15ー6 彼が人を信じれない訳
「それで、だんだんとこんな感じの投稿が増えていってるところをみると、多分俺たちと同じような人が出てきたってことだ」
「それの何が問題なんだ」
「問題といえるほどのものじゃないかもしれないけど、その内問題になると思う」
天宮城はパソコンを閉じてメモ帳をみせる。
そこには棒グラフが並んでおり、日付が下にふってある。
「これは?」
「俺が把握してるなかでの俺たちと同じような人の自己申告の人数。さっきの掲示板は俺があんなことをしたせいで無駄に話題が大きくなったんだけどそのお陰でここに書き込む人も増えた」
つまり、この掲示板を知っている人はここに書き込んでくるのだ。能力者の人数を。
「多分嘘じゃない人達の人数だからもっと多いんじゃないかな。申告しない人も勿論いるだろうし」
棒グラフは最初十人、つまり天宮城含めた幼馴染の人数からスタートし、その数日後から突然一人、また一人とグラフの棒が伸びていく。
「最終的に今の段階で69人だ。同じような力の人もいるし、俺とか梨華姉みたいにそれ以外の発見例がない力もあるみたいだ」
天宮城はちら、と傍らの白い羽蜥蜴を見る。このときはまだ名前もなかった。
「俺は?」
「秋兄のは一番多かったかな」
「ああ、そう………」
確かに天宮城のように今の段階では意味がわからないような複雑なものではなく、力が強くなる、という至極単純なものである。
同じ力をもった人は他にも誰かいるかもしれない。
「それで、警察も注目し始めたみたい」
「そんな大事に⁉」
風間が身を乗り出す。便利だなぁ、くらいにしか思っていなかった風間は事態の深刻さに全く気づけていない。
「当たり前だろ。俺みたいなのはともかく、秋兄とか弘人みたいに割りと危険な力をもった人が町中で暴れてみろ。この辺りのド田舎ならまだしも都市部だったらとんでもない被害を受けるぞ」
この辺だったら壊されて困るものはそうそうない。
常に玄関の鍵を開け放しているような平和ボケしている山村を襲ったところで得られる価値などたかが知れている。
「そういうものなのかなぁ」
「そうなんだよ。で、ひとつ提案なんだけど」
天宮城がニヤッと口角を上げる。表情に変化がついてきたのはいいことだが、その笑いかたはどうも苛立ちを誘う笑みである。
鼻で笑われた時のような感覚だ。
「―――時代、作ってみない?」
中学二年生の男の子が発症するようなあれに侵されているのか、と全員が思った。
だが残念ながらまだその年齢に達するまで数年かかるはずである。
天宮城の言葉を聞いて、数秒後、
「「「………………………は?」」」
たっぷり間をとった全員の心からの疑問の声が一致した。
「それが、超能力者協会の設立に繋がってくるんです」
「そんなノリで出来たんだ、ここ………」
「まぁ、それはそれとして。龍一は既に動き出すための準備を終えていました。どうやったのか知らないけど、大量の金を湯水のように使ってこの組織体制を作っていったんです」
大量の金、というのは片山のズル、それと異様なまでのカリスマ性を発揮した天宮城の貯金癖等が重なり、普通ならあり得ない速度で組織が出来上がっていく。
「確か、作っている最中でしたよね。近藤さんに会ったのって」
「ああ、そうだな。龍一の…………小さなドラゴンの書き込みを読んでバカにしていたんだが、自分も同じような事になり、焦ってそっちに突撃したんだったな」
「一番驚いていたのは龍一ですよね。なんでバレたんだって」
「機械いじりは得意でな。言葉の癖などからある程度住んでいる場所は特定できる」
近藤も最初から中々ハイスペックだったようだ。
天宮城の書き込みだけで住んでいるところ等を突き止めるなど、相当難しいからである。
何故なら、天宮城も天才だからだ。方言が出ないように気をつけていたし、捨てアカをいくつも作成、個人情報が流出しそうになったらそれを消し、別のアカウントを作成する。
それを本気でやっていたのだ。多分機械いじりが得意という理由だけでは特定は難しいだろう。
「ここから先は話してもあまり意味はないので飛ばしますが………問題が起こったのはそれから数年後です。組織がやっと出来上がり……………安心したのがいけなかった」
再び、藤井の表情が曇る。近藤の表情もサングラスに隠れてはいるがそれでもわかるほど暗くなった。
「龍一がここに入りたくないって言っていたのを知っていますか?」
水野は本人から、小林と吉水は水野からその話は聞いていたので全員が頷く。
「矛盾していると思いませんか? この組織を提案したのも、作り上げたのも龍一。しかも人を纏めたのも龍一です。最初は俺ではなく、龍一がリーダーでした」
天宮城は上の立場であることを酷く嫌がることを知っている小林や吉水はそれに首を捻った。
「その時は丁度夏休みでした。皆で集まって遊びに行くと決めていたのに、龍一が来なかった」
誰よりも時間を守る天宮城が来ないとはどういうことだろうかと皆で家に迎えに行ったのだが、お手伝いさんは数十分前に出掛けたという。
「梨華」
「わかってる。ちょっと待って」
片山が目を瞑る。片山の能力は予知夢だが、力を使うことに慣れてくると白昼夢………つまり、起きていても見ることができるようになったのだ。
そして、片山の能力はもう一つ。見せたいものへ幻を見せるものだ。
天宮城と違う点は現実であること、全く周囲に影響を出さないこと、それなりに精神力を消耗することである。
天宮城の場合、夢のなかでとんでもない城を一瞬で建てるとかそれぐらいのことをしないならば力は殆ど使わない。
赤目状態でもなければ現実に影響しない代わりにコスパが抜群にいい。
「いくよ」
片山が声をかけた瞬間、全員が目を瞑る。
開けていても問題ないのだが突然景色が変わったように見えるのでかなり酔うのだ。
一瞬固く結んだ目を開けると、天宮城の姿が映った。これはただの映像で触れることも声を届けることもできないが、確かにそこにいた。
両手足と目、口を塞がれて血溜りに沈んだその顔色は壮絶を通り越して生気がない。
否、それ以前に呼吸と鼓動を止めていた。
「「「龍一‼」」」
全員が届かないと判っていても声を上げずには居られなかった。
「嘘だろ………っ!」
「梨華姉! これどれくらい先の話なの⁉」
「えっと………感覚からして、4時間」
「時間が無さすぎる…………!」
逆に、先にこの映像を見ることが出来て良かった。今なら、まだ間に合うかもしれないのだから。
「梨華! 場所の特定は」
「やってる!」
目を瞑り、眉間にシワを寄せながら汗を滲ませる片山。なんの準備も無しで能力を発動させ続けて疲労が溜まっている。
「でも、この状態が映ったってことは今移動させられてるんじゃ…………」
「可能性は高いな。クソ、こんな時に龍一の能力が羨ましい!」
「無い物ねだりしても仕方ないよ、私、取り合えず思い付く場所当たってみる」
「私も行く! 第六感使えばもしかしたら当たるかもしれない‼」
転移能力を持つ風間と第六感の能力を持つ足立が二人で取り合えず動くことにする。
「見付けたら電話する!」
「頼んだ!」
こういうとき、戦闘系能力は使えない。何もできない上田や藤井は片山の近くに座り込んで一刻も早く見付かるようにと祈っていた。
それから、十数分後。
「判った‼ 山小屋!」
「あそこかっ」
長すぎて自分が死んでしまいそうな気にさえなっていた藤井達が揃って声をあげた。
「結城に伝えて‼」
「おっしゃ!」
上田が携帯を叩くように呼び出し画面を出し、風間に電話をする。
「もう、限界………」
片山は限界まで能力を使った反動で荒く息を繰り返し、頭痛の治まらない頭を抱える。
「お疲れ。後は任せろ」
「うん………けど、置いてかないでよ? 大事な弟なんだから」
誰よりも子供らしさがなくとも、天宮城は弟なのだ。
誰よりも頭がよくとも、弟なのだ。
誰よりも演技がうまくとも、弟なのだ。
誰よりも幸せを感じることの出来る、大切な仲間であり、親友であり、なにより大切な…………
「そうだな。俺達の弟だからな。兄ちゃんが世話焼いてやらねぇと」
藤井はそう言って恥ずかしさを隠すために少しそっぽを向いたのだった。