたら物凄い懐かれた。胡座をかいて座っていたのだがその上が毛玉だらけである。


『ここ、甘いものがあまりないから……』

「そっか。蜂蜜とか置いていこうか?」

『………いいの?』

「いいよ。出そうと思ったら幾らでも出せるしね」

『ありがとう』


 もう正体とかどうでもいいや、と思い始め、紅茶を口に含む。


「なんでここにいるんだ?」

『ここにいたから。それだけ』

「? そう」

『私、ずっと世界を見てた。ニールとナールはずっと他の種族と暮らしてるけど、私は違う。人なんて、私たちのことどうも思ってない』

「ニールとナール?」

『仲間』


 仲間いたのか。暮らしてる、ということは現在進行形なのだろう。


『あの二人は凄い。だから私はダメ』

「駄目って、何が?」

『怖い。いつ殺されるか判らないところになんていけない』

「そっか。じゃあそれはそれでいいんじゃないか? それも一つの生き方だろうし、それが駄目とか良いとか結果論じゃないか?」


 逃げることの何が悪い? 天宮城の目はそう語っていた。


「別に逃げたっていいだろう。大事なのは自分で行動することだと思うよ?」

『自分で?』

「そう。流されて人の言うままに生きるより自分で色々やって失敗する方が辛いかもしれないけど、生きたって実感はわくだろう? 俺は自分を殺してまで生きたくはないかな」


 天宮城は結果より過程を重んずるタイプの人間である。勿論結果も大切なので蔑ろにはしようとは思わないのだが、失敗してもその次に繋がる何かをその過程で見つければ良いと考える人なのだ。


『あなたがここに来たとき、いつも泣いてた』

「…………え?」


 ここに来たのは今さっきが初めてだしいつもなどという回数は当然ながらありえない。


『白竜を拒絶して逃げてるのを良く見た。だからあなたがここに来たとき、直ぐに死ぬと思った。白竜はあなたの想いそのものだから。想いから逃げるのは、苦しいから』


 白竜とは琥珀の事だろう。琥珀を拒絶していた、というのは夢使いを手にいれてすぐの話だ。


「君は、一体………?」

『わからない。ずっとここにいるだけ。この世界の始まりから』


 天宮城はアインが世界樹の授業をしたときに言っていたことを思い出した。


===============


「この世にある世界樹の中で見つかっている二本には精霊がついているの。精霊はどこにでもいる存在で精霊魔法使いくらいしか見ることが出来ないんだけどね、その木にはとてつもなく力の強い精霊が宿っているからか誰でも姿を見ることができるのよ」

「へぇー。じゃあ俺も見れるのかな」

「許可さえ降りれば見れると思うわよ?」

「おお。ってあれ? 前もチラッと精霊の話って出たよね?」

「出たわね。おさらい程度に確認しておきましょうか」


===============


 天宮城は目の前の少女をまじまじと見て、


「精霊の格は下から微精霊、小精霊、精霊、大精霊、準精霊、帝精霊。それと………神精霊。君は………三柱ある神精霊の一柱(ひとばしら)、名無しのドライアド、か?」

『そう』


 神精霊は世界樹にのみ宿る精霊で世界に三本しかないので当然三人のみである。


 名無しと呼ばれる所以は未だ発見されておらず、人と契約していないからである。


 他の二柱は既に人と暮らすことを決めているのである一族と契約を交わして名を持っている。


「さっき言ってたニールとナールっていうのは、イフリートのニルバート様とウンディーネのナルティレット様だったりする?」

『する』

「OH MY GOD………」


 神なんてあまり信じてはいないくせについこんな事を言ってしまうくらいには混乱していた。


 分りやすいように例を出せば目の前の女の子が総理大臣の娘でした、くらいの衝撃である。実際はもっと驚いているが。


「なんとか状況理解はできたぞ。うん。それで、ドライアド様、でいいのか?」

『様なんていい。ドライアドでいい』

「そうか? じゃあドライアド。なんで俺を此処に呼んだんだ? わざわざ自分の存在がバレるリスクなんて背負わなくたってここで安全に暮らせるだろう?」

『うん。でもあなたは違う。他世界の人間族、でしょ?』


 一瞬天宮城の右手の小指が動いた。逆に言えば眉ひとつ動かさなかったのだ。普段から演技をし続けているせいだろう。


「そうだな。それで?」

『ずっと見てて思った。あなたは弱い』

「はっきり言うね。弱いけどさ」


 小さく笑う。


『だから』

「え?」

『助けてあげる』


 ドライアドの深緑色の目が、天宮城の心の奥底を覗きこむかのように天宮城の目に真っ直ぐと向けられた。

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