13ー1 勉強と仕事と仕事と仕事
やっとテスト終わりました………。更新頻度あげられるよう頑張ります。
「ご迷惑おかけしました………」
半分土下座に近い格好になりながら天宮城が謝る。
「私達にも責任あるし………ねぇ?」
「え? ああ、うん! 私が誘ったからこうなったんだし………」
「僕なんて君を誘拐した張本人だしね」
小林、水野、何故かここにいる吉水が各々の反応を見せる。
「だから顔を上げてよ。君がそんな格好してたら話すことも話せないし」
「すみませんでした………」
「いや、だからいいって………」
寧ろこっちが罪悪感に押し潰されそうである。天宮城は自分から拐われに行ったわけではないのだから。
「あ、じゃあ今度また遊びに行こう‼ ね、それでいいでしょ? 水野さん」
「え? う、うん!」
転んでもただでは起きないのだ。流石は芸能人。頭の回転はかなり早いようだ。
「そんなことでいいなら………」
「ほら、顔あげて」
上げはしたもののまともに正面を見れないらしく、俯いたままである。
因みに体のヒビはまだ残っており、魚住(天宮城曰くド変態医師)が体を隅々まで、それはもう隅々まで見たところ、鼻息を荒くしながら、
「最低でも三日は安静が必要だね。もうこの石も殆ど心臓と同化しちゃってるし、その反動もあるかもしれないから一週間はお休みとった方がいいよ。あ、それと毎日君の部屋に行くから―――」
天宮城はそこまで聞いて勢いよく扉を閉めた。
つまり今、かなり暇なのである。ペンを持っただけで痛みが体に走るのでなにもできないというのもある。
「龍一君。その目、大丈夫?」
「目………は、大丈夫です。ええ。大丈夫です」
絶対に大丈夫ではないような遠い目をしながらそう答える。
実際、日常生活に何ら問題ない。無いのだが。幼馴染達の反応が大丈夫ではないのだ。
協会に帰ってから、初めて天宮城の目を見た藤井や葉山達が爆笑していたのだ。副隊長達は空気を読んで少し顔を引き攣らせるくらいに抑えていたのだが彼らにそんな慈悲はない。
天宮城の名誉のためになんと言われたかは言わないが、中二病という言葉や邪眼という言葉が飛び交っていたことだけは確かである。
「もういいんですよ。知りませんよ。ええ」
「おーい、天宮城君?」
話が耳に入っていない。半ば自棄になっている天宮城の背後からはどす黒いオーラが微妙に漂っていた。
「「「…………大丈夫かなぁ」」」
死人のような顔をする天宮城を見て、三人揃ってそう呟くのだった。
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「あ、おっそーい!」
「いや、そんなこと言われてもな………。ほら、これでいいだろ?」
「まぁ、許してやらないこともないわ」
「………」
呆れたように苦笑する天宮城はアインにノートや本を渡しながら序でとばかりに空中から食べ物や飲み物をだす。
「それ本当便利よね」
「便利だけども。こっちでしか使えないからな」
現在、天宮城が数分で建てた家に住んでいるアイン。家の維持管理は殆どオートなのでやることがなく暇だとよく言っている。
「じゃあ昨日の続きね。ここは?」
「永世中立国、ジグムリーバ」
「えい………なんて?」
「あ、武装国家」
「あってるけど。さっきの何?」
「永世中立国? んー、スイス?」
現在天宮城は地図を頭のなかに叩き込んでいる真っ最中である。地図なんてどこで入手したのかと問われれば簡単な話である。
念じたら出てきた。以上。
「で、ここが世界一の貿易港、シュリケ港」
「逆になんでそんなに早く覚えられるのか不思議」
「んー、慣れたらそう難しくないぞ?」
「ああ、そう………」
その内に、寧ろ地理なら天宮城のほうが頭に入っているということになりそうだ。
「で、文字だけど」
「そっちはどうもな………。元々英語とか苦手だし」
最近ようやく児童書を苦戦しながら読むことができるようになってきた。自作の辞書が無いとキツいが。
「で、アインの方は? 宿題出しただろ?」
「うう………計算なんてこの世に必要ないもん」
「いや、大いに必要だろ」
どうやらこの世界には学校という概念が無い(少なくともアインの国は)ようで、読み書きはできるが計算ができない人が沢山いるようだ。
読み書きは各家庭で教えるのが普通だという。それでも田舎の方になると読み書きすら出来ない人もいるらしいので結構まちまちだ。
「ほら、そこ違う」
「むー」
何故か数字はアラビア数字だったのでそこだけは読める天宮城である。
「ここで2×6をして、その後3を足せばいい」
「わっかんない」
「俺の国じゃ7才で習う事なんだがなぁ………」
「なんですって………」
足し算引き算はなんとかできるが掛け算から先がさっぱりなのである。しかも足し算も二桁を越えると危うい。
「これは………少し時間がかかりそうだな………」
「別にアレクが計算すればいいじゃん」
「商人が計算できなくてどうする」
そう。天宮城達は話し合った結果商人として各国を回ってみる事にしたのだ。勿論、最初は少ししてしまうが基本ズルはしないつもりである。
例えば、大量に物を造ってしまったり。
「なるべく自分達だけでやってきたいからな」
「なんで」
「なんでって………ズルして過ごすなんて詰まらないだろ?」
「そういう理由ね」
「ああ。そういう理由だ」
ノートの一番上に書かれている字をひたすらその下に写していく天宮城。甲骨文字が楔型文字にしか見えないそれはこの世界の字で、なんと楽なことに全世界共通なのだそうだ。
言葉が同じなことはもうファンタジー的なものだと割りきるしかない。追究していたら日が暮れる。
「あ、アレク。それ違うわよ。それじゃあ“し”よ」
「え? 何が違う?」
「ここの点をもっと伸ばすの」
「めんどくさっ!」
「計算の方が面倒くさいわよ‼」
互いに文化の違いからくる面倒くささに悪態をつきつつカリカリというペンが動く音だけが辺りを支配する。
「「…………」」
なんだかんだ言って二人とも集中力が高いようで、先程から一言も話さずペンを動かし続けている。
「ねぇ、アレク」
「………ん?」
アインに話し掛けられ、ペンを動かす手を止めずに返事をする。
「あっちの世界ってどんなところ?」
「?」
「やっぱり、良いところ、なのかな。争いがないんだもんね」
「俺の国はってだけだけど。戦争してる国もあるさ」
「魔法無いのにどうやって戦うの? 剣?」
「残念ながら剣使ってる人なんていないと思うよ」
ノートを捲り、ひたすら手を動かす。
「ずっと。ずっと昔に火薬が生まれたんだ」
「火薬?」
「それは火をつけると爆発するもので、当時は爆竹みたいなものでしかなかったそうだけど。でもやっぱり人間は残酷だよ。それを戦争に使い始めた」
「そんなに危険なの? 魔法とそう変わらない気がするけど」
確かにこの世界の魔法便利だしな。と頷きつつ、口に紅茶を含み、
「だって誰でも扱える。子供だろうが年寄りだろうが大の大人をそれひとつで殺しができる」
魔法は魔力が全ての鍵だ。魔力の質で威力が変わり、魔力の量で放てる数が変わる。
「魔力はその人のぶん切れたら終了だけど、銃は違う。弾さえあればいくらでも撃てるからな」
「よくわかんない」
「…………見ればわかる」
あまり気持ちのいい話ではないのでさっさと終了させた。
「あ、ずっと気になってたんだけど、俺がこっちと元の世界行き来するときってどう見えてるの?」
「え? …………聞きたい?」
「………そんなに変なの?」
「消えるの」
「フッて?」
「ううん。パアアッて」
「パアアッ?」
擬音が多すぎて意味不明だがどうやら光に包まれて消えるらしい。随分と大袈裟な移動である。
それと、天宮城が行き来していて気付いたことだが、こちらとあちらでは時間の流れが違うのか、世界が本当の意味で天宮城中心に回っているのか、起きている時間の方が長いのでこっちにいられる時間が少ない………というわけでもなく、あっちで12時間こっちで12時間過ごしても寝たぶんの時間だけしか反対の世界では流れていないらしい。
簡単に言うと、たとえ4時間しか睡眠時間がなくともこっちでは起きていられるだけの時間が使えるのだ。
まさに夢の中の世界である。試してはいないがこっちで徹夜してもあっちでは半日も経っていないということになるのだろう。
「消えてんのか………」
「私がアレクの手に掴まって一緒にあっち行けないかな?」
「やめた方がいいと思うぞ? とりあえず良い所じゃない。俺にとってはな」
試そうとも思わないが。
「そっかー、行けないのかぁ」
「うっ…………そんな目で見るな」
好奇心に溢れたキラキラとした目を天宮城に向けるアイン。天宮城に輝きが刺さっている。チクチクと。
「確かに俺はあっちとこっち両方で過ごしてるけど………」
「だめ?」
「…………今はな。もし俺がまた独り暮らしするようになったらいいよ」
今のままだったら確実に幼馴染達に遊ばれる。どうやってあっちに行くのかすら不明だが。それに行けたとして帰ってこれる保証は一切ない。
「まぁ、そんな機会無いかもしれんけど…………」
いつか連れていって貰えると喜んでいるアインを横目に小さく呟く天宮城だった。