14ー2 戦いへの下準備
「レベル? ………いや、ムリムリムリ‼」
「そう言ってても上げないと死んじゃうよ?」
「だって、戦うんだろ? その時点で俺もうダメなんだって‼」
「私に言われても」
巨大なバズーカを抱えた天宮城が顔を青ざめさせながらブンブンと高速で横に振る。
言動と持っているものが全く似合わない台詞だが、本人は至って真面目である。
『そうだぞ。さっさと始めた方がこれから先、楽することに繋がると思うのだが?』
「だって、恐い」
「子供かっ!」
ぷるぷると震える天宮城にため息を吐きながらアインがレベルあげの重要さを事細かに説明する。
「いい? レベルっていうのはステータスと同じくらい重要視される問題なの。これが低すぎると入れない場所が出てくるくらいにね。これからやっていくには必須なのよ」
数十分説教じみた説得をされ、渋々頷く天宮城。
「じゃあ魔物を探しましょう」
『この周辺にはおらぬぞ?』
「え、なんで?」
「………俺が望んでないから」
ここ一帯は完全に天宮城が好きなように弄ることが出来る。逆に言えば意識していなければ魔物なんて発生しないのだ。
「じゃあ望んでよ。最初だから……無難にスライムとか。血も出ないし何かあったら私がなんとかするから」
「ぅう………スライム」
最初から照準を合わせた状態でスライムを頭のなかで思い浮かべる。どんな感じだっけ? と迷いつつだしたのは、
青透明の雫型のぷるぷるしたゼリーみたいなものにつぶらな瞳がくっついた愛玩動物のような可愛さをもったスライムだった。
「「めっちゃ可愛いー‼」」
まんまるな目が真っ直ぐに天宮城を捉え、嬉しそうにピョンピョンと跳ねる。
そのまま跳ねて移動し、天宮城の足に猫のようにスリスリし始めた。
「「…………」」
え、これを殺るの? と同じことを考える二人。
愛らしすぎて出来ない。
「アレク。これ、スライムじゃないわよ」
「え?」
「スライムってもっとこう………気持ち悪いもの」
「ああ、そう………」
本来はドロドロした本当に気持ち悪いもの、というものが多いらしい。
天宮城も試しに服飾師のスキル、鑑定を目の前のスライムもどきにかけてみた。
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スライム(?)
レベル 13
固有スキル 吸収・分解・擬態
どこからか現れた不思議な生きもの。捕らえた獲物を吸収、分解し、形さえ知っていればなんにでも擬態が出来る。ただし、大きさが大きいほど魔力を消費する。
アレキサンダー・ロードライトの獣魔
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「いや、獣魔になってますけどー⁉」
「え、そうなの? あ、そういえば鑑定持ちだったわね。何てでた?」
鑑定で見たことをそのまま伝えると、
「(?)ってどういうこと」
「私もはじめて聞いたわよ。そもそもこの子がスライムってことが信じがたいもの」
「それは確かに。スライムっていうより……こう……スラ太郎って名前の方が合いそう」
その瞬間、スライム(?)とかかれていたものがスラ太郎に変更された。最早種族名がスラ太郎になってしまったようである。
「スラ太郎になっちゃった」
「種族名が⁉」
もう、なんでもありである。
「キュッ、キュイ♪」
スラ太郎は肩によじ登ってきた。もう、名前もスラ太郎である。
「スラ太郎………お前、一緒に来るつもりなのか?」
「キュイイ!」
「マジか。でも俺の方がレベル低いんだもんな。確かに居てくれたら安心かも」
倒すために出した筈だったのだが、なんか旅について来ることになったようだ。
「アレク。ほんわかしてないでやるわよ」
「マジすか。もうこの際スラ太郎に任せちゃダメ?」
「スラ太郎もそんなに強くないし………っていうか本当にスラ太郎って名前にしちゃうの? スラ太郎はそれでいいの⁉」
「キュッ♪」
『嬉しそうだな』
「本人がいいならいいけど」
話しは戻してレベルあげである。
「スライムがこんなに可愛いなんて思ってなかったわ。逆に気持ち悪い生き物にすればいいんじゃないかしら? 魔物はいなくても動物はいるんでしょう?」
「お、おう」
殺っても罪悪感がないやつが………と祈るように考え、目を開ける。
「あ、アレク………? ………なんでこれにしたの?」
「いや、罪悪感がないやつって考えたら一番に思い浮かんだもんで…………」
「ちょ、早く倒しなさいよ」
「いや、ムリムリムリ‼」
「私だってこんなの触りたくな………こっち来た⁉」
黒い体長一メートルほどの………あれである。
無駄に足が早いくせに空も飛べる、あれである。
一匹いたら百匹いると思えと呼ばれる、あの黒い悪魔である。
「「ゴキブリィイイイイイ⁉」」
全力で走って、逃げた。
天宮城は逃げながら鑑定をかけてみた。
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ゴキブリ
レベル 36
固有スキル 飛行・脚力強化
生命力が強く、どこでも繁殖できる。飛行も可能だがそれほど上手くはない。攻撃力はそれほど高くはないがその容姿や異常なまでに強い生命力から嫌われている。
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天宮城がこれを見て、自然と思ったことは、獣魔になってねぇ、助かった‼ だった。
異常にレベルが高いために下手に攻撃できない。
鑑定はステータスを見るものではなく、あくまでも概要を覗くことしか出来ないため、どんな強さなのかハッキリとはわからないのが悔やまれる。
「ちょっとアレク! さっさとやっちゃってよ!」
「気持ち悪い‼ 無理‼」
「出したの誰よ! 早くやらないとレベルも上がらないのよ‼」
「うっ」
「ほら、それ撃つ!」
肩に担がれたバズーカを指差しながらアインが叫ぶ。天宮城は半泣きになりながら必死に照準を合わせ、引き金をひいた。
専属武器の扱いにも慣れてきた天宮城の弾丸は見事にこめかみに命中。ゴキブリが爆散した。
「こ、怖かった…………」
なんだか集られる気がして怖かったのだ。
天宮城はバズーカを構えたまま地面に座り込んでしまった。
≪レベルが上がりました。技術ポイントを獲得、ステータス上昇、新たなスキルを獲得しました≫
「………え?」
どこからか声が聞こえた気がした。