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15ー8 彼が人を信じれない訳

 あまりにも内容が雑いと思われた方、いらっしゃると思います。


 過去編なのに突然何年もとんだり、妙に話が薄かったり。ということで言い訳(理由)させていただきます。


 まず大前提としてこの過去編は藤井視点で水野達に話されている、ということ。天宮城本人がどう思っているのか、現時点では不明という扱いにさせていただきます。


 この後でのストーリーの中で徐々に天宮城が過去の話をしたり、振り返ったりする描写をいれますので詳しいところはそれまでお待ちください。


 次に、藤井も三人に向けて話しているだけですので所々忘れていたり、端折ったりしている、ということです。


 藤井もずっと天宮城にくっついて移動しているわけではないので、あらゆるところ(拐われた時など)をわざとぼかして書いています。


 今回の過去編は、あくまでも三人に向けて軽く語られた、という扱いでいきます。最初から深く掘り下げるつもりはありませんでしたので今後の本文でちょこちょこ過去の話が出てくるのを拾っていただければと思います。


 これ、最初に言っておくべきでした。ごめんなさい。後、過去編の最終話だけいつもの倍の文字数………


 めっちゃ書けたんです。思ってたより。


 長々と失礼しました。本文をどうぞ。

 一瞬灯った意志の光、それは一瞬のものでしかなくすぐにかき消された。


 再び赤い目に戻った天宮城はその羽を振るい、一本、藤井達の方へ飛ばした。


 一本だけだったのは天宮城が無意識に抵抗したのか、それともまた別の力が働いたのか。


 どちらにせよ、藤井以外の面々は気絶している。藤井は逃げられるが誰か一人は犠牲になるだろう。


 そう思った瞬間、藤井の体は動いていた。


 羽に向かって限界まで強化した腕をつきだしてそれを掴む。出来たことに自分が驚いたほど集中していた。


 だが、そんなことでは止まらない。大の大人の腹を貫通する威力を持っているそれが掴んだだけではただ減速するだけである。


 そこで藤井は暴挙に出た。


「自分の右足を進行方向に持っていって、足に突き刺したんです」


 深々と突き刺さるそれは、限界まで強化した足を貫いたがなんとか途中で止まった。だが、中学生にそのレベルの痛みに耐えられる方がおかしいのだ。


 藤井は絶叫した。歯を食い縛り、垂れ続ける血の一滴一滴が自分の寿命を短くしているように感じ、余計に恐ろしくなった。


 その叫びは思わぬ効果を生んだ。その叫びに驚いた天宮城が意識を取り戻したのである。


 だが、タイミングが非常に悪かった。


「あき、にい………? それ、は」


 今にも倒れそうな顔色をしながらよろよろと駆け寄り、藤井の足を見る。


「ぐっ………龍一。大丈夫、か」

「こっちの台詞だよ! 一体なにが…………」


 そこまで言って、自身の背後にあるものに気がついてしまった。巨大で美しいまでに鋭利な片翼。それだけなら良かった。


 どうみても、藤井の足にあるものと同じものなのだ。


「まさか………これ、俺が……………?」

「そ、その」


 直ぐに返事を返せない藤井。天宮城は辺りを見回し、無惨な死に様を晒している人を目にいれてしまった。


 膝から、崩れ落ちるようにして地面に座り込む。全身が震え、石どうしが擦れあってかちゃかちゃと硬質な音を辺りに響かせる。


「龍一………大丈夫だ。大丈夫だから。一緒に…………帰ろう」


 痛みに朦朧とする意識の中でなんとか天宮城に話しかける藤井。だが、天宮城は固まったまま動かない。否、動けないのだ。


「…………無理だよ………俺は、帰れない…………」


 絞り出すように出したその声は小刻みに震え、口に出そうとして出したわけではなく、考えていることがそのまま口から出てしまったような感じだった。


「無理矢理にでも…………引き摺ってでも、連れて帰るぞ」


 足の痛みを極力目を逸らすことで考えないようにし、天宮城の左足を掴む。


 鎧のようなものに覆われているのは固いだけでなく、異常なまでの鋭さを持っており、掴んだだけで手から血がでた。


 ナイフを直接掴んでいるような感覚に一瞬体が強張るが、笑顔を無理矢理作って天宮城に向ける。


「っ、帰ろう。みんな起こして、早く帰ろう。お前が居なかったら協会も成り立たないし、お前の母さんも悲しむぞ」

「秋兄っ⁉ 手から、血が――――離して‼ これ以上怪我したら…………」

「これくらい気合いで何とかするさ。お前が帰ってくるって言うまで手は離さないぞ」


 大分痛いが、それにも少しなれてきた。なんとか押し殺せるくらいには。


「離して………」

「嫌だ」


 自身の手さえ黒い石で覆われているので振りほどくこともできない上に動けば藤井が余計に傷付いてしまう。


 結果としてその場で立ち尽くすしかない天宮城は、藤井と自分の手を何度も見比べるように視線をさ迷わせる。


「俺が居れば皆傷付くんだ…………何も、残らない」

「残す。そのために俺たちがいるんだろうが」

「また、こうなるかもしれない」

「なったら俺たちで何とかする」

「無責任過ぎるよ、秋兄…………」

「子供に責任追及したって無駄さ」


 そう。まだ藤井含めた全員が子供なのだ。言うこと成す事全てに覚悟があるわけではない。


「帰ろう。皆そのために迎えに来たんだ」

「……………………………うん」


 その言葉を聞き、藤井は手の力を抜いた。手の中は見る気にはなれなかった。話すことに集中していて無視していたはずの傷が痛みを取り戻したが、それよりも安堵の方が先だった。


「ごめん………こんなことしか」


 天宮城が辛うじて鎧のない右手を足に翳すと溢れ出ていた血が止まった。いつのまにか羽自体も消えている。


 止血を終えた天宮城の顔色は壮絶だった。真っ青を通り越して紙のように白い。


「龍一…………?」


 声をかけたのと同時に天宮城がその場に倒れ込む。


 藤井には、それが以前教室で倒れ、生死の境をさ迷っていた時の天宮城と酷く重なって見えた。


 天宮城はピクリとも動かず、壊れた人形のようにただ地面に転がっていた。


 藤井が何とか立ち上がって様子を見に行こうとすると、それを追い越す影があった。


「まだ生きているのか?」


 先程天宮城の羽で死んだ筈の男がそこにいた。


「っ⁉」


 見ると、死体が消えている。血の跡すら見つからない。


「どう、してっ⁉」

「どうしてって………そりゃあ、俺達は死なないからな」


 死なない? その言葉で頭のなかに直接冷水を掛けられたように目が醒める。混乱していた気持ちが、一瞬で整理された。


 何故こんなところでこの人たちはこんな危険なことをやっていたのか。死にかけていても逃げなかったのか。


 不可解な点でしかなかったそれが、今、線になり、立体になっていく。


「こっちの者は皆不死身だ。ただ、これには滅茶苦茶な維持費とエネルギーがいる。こいつなら、全部の問題を解決できるだろう? 金もある、エネルギーは体で支払える。襲ってくださいと言っているようなもんだ」


 ぐったりとしている天宮城の右腕を掴んで空中に持ち上げる。天宮城は抵抗するそぶりすら見せない。


「本当ならお前らから狙うはずだったんだが………こいつ、居場所を吐くどころか何されても泣くことすらしねぇ。気持ち悪いガキだ」


 必死に耐えている姿が想像できてしまった。殴られても蹴られても呻き声一つ上げなかった事を目撃していたから余計に。


「まぁ、これで晴れて捕獲成功だ。後は組織のために一生働いてもらうさ」


 ニヤニヤと動けない藤井を嘲笑う男。


「龍一は物じゃない‼」

「物だ。もう組織の発電機だ」


 足が完全に使えなくなってもいい。こいつから天宮城を離さなければ。そう考え、絶対にやってはいけない一点強化の準備を始める。


 一点強化は文字通り、足だけを強化して本来ならば全身に回す力を一点に集中させるものである。


 だが、これは諸刃の刃で下手に足にかけて走ると簡単に足の指の骨が複雑骨折する。


 怪我をしている状態だと更に不味く、血が噴水のように勢いよく流れ出るのだ。


 なのでこれは基本、絶対禁止している。今の足で使ったら間違いなく足は使えなくなるだろう。流れる血の量を考えたら命の危険すらある。


 それでもいい、とすら思っていた。弟を守れるなら本望だ、と。


 だが、それを準備し始めて直ぐ、それを止めてしまった。


 様子が、明らかにおかしい。先程の強大なプレッシャーを放った時の数十倍、下手したら数百倍の危険を感じる。


 本能がここにいてはならないと叫び、心臓は早鐘をうち始める。


 その瞬間、天宮城の目が見開かれた。


 その瞳は赤、というより紅に染まっており、まるで人間そのものが違うかのように雰囲気が一変する。


 藤井からすれば、天宮城が我を失ったというより、天宮城の体に誰かが入りこんだ、といった感覚に近いものがあった。


「……………………触れるな。卿ごときが触れていい体ではない」


 その喉は全く違う人間の声を発した。明らかに、違った。


「あ?」

「不躾な物言いを改めろ。もう、その必要も消えるものだが」


 何かがヤバイ。そう感じて一歩後ずさる藤井。その時、目の前を閃光が包み込んだ。


 目の前が真っ白に染まり、あり得ないほどの光量に目の奥が焼かれる。思わず目をつむると、耳元で何かが囁いた。


「卿らは助けよう。だが、少し話がしたい。明日と明後日の境、午前零時に来てくれ」


 驚いて目を開けた瞬間には、更地に立っていた。自分と天宮城、少し離れたところに幼馴染達を残して、山の中腹から山頂まで、全てがあの者達と共に消え去った。


「生きてる…………生きてる‼」


 天宮城のもとへ駆け寄る。足の傷は、何故か半分以上塞がっていた。


「龍一‼ 龍一‼」

「ぅ…………ぐ」


 鎧は跡形もなく消え、全身傷だらけではあるが、ちゃんと生きている。生きてくれている。


 その事が嬉しくて堪らなかった。


「他の皆も起こしたら起きました。それで転移で帰ってきたんです。龍一と、ついでに俺の足を医者に見せたら直ぐに手術だって言われて………足、折れてて靭帯切れて下手したらもう二度と歩けなくなる怪我だったって怒られました」

「龍一君は………?」

「あいつは酷く衰弱していましたが、命に別状はないってことで俺と一緒に入院することになったんです」


 そして、何故連絡しなかったと近藤達に怒られながら一日を過ごし、午前零時。


「本当になにがあるの?」

「さぁ」

「秋兄が把握してなくどうすんのよ」


 天宮城と藤井の病室に忍び込んできた風間達が眠い目を擦りながら文句を言う。


「ん………むぅ…………」


 天宮城はあれからまだ目を覚ましていない。たまに寝返りをうったり枕に抱きついているが、ずっと点滴の針を腕に射したまま眠り続けている。


「ん………ぐ」


 薄目を開けて周囲を観察し、ゆっくりと天宮城が起き上がる。


 起きるとは誰も思っていないので天宮城の方を向いていたのはベッドの位置的に藤井だけだった。


「龍一起きた‼」

「え、マジ⁉」

「シーッ」


 つい、声をあげてしまうが、今は夜中の零時。しかも病院である。絶対にバレたらヤバイくらい叱られる。


「卿らには感謝しなければならないな。この身を救われた。出来るものなら礼を尽くすべきなのであろうが、未だに思い出されないのでな。出来ることと言えばただ頭を下げることしかできぬ」

「「「…………………」」」


 突然淀みなく淡々とそう告げられ、


「「「…………………………誰?」」」


 と答えるしか出来なかった。


「リュウイチだ。卿らの知っている私とは少し異なるが」

「少しどころか180度違うんだけど………」

「まぁ聞け。私も出られる時間には限りがあるのだ。単刀直入に言わせてもらえば、私はこの天宮城龍一の前世の人格だ」


 最初はあり得ないと思っていた。だが、質問を重ねるごとに信憑性が増していく。でっち上げでは答えられないようなことも淀みなくスラスラと答えていくのだ。


「なんで龍一は覚えてないの?」

「今思い出したら脳が耐えられなくなるからだ。ある程度成長してからの方が負担が減る。それでも相当辛いのは確かだが」


 いろいろと(本当にどうでもいい)話を終え、リュウイチ(仮)がため息をつきながら、頬杖をつく。


「頼みがあるのだ。卿らには私の事を普段出ている私には言わないでもらいたい」

「なんで」

「いつか思い出すその時まで、黙っていてもらえないだろうか。………普段の私は弱い。卿らに寄りかかってなんとか生き延びているだけの存在だ。少なくとも、普段の私はそう思っている」


 一人でなんでもできる天宮城だが、人と接するのが苦手な割りに、話すのは意外と好きなのだ。ギリギリのところでも、繋がりは持っておきたいのだろうか。


「私は自分自身だからわかるが………恐らく卿らに心配を掛けぬよう振る舞うだろう。それをなんとしてでも止めてほしい」

「…………?」

「きっと、私は無理をする。元々死んでもおかしくはない体をしているのだ。下手に強ばっては本当に死んでしまうかもしれない」


 衰弱に衰弱を重ねて今があるのだ。寧ろ生きているのが奇跡だと言う。


「私は生来体が弱い。虚勢を張りはするものの、限界を知らぬために無理をする」


 そこまで言って、ピタリと動きを止めた。


「む………時間だ。くれぐれも私の事は普段の私に言わぬよう頼んだぞ…………」

「あ、ちょっ……」


 パタリと倒れて直ぐに寝息をたて始めた。藤井達は全員顔を見合わせて困ったように眉を潜めるのだった。


「次の日、龍一が起きたんですが…………」

「なにかあったんですか?」

「なにもなかったんです」

「へ?」


 首を傾げる小林。


「おかしいくらいに何もなかった。起きて直ぐ笑みを浮かべて俺たちにありがとうってそう言って、笑みを絶やさなかった」

「笑みを絶やさなかった?」

「はい。気付きましたか? 龍一が笑ってるんです。誰に対しても、ずっと」


 藤井がその違和感に気が付いたのは一週間がたった頃だった。


 逆に一週間気づかせなかった龍一も凄い。誰一人と気にしなかった。まるで安心させるような笑みをずっと維持し続けている。


 それから天宮城は笑みを崩すことがなくなった。一人の時でもずっと微笑を続け、少し怪我をしても笑って手当てする程に。


「龍一の時間はずっと止まっている。龍一が無理をしなくなる日は、真顔に戻る日でしょうね」


 そんな時間はもう二度と来ないと言っているような表情をして大きくため息をつくのだった。

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