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2ー2 お使い様

「龍一。居るか?」

「秋兄? 居るよー。水野さんもだけど」

「入ってもいいか」

「どうぞー」


 カチャ、と扉を開ける藤井。後ろには風間も居る。


「どうしたの?」

「お前が喰った奴が起きた。取り調べをしたところ気分が高揚していて全く覚えていないと言った。……原因は判るか?」

「多分、だけど。……込み入った話になりそうだから中入って」


 部屋に二人が入っていく。因みに天宮城の後ろをドラゴンが飛んでいるのだがこの二人には見えていない。


「込み入った話、って?」

「多分こいつのせいだと思う」

「石?」

「うん……。最近力の強さが圧倒的に違ってきている。俺のバクが影響してる可能性もあるにはあるけど。これが直接俺の中に力を流し込んできているんじゃないかって思う」

「それは龍一の体の一部だろう?」

「そうだけど」


 天宮城は服をはだけて胸の部分を見せる。


「怪我したりするとここが光るんだ」

「じゃありゅうのそれは一体……? 力の集合体ではあるみたいだけど」

「そうなんだよな……。判らないけど、段々力は強くなっていってる気がするんだ」

「回復も?」

「うん」


 水野が風呂場から出てきた。


「龍一君……あれ? 藤井さんと、えっと、風間さん?」

「そうでーす。お邪魔してます」

「お邪魔してます。龍一に話がありまして」

「あ、そうですか」


 天宮城の膝の上でドラゴンが寝入っている。相変わらず可愛い。


「龍一。明日魚住さんのところに行け。それをしっかり診てもらえ」

「突然だな」

「仕方無いだろう。お前がいつ来るか判らないんだから」

「呼べば来るよ」

「龍一。お前やっぱりここで働け。頭の良いお前なら理解できるだろう?」

「頭は良くないけど……。理解はできるさ。でも」

「4年は待ってる。これ以上はお前を無関係の他人にしておくと確実に誰かに襲われるぞ」

「もう遅い気もするけどね……。秋兄。それだけじゃ無いだろ?」


 水野があまり聞かない方がいいと判断し洗面所の方に歩いていく。気になったのかその後ろをドラゴンも付いていく。


「お前には流石に判るか。龍一の力はこれ以上秘匿しきれない。かなり限界だ。こっちとしても同じ能力を持った人が現れてもおかしくないと踏んでいる」

「判ってるよそんなの。でも何となく……これを使えるのは俺だけだって判る」

「根拠は?」

「何となくでしかないよ。ただ、この力は多分引き当てるのが相当難しいと思う。引き当てても使いづらいし……」


 何て言えば良いのかな、と天宮城は暫く考える。


「それにもし現れたところでどうしようも無いでしょ」

「それはそうだ。ただ、その力を求める人なんて数えきれないほど居るぞ」

「それぐらいは俺にでも判るさ。秋兄に言われなくても、ね」

「りゅうは皆の中で一番頭良いもんねー」

「そう言うことじゃない。ただ、ここに居るだけで誰かのレベルを上げる危険性もあるし……。水野さんみたいに覚醒させる可能性もある」


 風間がうーんと唸る。


「私達がずっとついてれば良いと思うけどな……」

「精神的にやだ」

「えー」


 確かに四六時中誰かと一緒というのもキツいだろう。


「どうなろうと龍一はここに協力はしてもらうぞ」

「それは……判ってる。自分で撒いた種でもあるし」

「りゅうは考えすぎだと思うよ」

「結城は考えなさすぎ。ここの設計だって全部俺に押し付けたくせに変な機能ばっかり追加しようとしてきて」

「だってあの中で設計図書けたのりゅうだけじゃん」

「そうだけどさ」


 中学生の設計図で作られているらしい。凄すぎる。中学生に任せる人達も凄すぎる。ある意味で。


「また話逸れたな……。しっかり考えるように。じゃあな」

「りゅうー、バイバイ」

「あ、ああ……」


 靴を持ったと思ったら転移ですぐに飛んでいった。嵐のような人達である。


「水野さん。ごめん。ちょっと待たせちゃった」

「いいよ。この子が面白かったし」

「え。なんかやってた?」

「一生懸命タオルを取ってこようとしてるんだけど実体がないからすり抜けて焦ってて。それが可愛くてね」

「へぇ」


 ドラゴンがエッヘンとでも言いたそうに大きく胸を張る。上を向きすぎて後ろにころんと倒れた。それを見た二人はどちらからともなく笑った。


「こんなことに巻き込んで、本当にごめん」

「いいのよ。なんだかんだ言って楽しいしね」


 肩のリスが照れてます、みたいなモーションをとる。天宮城には見えていないのだが。


「それじゃあ、おやすみなさい」

「おやすみ」


 その後二人は少し離れたベットに入り、就寝。水野の枕元にリスが下りてきて丸まって寝て居るのをみて、何となく和んだ。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「え?」


 水野は気付いたら水の上に立っていた。明らかにおかしいのだが、水の上にちゃんと立てている。下では美しく透き通った水の中に魚が悠々と泳いでいる。


 まるでテレビで見るような美しい湖のようだった。


 陸が全く見当たらないところを見ると相当広いのだろう。


「水野さーん!」


 上から声をかけられ、そのまま空を見上げると白い竜に乗った天宮城が降りてきた。音もたてずに水の上に飛び下りる。


「龍一君? え? ここは?」

「俺もよく判らないんだけど、多分水野さんと俺は妙に波長があってるんだと思う。俺の夢世界に入っちゃってるし」

「ここ夢世界? 前は草原だったよね?」

「イメージ次第なんだ。好きに作れる。夢だから現実でもないけど」


 足から首まで30メートルはありそうな白いドラゴンが水野をまじまじと見る。


「えっと」

「水野さん。こいつは俺の使いと考えてもらって良いよ」

「え? あの小さい子?」

「そうそう。バクだから夢世界では大きさが戻るんだ」

『小さい子とは心外な』

「じゃあ現実世界でも頑張ってよ」

『干渉できぬのだ。無理なものは無理だ』


 殆ど口を動かさずに話している。喉から声を発しているのだろうか。


「そうだ、水野さん。折角だから良いもの見せて上げる」

「良いもの?」

「うん。掴まって。行くよ」


 天宮城の手に触れると地面にしていた水が突然普通の水のように固くなくなりドボン、と二人は水の中に落ちる。


「!?!!?!??」

「息できるから。ここ夢だよ」


 くすくすと笑いながら水野に周囲を見るように促す。


「わぁ! 綺麗!」

「ふふ。喜んでもらえてなにより」


 透明感抜群なのは上から見ていても判っていたのだが、中に入るとより一層それが感じられる。


 世界一美しいと言われても納得できてしまうほどの美しさだ。岩場には海藻類等が生え、そこかしこを魚が往来する。


 水の中に入り込んでくる光が美しく反射し、光のカーテンを作り出す。そこを海亀がゆったりと泳いでいく。


 お伽噺のような光景に言葉を失う。


「こんなことくらいしか出来ないけど」

「ううん! これ本当に綺麗! 最高!」

「そっか。よかった。もっと綺麗な場所にいこうか。琥珀!」


 そういうとドラゴンが海上から入ってくる。


『人使いが荒いぞ』

「竜だろ。あそこに連れてってくれ」

『仕方ないな』


 ピカッと一瞬光る。眩しさに目を瞑る水野。目を開けたときにはかなり大きな白いイルカが一頭いた。


「ベルーガ、じゃないわね」

「ただ白いバンドウイルカだよ。さ、乗って」

「乗るの?」

『乗らぬのか?』

「喋った、ってことはさっきのドラゴンさん?」

『うむ。ここでは体などあってないようなものだ』


 意外とアバウトな存在だったらしい。


「どうやって乗るの?」

「こうやって、と」


 馬に跨がるように乗せられる。


「落ちそうね」

「落ちても大丈夫だし、俺が後ろに乗るから安心して。頼んだぞ琥珀!」

『任せろ』


 グッと背鰭を掴むと物凄い勢いで進みだした。


「は、速い!」

「ふふ。すぐ着くよ」


 まるで水の中を飛んでいるような速さで二人を乗せた白いイルカが泳いでいく。


 すると、洞窟のようなところについた。


「よし、ついた。ありがとう」

『うむ』


 イルカが二人を下ろすと小さな肩に乗るサイズのドラゴンになった。


『この姿なら我も入れるだろう』

「なんだかんだ言って好きだよね、その形態」

『そんなことはない』


 尻尾が軽く左右に揺れているのは何だろうか。


「龍一君? ここは?」

「俺のお気に入りの場所。本でこういうところの写真を見てね。作ってみたんだ」


 慣れた様子でどんどん奥に入っていく天宮城。


「ここの先だよ」


 洞窟の先には、苔が生えた岩が所々点在している美しい水の庭だった。


「綺麗……!」

「ここは夢の中だけど、来て良かったって思えるでしょ?」

「ええ!」


 光が淡く乱反射し、優しく包み込んでくる。透明度も抜群に高いのでまるで空に浮いているように見える。


『見せてやればよい』

「ああ、そうだな」


 天宮城はパンっと柏手を打ち、何かを念じるようにぐぐっと力を込め、手を離す。


「えっと?」

「来るよ」


 気付くと、イルカがどこからか群れて現れた。


「え?」

「ここは俺の夢の中。好きに弄れるんだ」


 イルカを優しく撫でながら柔らかく笑う天宮城。それを見た水野は顔を赤くする。


『ほう……?』


 一人……いや、一匹それに気付いていたが天宮城が気付く筈もない。


「おっと。そろそろ時間だ」

「時間?」

「夢は醒めるものだよ。水野さん。じゃあまた夢の外で」


 水野は周囲が暗くなっていくのを感じた。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「おはよう。ゆっくり寝られた?」


 水野が目を覚ますと天宮城がキッチンで何か作りながら話し掛けてきた。


「ええ。久し振りにあんな良い夢見られたわ」

「それは良かった」


 ぱたぱたとドラゴンが飛んできた。意味深に笑った。


「え? 何?」


 にやにやしながらキッチンと水野を交互に見る。それを目で追ってから顔を真っ赤に染める水野。


「まさか、あなた夢のこと覚えてるの?」


 ぐっとサムズアップして小さな手をだす。


「きゃぁぁ………」


 小声で悶絶する水野と肩に乗っているリス。それに全く気付かない天宮城。意味深な笑みを浮かべながらサムズアップしているちびドラゴン。カオスである。


「あ、水野さん。顔洗ってきて。場所はわかる?」

「え、ええ! 大丈夫!」


 走って洗面所に向かう水野を見て、天宮城は何をしてるんだろう? と首をかしげていた。





「いただきます」

「いただきます」


 天宮城の作ったクロックムッシュを二人で食べる。


「おいしい! 料理うまいのね」

「これはほとんど挟むだけだから。独り暮らしで慣れたって言うのもあるけど」


 もしゃもしゃと頬張りながら話す水野と少しずつ切り分けながら食べ進める天宮城。どっちが大人かと問いたくなる。


 すると、ちびドラゴンがぴょんぴょん跳ねながら近付いてきた。


「お、食うか?」


 小さく切って手のひらに置くと、小さな手で掴んでもしゃもしゃと食べ始めた。


「え? 使いって食べるの?」

「琥珀だけみたいだけど」

「コハク?」

「あ、言ってなかったね。こいつの名前は琥珀。ほら、樹液の化石のことだよ」

「へー。意味はあるの?」

「いや、単にこいつが好きだからってだけ。普通使いは宿主そのものの性格してるんだけど琥珀はバクも兼ねてるからか意外とちゃんとした自我があってね」


 クロックムッシュをボロボロ落としながら食べる琥珀。天宮城は苦笑しながら落ちた欠片を拾っていく。


「こいつ実態ないのに食べるんだよな……。そう考えるとやっぱり十分謎生物か」


 謎生物という言葉に怒っているのかぺちぺちと天宮城の手を尻尾で叩く琥珀。勿論すり抜けているのだが。


「はいはい。判ったって」


 クロックムッシュをもう一欠片渡すと仕方無いなぁ、とでも言いたそうな顔をしてから食べ始める。


「可愛い……」

「こっちではずんぐりむっくりしてるからね」


 その言葉に再び琥珀が反応し尻尾で応戦する。その仕草はやはり可愛らしい。


「水野さんは今日どうする?」

「どうって?」

「俺は今日検査受けないといけないから……」


 どこかげんなりした顔で呟くように言う天宮城。


「そうなんだ。検査って?」

「能力者に義務付けられてる身体検査。俺は二週間に一回は受けなきゃいけないんだ」

「そんなに?」

「本当は二ヶ月に一回とか多くて一月なんだけど、俺の場合胸のこれとか、能力自体がよく判んないから……」

「あれ?でも私受けてないよ?」

「水野さんはレベル7だからね。検査はほとんど必要ないんだよ。三ヶ月に一回くらいは受けることを推奨するって位で。半年に一回は義務付けられてるけどね」


 天宮城は特別なケースらしい。


「俺先週も検査したのに……」


 水野は天宮城がなんとなく不憫に思えてきた。


「龍一君。検査って私も今受けるってできないかな?」

「できるよ。任意だしね」


 ということで二人で検査を受けることになった。


「とはいっても水野さんは一瞬で終わるよ」

「どういうこと?」

「そういう能力を持った人がいてね。……あんまり会いたくないんだけど」


 天宮城が現実逃避するように窓の外を見る。膝の上の琥珀も同時に外を見るのだから面白い二人である。いや、一人と一匹だが。





「検査に来ました……」

「はい。そこに座ってください」


 眼鏡をかけたいかにも医者という雰囲気が漂った知的な男性が椅子に座って水野を見る。


「では見ますよ。息を吸って、吐いて。もう一回吸って、吐いて。はい。問題ないですね。半年以内にまた来てください」


 本当に一瞬だった。


 外に出ると天宮城が薄いTシャツを着て待っていた。


「本当に一瞬だったね」

「俺は多分時間かかるから家に帰ってても良いよ」

「ううん。待ってる」

「じゃあ付いてきて。……多分ビビると思うけど」


 失礼します、と言いながら天宮城が入っていく。その後ろに水野が付いていく。


「龍くん! 今日も来てくれたんだぁ!」

「ええ、まぁ……」

「ほらほら、見るから服捲って。やっぱ良い体してるねぇ!」


 なんだこの人のテンションは。先程とは全く違う。知的な男性はどこにいったとばかりにハイテンションな人になっている。


「ん? さっきの方か?」

「魚住さん……。彼女は俺の連れですので」

「嘘だ! 龍くんが彼女なんて作るはずじゃない! 僕を! 僕を彼氏に!」

「俺は男と付き合う気は一切ない!」

「僕は構わない!」

「俺は構う!」


 水野は全く会話に入っていけず固まっている。


「いいよ! 龍くん! その怒ったときに口調が乱暴になるのも良い!食べちゃいたい!」

「あんた本当に気持ち悪いぞ! 水野さんドン引きじゃねーか!」

「存分に引いてくれ。君と一緒になれるなら僕は誰にどれだけ引かれようが構わない!」

「気持ち悪い! っていうか魚住さん触らなくても診れるだろ! 離せ!」

「離しちゃったら折角のスキンシップの時間がとれないだろう?」

「いらない! 俺は望んでない!」


 修羅場と化してきた現場に水野はなんとなく覚めた目で二人を見ていた。


「水野さん! 俺はゲイじゃないから!」

「いいや、僕が君を僕にしか興味を持てないようにしてあげるよ!」

「洗脳じゃねーか!」


 水野は微妙に我に返り、医者……魚住の肩を見てみる。そこには目が本当にハート状態になったフェレットが乗っていた。


「龍くん! さぁ! 怖がらずに僕と一緒になろう!」

「だから気持ち悪いんだよ! あんたのそれは一体なんだよ! 秋兄とかいるじゃん!」

「秋人くんは……特にこないかな」

「何が!? ねぇ、水野さん! 俺と秋兄どっちが格好良いと思う!?」

「え? 私!?」


 突然振られて少し焦ったが、すぐに考え、


「私は藤井さんのことよく知らないし……」

「だよね! やっぱり龍くんが世界一だよ!」

「なんでこの人全く話通じないの!?」


 天宮城、妙なところで苦労しているようだった。

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