15ー5 彼が人を信じれない訳
「その一週間後です。梨華が突然正夢を見るようになったと言い始めました」
思いっきり藤井の机を叩きつけ、
「私ちょっと危ないかもしれない」
「突然どうした」
今のお前の行動が一番危なそうだったとは言えないのでとりあえずそう訊く。
「なんか、夢の中であったことが実際に起こるようになったのよ」
「へー」
「毎日よ? 毎日」
「へー」
「怒るわよ?」
「なんで怒られないといけないんだ………」
へー、以外言えることがない。他になんと言えばいいのか。
「それでね、結城に電話してみたのよ」
「したのか」
「うん。そしたらね、『私も瞬間移動できるようになったんだよー』って」
「お前ら揃いも揃って頭おかしくなったのか?」
バゴ、と思いっきり頭を殴られた。
「なっ」
「あんたが悪いんでしょ」
「いや、そうじゃなくて………」
驚きの声をあげたのは、殴られた怒りや驚きから来るものではなく、
「もう一回殴って」
「は? あんたこそ頭がおかしく―――」
「いいから!」
なによ。といいながら先程と同じように藤井の頭を殴る片山。
「で、マゾになったの?」
「痛くない」
「え?」
「全然痛くない」
「……………え?」
音からして相当強く殴られている筈なのだが、小鳥が留まったような感覚しかない。
叩かれた、という感触はあるが全く痛みを感じないのだ。
「どういうこと?」
試しに、顔面に1発いれて貰った。全く痛くない。
机の角で殴るか、という片山の言葉に本気で恐怖を覚え、机を持ち上げられないように強く両手で固定する。
バキン、と音がした。
「「うそだよな(ね)?」」
チョコレートを割った時のように机がバックリと割れていた。試しに手に力を込めてみると、机の破片が木屑になって床に落ちていく。
教室内は騒然としていた。突然クラスメイトの一人が机を割ったのだ。逆に落ち着いていられる方が異常である。
とんでもない怪力を披露した藤井はそのまま校長室につれていかれ、滅茶苦茶怒られた。
どうやら何らかの機械を使って割ったと思われたらしい。訂正するのも面倒だったのでそのままにしておいた。
扉を開け閉めするとき、物を書くとき、持つときは怪力は発揮されなかった。逆に力を込めると一瞬で壊してしまう。
中々シャーペンの芯が出なくて苛立ったのだがその瞬間にも壊れた。
「最初は本当に制御が大変で、すぐに壊しちゃいそうだったからなるべく梨華に扉の開け閉めとか頼んでました」
そして、休みの日になり、皆が天宮城の家に集まった。
記念すべき幼馴染会議第一回目である。
「じゃあ、俺が記録とるよ。まず秋兄は?」
天宮城は藤井と片山のことを秋兄、梨華姉と呼んでいた。これは強制したわけでもないのだが自然とそうなっていったのである。
「なんか滅茶苦茶怪力になった」
「ざっくり過ぎない?」
電話で互いの異常さは理解していた。皆自分の力に驚き、幼馴染に電話するという同じ行動をとっていたので皆が変になったという認識だけは浸透していた。
天宮城の几帳面な字がノートを埋めていく。一番年下なのに誰よりも物知りとはこれいかに。
「俺の方でも調べてみたんだ。それで、ちょっと遊んでみた」
「遊んだってどういこと?」
無言で脇にあったノートパソコンを開いて見せる天宮城。
そこには、なんでも掲示板と呼ばれるサイトが開かれており、あることについて討論されていた。
「これに、こう書き込んでみた」
一番上の文章を見せる。
【夢のなかでドラゴンみたいなのが出てきてしかもそれが目が覚めても真横にいる件について】
とあった。
「「「何やってんの⁉」」」
そんなことして大丈夫なのか⁉ と全員が焦るが天宮城は普通に問題ないと答える。
「もしこれが問題なるとしてもここで書き込んだ人の暴言とかだろうね。それにこっちのアカウントは所詮捨てアカだし、俺のことがバレないようにちょっと細工してあるから」
やることが小学生ではない。
本人が言うなら大丈夫なのだろうと考え、画面を徐々に下にずらしていく。
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【名無し】
何、どういうこと? 意味がわからん。
【小さなドラゴン】
なんか、夢のなかでドラゴン? みたいなやつに遭遇したら、そいつがそこにいるんだよ。毎日寝ると夢ん中にでてくるし、昼間すぐそこにいるしで
【名無し】
もっとましな嘘つけよ
【名無し】
そうそう。余計意味わかんないし
【小さなドラゴン】
別に信じてくれないなら別にいいんだけど、俺と同じタイミングで幼馴染が数人、なんかヤバイことになってんの
【名無し】
どゆこと
【小さなドラゴン】
瞬間移動してんの
【名無し】
頭がおかしくなった件について(笑)
いや、最初からか?
【小さなドラゴン】
うん。おかしいのかもしれない。あと、怪我するとその場で治るようになった。どうしよう
【名無し】
イミフ
【小さなドラゴン】
逆再生するみたいに怪我がなおってくんだけど。なんなら動画つけようか?
≪動画再生はこちらから≫
【名無し】
おお、逆再生なのに綺麗だな
【小さなドラゴン】
わかった。じゃあこれでどう?
≪動画再生はこちらから≫
【名無し】
スゲー綺麗なCG
【名無し】
ごめん、俺の携帯スペック低くて動画見れん。誰か説明を
【名無し】
手を怪我してる動画の後ろで桶に水が溜まってってる。水はちゃんと桶に入ってるから逆再生じゃ無理。だから合成かCG。だけど影の向きからして多分合成じゃ無理
【名無し】
なるほど。じゃ、CGで決まりだな
【小さなドラゴン】
さっきからいろいろ言われてるけどこれ今撮った動画だからね? いつ加工すんのさ
【名無し】
今撮ったって証拠は? ないだろ?
【小さなドラゴン】
端に見える時計じゃダメか? それかもし信じれないなら怪我する場所を今ここで決めてよ。そこ怪我して撮るから
【名無し】
じゃあ右手の薬指の付け根にぱっくり
【小さなドラゴン】
はい
≪動画再生はこちらから≫
【名無し】
え、まじか
【名無し】
こうなることを予想して全部の指切った動画用意してたとか
【名無し】
そんな面倒なこと誰がするか
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「いや、本当に何やってんの⁉」
「本当にな」
「いや、お前だろ、小さなドラゴンって」
「うん」
今ではかなりの人数がこの話を信じてくれているらしい。インターネット、恐るべし。
「それで、この掲示板を出してたらこんな書き込みが来るようになったんだ」
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【名無し】
どうしよう。妹が指から火を出すようになった
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「「「…………」」」
あまりにもそれっぽい内容である。
「これが嘘って可能性は?」
「あるよ。あるけど、多分これ本当」
「なんで?」
「なんとなく」
こういわれてしまえば誰も何も言えなくなってしまう。
天宮城の勘は恐ろしく当たるのだから。