13ー3 勉強と仕事と仕事と仕事
「ちょっと、りゅう‼」
「なに」
「最近うざい奴がいるの‼ 隊動かして良い?」
「いきなりなんの話だ。勝手に他の人巻き込むな」
適当に話を流すつもりが風間がとんでもない事を言い始めたので仕方なく風間に目を向ける。
「個人の判断で部隊動かすな。っていうか一体なんなんだ」
「ほら、この人!」
風間が天宮城に突き付けたのは一枚のチラシだった。受け取ってそれを見てみると最近出来たばかりのお菓子メーカーだった。
少し胡散臭そうな笑顔のおっさんがお菓子の箱をもって写っている。
「これがなんなんだ」
「この人がめっちゃうちに電話かけてくるんだよ」
「なんで」
「投資してくれって」
「ああ、そういうこと…………」
子供だった天宮城達がこんな巨大な組織を作り上げることができたのは実は片山のお陰だったりする。
株取引であり得ない額を叩き出したのだ。
簡単に言えば、能力で未来を見て、そこの株を大量に買って売ってを繰り返し、一生遊んで暮らせるほどの大金を中学生が稼ぎあげてしまったのだ。
能力様様である。
ずるを通り越して犯罪に近いので普段は禁じているが。それに、片山以外に未来や過去に干渉する能力は確認されていないのでそこも今のところ問題ない。
他にも、天宮城が外国の金を取引して金を稼いでいる。
これは一度に入ってくる額はそれほどでもないのだが株値よりも変動が大きくないのでしょっちゅう金が入る。
お陰でドルやユーロ等の変動を完璧に把握する癖がついてしまっているが。
話はそれたが、天宮城達が稼ぎあげた額は半端なものではなく、それを狙ってくる詐欺師も少なくない。
そういう人には言葉でお帰りになってもらうか物理的に退場させるのだが、一人減ってもまた一人また一人と増えていくので面倒極まりない。
「なに、八隊にかかってくるの?」
「ううん。私の机に直接」
「電話番号教えたのか?」
「教えてないよ。知ってるのこの家のみんなだけだよ」
「完全に流出してるな、それは」
どこでこの番号を知ったのか、と聞いてもはぐらかされる上に毎回違う番号で電話を掛けてくるので迷惑電話に登録することもできない。
「もうそれ電話番号変えたら」
「だよねー。めんどい」
「俺に言われてもな」
眼鏡を指先で上に押し上げながら天宮城がどこから電話番号が漏れたのかと頭を悩ませる。
「あれ、りゅうって目悪かったっけ?」
「両目とも2だよ。これ、ブルーライトカットのやつ」
「ああ、そうだったんだ」
天宮城の眼鏡を奪って自分の目にかける風間。
「なにやってんの」
「知的に見える?」
「いや、別に…………」
別に馬鹿に変わりはないと口をついて出そうになった。ギリギリで堪えた。
すると天宮城の携帯が着信を告げる。
「はい。天宮城です」
「刑事の佐藤です」
「あ、小林さんの件はどうも」
「礼を言うのは此方です。…………と言いたいところですが、協力を要請したい」
「協力ですか」
「はい。……………犯人の足取りが掴めました。少しお話をしたいのですが」
天宮城は携帯を肩と頬で支えて即座に開いていたノートパソコンの画面を切り替えて協会内でどこの会議室が空いているか調べた。
「すみません、こちらが出向けそうにないので来ていただくことは可能ですか?」
「ええ、それは勿論」
「ありがとうございます。5階の会議室が空いていますので其処で宜しいでしょうか」
「はい。了解しました。では後程」
「はい、失礼します」
直ぐ様会議室を予約し、荷物を纏め始める。
「ねぇ、私も行って良い?」
「遊びに行くんじゃないんだけど………仕事は?」
「終わった」
「えー………いや、寧ろ好都合か。良いよ。三分で用意して」
「りょ!」
シュン、と目の前から消える風間を横目に書類が入ったファイルを鞄に突っ込んで携帯もそこに放り込む。
ノートパソコンの画面をもとの状態に切り替えてからそれを閉じた。
その画面を見る目はいつになく冷たい輝きを放っており、それでいてなんの感情も宿っていなかった。
ただ、静かにそれを一瞬見詰めて記憶から消し去るようにノートパソコンを畳んだ。
「遅れてすみません」
「いえ、わざわざありがとうございます」
会議室の白い光りに浮かび上がるのは数枚の書類や写真だ。
「りゅう、これなんなの?」
「なにも知らずに着いてきたのかよ………小林さんの件で連続殺人事件起きたのは覚えてるな?」
「うん。そこまで記憶力悪い訳じゃないよ」
「あっそ。で、それの話でどうも能力者が連続して狙われてたみたいなんだ。それも、協会申請してない人が」
原則として能力が覚醒した場合は協会の方に申請することになっているのだが、それはそれでいろいろ面倒なのでやらない人もいる。
強い能力は普段、使えないようにブロックされるのだ。
天宮城達のようにそれが使えないと仕事にならない人達は特例で許されている他、水野のように特に使用禁止しても他人に害はないような能力は特に縛られることはない。
だが、小林のような他人に作用するような能力は基本ブレスレットなどで能力を封じる義務がある。
小林のようにそれを快く受け入れる人もいるが、それを良しとしない人も少なからずいるのが現状である。
そういったこともあって、能力者協会が把握していない能力者も数多くいるのだ。
「へぇー」
「っと、佐藤さん。写真の方は?」
「これですね。本当にこんなのでわかるんですか?」
「まぁ、かなり時間経ってるので完璧にとは言えませんが………なんとかなると思います」
渡された数枚の写真を見ながら目を細める天宮城。
「どう?」
「んー………この中から見えるもんで一致してるのは………見たことない波長だな。実際に目の前で見えてないからなんとも言えないけど多分レベルは5」
天宮城は写真でも波長を見ることができる。ただし、その波長を直接捉えているわけではないので能力のコピーはできない。
「すみません、この写真頂いても?」
「勿論」
「ありがとうございます」
後で詳しく調べよう、と鞄のなかに写真を入れる天宮城。自分で仕事を増やしていることに気づいていない。
「それで、そっちの方は?」
「全員の首に火傷の痕がありました。頭を激しく強打されたようで即死だったという人もいるそうです」
「即死………余程強い力で殴られたんですね。それこそ秋兄くらいの」
「秋兄が本気で殴ったのと同じくらいってこと?」
「そういうこと。まぁ、秋兄が本気で殴ったら頭なんて爆発するだろうけど………」
藤井は普段自分の力をセーブしているが、本気を出すと真面目にヤバイ破壊力を持っている。
能力が単純なだけにその威力もとんでもないものなのだ。
指先でコンクリートくらい粉砕できる。
物騒な会話をしている二人に佐藤が頬を引き攣らせながら別の資料を出す。
「これは現場に来てくださった協会の方が」
そこには幾つかの項目に分かれたチェックシートのようなものがあった。
「ありがとうございます。………やっぱり無かったか……」
その紙にざっと目を通してため息を吐く天宮城。そして風間のように目を向けて、
「結城。そっちの隊から読心系の能力者を三人くらい引っ張ってきてもらって良い?」
「いいけど、なんで?」
「ここから先は総当たり戦だから人数が要るんだよ。場所はいくつか絞りこんでるけど」
ノートパソコンを起動させ、佐藤に見せるように画面を開く。
そこには地図が表示されていて、赤いピンが幾つか立っている。
「これは………事件現場ですか」
「はい。ここを中心とした2キロメートル範囲の外を探ってもらいたいんですが」
「え、なんで外? 中じゃなくて?」
「一番遠いところだと5キロ離れてるってことはあんまり信憑性ないんだけど、ちょっと気になることがあってさ。佐藤さん、ここ周辺の写真、大量に撮ってきてもらって良いですか?」
言っていることがよくわからず首を捻る二人に天宮城は苦笑いを浮かべつつ、
「方法としては滅茶苦茶なことします。でも当たればでかいですよ。当たったら、っていう但し書きがつきますが当たりさえすれば犯人、見つけることできますから」
にっと口角を上げて得意気な顔をする天宮城だった。