16ー5 記憶消去、請け負います。……200万で
ステータスのスキルのところ、見辛いので変えました。
ふわふわと湯気の舞う部屋の炬燵に足を突っこみ、大袈裟にため息をつく。
「ため息をつくと幸せが逃げるって言ったの誰よ。私の分まで逃げちゃいそうじゃない」
「………」
反論も出来ない天宮城はアインに向かって虚空から取り出した蜜柑を渡す。
「いや、俺だってため息なんてつきたくないんだって」
「じゃあやめればいいんじゃない?」
「不可抗力なの」
自分の分の蜜柑をむきながら片目を閉じる。
「両目開けてるときの制御はできるようになったんだけど、未だに片目がな………」
その目に映るもの全てに説明書きがついてしまっていてかなり周囲が見辛い。
バズーカの照準を合わせるときに気付いた。
「寒い!」
「………開けっ放しにするなよ」
ドアが開け放たれ、出てきた男が炬燵に避難する。天宮城が扉に手を翳すと自動でそれが閉まる。
「それ便利よねー」
「ん? ああ、確かにな。自分の出したものしか扱えないけど」
天宮城は自分が出したものなら触れずに動かしたり消したりすることが出来る。ただ、動物を出した時はまた別なのだが。
「おお、それくれ」
「琥珀………お前普段何やってんの? 俺が勉強してるとき大抵近くに居ないけど」
「別にいいだろう。よこせ」
「あ、それ俺のっ」
蜜柑を取り合う二人を頬杖をつきながら見ていたアインが、
「やっぱり双子にしか見えないのよね……」
「「え?」」
目の色や髪の色は違うとはいえ、琥珀と天宮城は顔が同じなのだ。
「ねぇ、顔って変えられないの?」
「琥珀のは無理だな。琥珀ってなんにでも大抵なれるんだけど細かい調節できないらしくて」
ひとつの動物につき、その顔しか出来ない。つまり、人間に変身するなら天宮城そっくりにしかなれないのだ。顔だけ別人にするとかは出来ないのである。
「じゃあ降りるときどうするの?」
「降りるって…………ああ、これからのこと?」
結局琥珀に全部蜜柑を取られて自分の分を新しく出す。
「人間ってのは不味いんだろ?」
「不味いどころの騒ぎじゃないわね」
神聖化された種族が気紛れで山から降りてきたとか、絶対になにか厄介ごとに巻き込まれるに決まっている。
「アインは確か今は耳と尻尾しまってるんだろ?」
「そうよ。ほら」
アインの頭の上にピョコン、と狼の耳が現れる。いつも隠しているのはここに来る際、なるべく人間に近い形で行かなければならないというよくわからないしきたりに則って隠していたのだが、魔力の練習になるからとずっとしまうようにしているのだ。
「俺に魔力ないからなぁ」
「そこなのよね…………あ」
「ん?」
「いや、ひとつあったかも」
アインが最後の蜜柑を口のなかに放り込みながら、
「混ざりモノならバレないかも」
「混ざりモノ?」
それを言った瞬間、琥珀の眉間にしわがよる。
「正気か」
「正気よ? 人間って言うよりいいじゃない」
「?」
唯一わかっていないのは天宮城だけのようだ。
「混ざりモノってなんだ?」
「……混ざりモノとは雑種のことをいう。他種族が混ざるせいか、ごく稀に魔力を持たない者が産まれる」
「それの何がいけないんだ?」
「魔法とは力。昔程ではないが今もそういった感覚が抜けきっていない。その力を持たぬものは迫害の対象になる」
昔程ではない。琥珀はそう言った。逆に言えば琥珀は昔を知っているのだろうか。そんな疑問が浮かぶ。
「お前など人攫いにすぐ捕まって売り飛ばされるぞ」
「え」
なんで、と言いかけて思い出す。
「そういや、前にアインが魔力を持ってない人は大抵奴隷にされるって」
「うん。けど、奴隷市場でも魔力を持たない人は禁忌だって言われて中々買われないの」
「それなのになんでそんなこと?」
「簡単よ。私が近くに居ればいいもの」
「?」
またしても天宮城をおいて話が進みそうである。
「………ああ、そういうことか」
「俺にわかるよう説明してくれ」
「十氏族……アインの人狼族や鬼族らには人を庇護する権利がある。簡単に言えばお前は奴隷にならずともアインの下僕になっているということだな」
「わかった自分が辛いんだけど………」
奴隷という立場を使わずにある程度の人を護衛などに雇うことができるという権利なのだそうだ。
「つまり俺はなにも言わなくてもアインの下僕である、と」
「そういうことね」
「そういうことだな」
「……………」
アインの隣にいるだけでそう解釈されるのだ。下僕とかちょっと嫌である。
「それ以外の方法だと奴隷になるとか、まぁ、うん。色々あるのよ」
「なんだその含みを持たせた言い方………」
言葉尻が曖昧になっていくアインにジト目を向けながら、琥珀に目を向ける。
「俺が雑種だとして、だ。こいつはどうすんの」
「む? 別行動ではないのか」
「え、そうする?」
「いや、一緒に行く」
「どっちだよ」
顔が同じなので双子という事にすればいいか、と適当に考えて蜜柑の皮を床に置く。
「キュイッ」
ぽよぽよと跳ねてきたスラ太郎がそれを取り込み、体内で溶かす。ジュワァァァ、と生々しい音がするがもう大分慣れた。
スラ太郎。天宮城が本当は魔物を倒してレベリングするために出したスライムなのだがあまりに可愛すぎて殺せなかったこの小動物(?)は現在天宮城の知らぬ間に死闘を繰り返しその力を相当なものに引き上げていた。
誰の為のレベリングなのか。最早わからなくなってきた。
因みに。スラ太郎のレベルは現在42。アインと琥珀曰く「こんな努力家のスライムはスラ太郎だけ」らしい。
「あー、ふにふに」
「キュピ」
何故かは判らないがスラ太郎は天宮城の枕になるのが好きらしく、よく寝転がれと天宮城を急かしている。
琥珀やアインの枕はやんわりと断るので、一応天宮城のことを主人と認めてはいるようだ。
残念ながら天宮城のレベルはスラ太郎の四分の一もないのだが。
現在の天宮城のステータスはこれである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【名前】 アレキサンダー・ロードライト
【種族】 人族 絶滅種・希少種
【職業】 服飾師
【レベル】 10
HP 100/100(↑70up)
MP 0/0
SP 200/200(↑128up)
攻撃力 30(↑13up)
敏捷 70(↑16up)
魔力 0
魔耐 20(↑13up)
防御力 20(↑6up)
知能 720(↑28up)
器用さ 790(↑29up)
体力 30(↑7up)
回復力 20(↑10up)
【スキル】 服飾師 鑑定(レベル1)・裁縫(レベル2)・デザイン(レベル3)・最適化(レベル5)・暗算(レベル10)
【加護】 なし
【レイド】 なし
【専属武器】 バズーカ砲〔神解け〕
【装備】 なし
【従魔】 スラ太郎(種族名・スラ太郎)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「もうこれ俺絶対に戦うなって言ってるようなものじゃん」
全ての数字が何故こうも綺麗な数字になるのか。それはスキルである最適化がここでも働いているからである。
それにより物凄く見やすいものとなった。スキルが1のくらいを全て四捨五入したからである。
これによりなけなしの数字がさらに減ることになっているのはもうどうしようもないことである。