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1ー3 超能力者は夢使い

「ヘタレ」

「りゅうのヘタレー」

「全く……いつ発作が起きるのかも判らないのに説明なしで付き合う等言語道断だぞ」

「付き合ってないから!」


 半分泣きが入った天宮城が言う。因みに説教されているときに流石に煩いという事になったので途中から場所を移動し、能力者協会の会議室に場所は変更されている。


「あの……いったい?」

「こっちで勝手に言ってて申し訳ありません。ここにいる僕達は能力者の最初の10人です」

「最初の10人……? でも一人全く表に出ないって」

「それが龍一なんです。自分の力が恐いからって閉じ籠って出てこないんですよ……」

「う、嘘……」


 天宮城は少し項垂れた様子で、


「すみませんでした……」


 とボソッと言った。


「でも納得できるかも……天宮城君車潰してたもんね」

「あ、それは僕の能力じゃないんです」

「どういうこと?」

「それは私から説明させてもらいますね」


 横から女性が突然会話に入り込んできた。


「私は葉山(はやま)美鈴(みすず)です。能力は天候操作ですね」

「テレビで見たことあります……」

「はい。それです。で、龍一の能力ですが実は不明なんです」

「不明……?」

「はい。やれることがあまりにも多くてどれが本当の力なのか判別が出来ないんです」

「凄い……」


 美鈴はどこからか資料を持ってきて捲りながら話す。


「大筋としては、夢使い(ドリーマー)、同調者のふたつが能力なのではないかと」

夢使い(ドリーマー)? 同調者?」

「龍一の能力に夢の世界を作り出し、思うままに操る。というものと、相手の能力の波長を自分と同化させて自分をその能力者にする、というものがあります」

「あ、だから車を?」

「そういうことです。あの時の能力犯罪の犯人はレベル4のサイコキッカーでしたからそれを真似たんでしょう」


 水野の視界の端でこくり、と小さく頷く天宮城。


「夢使いの方ですが……こちらもよく判っていないんです。夢の世界をイメージし、それを夢の中で実現する。これは非常に珍しく、使える力です」

「使える力?」

「はい。夢の中ですから現実世界に何の影響もありません。拷問に使えるんですよ」

「ごうも―――!」

「冗談です。それにも使えますが、夢の中なので誰にもやっていることがバレない、つまり最高の防音室になるんです」

「え? でもそれだったらサイレントの方が……」


 近藤の能力、サイレント。ある一定空間の音を外に出さない能力だ。


「確かにそうですが、読唇術が使える人にはバレますし。この力が使えるのは、もっと先の事です」

「先……ですか?」

「私達能力者はある一定の波長を周囲に放出し力を使います。龍一の同調者の方はこれを逆手にとって力を真似るわけですね」

「それが何に関係が?」

「龍一の力は波長がでないんです」

「え?」

「龍一の力は使っているかどうかさえ判らないんです。だから誰に力をかけようが誰も気付きません。それどころか、人の記憶を見ることもできるんです」


 一瞬動きが止まる水野。天宮城は少し辛そうな顔をして座っている。


「人の記憶を……?」

「はい。龍一はこれが辛いからという理由で能力を使いたがらないんです。夢は記憶の整理のために見るということはご存知ですか?」

「それは、どこかで聞いたことがあります」

「人の夢に入り込むことで夢の記憶を見ることができるんです。これが、龍一の力です」


 少し悲しそうな目をして天宮城は外を見る。まるで何かから逃げているような目だった。


「あ。天宮城君が能力者に好かれるって言ってたのは?」

「それは……見せた方が早いですね。龍一」

「……見せるの?」

「当たり前でしょ。ほら」

「水野さん。決してイヤらしいことではありませんから」

「え?」

「ほら脱ぐ!」

「わっ!って寒い!」


 ばっと服を取られて少し焦る天宮城。


「それは一体……」

「これが龍一が狙われる理由です」


 水野が驚いているのはかなり引き締まった体……ではなく心臓部分。そこに移植で埋め込まれたかのように黒く大きな石が入り込んでいた。


「これ……感覚があるんです」

「え?」

「何て言ったらいいんでしょうか……自分の一部になってしまっているというか」

「龍一の心臓に直接繋がっているので取り出すこともできません。しかも、それが近くにあると能力レベルが上がるんです」


 流石に寒くなったのか服を取り返してさっさと着る天宮城。顔が若干赤い。


「能力レベルって結局何なんですか?」

「あ、ここは私の担当だねー。風間(かざま)結城(ゆうき)です。能力は転移でーす」


 ペコッと頭を下げ、一瞬消えたかと思ったらフリップを持って現れた。


「これ協会で能力レベル説明の時に使うんですよ。っと、それでは説明しまーす」


 フリップを持って見えやすい位置に移動して風間が話し始める。


「能力は能力のできる度合いにあわせてレベルが定められています。まず、非能力者。水野さんですね。がレベル0。ほんの数センチ物を動かせるとか腕相撲の時にドーピングがちょっとできる程度、つまり限りなく0に近い能力者をレベル1」


 風間はぺりぺりとフリップを剥がしながら言う。因みにこのフリップは食物連鎖でならう下は植物一番上は猛禽類等の肉食動物のあの三角のグラフだ。


 今の話で一番下とその次が出てきた。


「それで一応使えるけどそこまで強くない、そうだな……転移だったら二階にある物を場所は同じでそのまま一階に飛ばせるくらい。これぐらいがレベル2。レベル3になると一気に出来ることは広がって1キロ位なら転移で移動できます」


 食物連鎖の三角形の図に段々文字が増えていく。


「それでレベル4。ここまで来るともう完全超人。今日りゅうと水野さんが襲われた能力者はサイコキッカーのレベル4でしたよ。転移で説明すると半径10キロ最大20キロは一瞬で移動可能です。レベル5。正直ここまでくると警察なんて役に立たないくらいの能力レベルです。身体強化なら飛行機とか右手一本で持ち上がります。転移だと海外行けますね」


 まさかそこまでとは思っていなかった水野は正直に驚く。能力は秘匿されていることが多く、知る機会が殆ど無いのが現状だ。


「さらに凄い。レベル6。ここまで来ると絶対に最初の10人である私達が出ないとヤバイレベルです。ここにいる殆んどはレベル6です。あ、私も6です。転移だと世界旅行できますよ。レベル6は別枠なので普通能力者と言ったらレベル1から5までをさします」


 三角形の頂点にあともう一つくらい枠がある。


「レベル7。これは人体に影響を及ぼさない、稀少な能力を指します。予知夢や変わったところでは魅力があります」


 魅力の能力者は協会で働いているらしい。


「ということは、天宮城君はレベル6?」

「いいえ。りゅうは正直いってあり得ない(・・・・・)のでレベルは指定されていないんです。強いていうなら、レベル10ですかね」

「指定されていないとは?」

「基本どの能力も調べれば判るんです。でもりゅうの能力はハッキリと判明していない上、どれが本当の力なのかも判っていないので……。しかも複数能力持ちは普通同じ系統の物が多いのにりゅうは全く関係ない能力なので」 


 複数能力を持てる能力持ちは少なくはない。しかし、嘘を付いているかどうか判別できる能力を持つ人は触ったら心を読めるとかの同じ系統の上位互換系になる筈なのに、天宮城の場合同調者と夢使いという接点がなさそうなものなのである。


「で、本題に戻りますよ」


 ずずいっと葉山が前に出てくる。


「龍一のあの石ですが……あれを使うと能力レベルが最大で1上がるようなんです」

「レベルが上がる……?」

「普通はレベルはずっと上がらない筈なのですが、龍一は上げることができるんです。これは絶対に他人に話さないようにお願いします。バレるとどこから狙われるか判りません」


 当の本人である天宮城は未だに窓の外を見ている。いや、現実逃避している。


「あれは何なんですか?」

「私達が何故力を持ったかご存知ですか?」

「えっとタイムカプセルの代わりに出てきた黒い石……あ」

「そうなんです。私達は龍一の体にあれが入り込んでしまったのでは無いのかと予測しています」

「そんなことって」

「正直、あれが光ってからの記憶が無いもので……龍一の体にあれが出てきたのは能力に気付いてから三ヶ月ほど後の事です。少しずつ大きくなっているんです」


 最初は米粒くらいだったらしい。今では拳大くらいの大きさになっているが。


「そうですか……」


 天宮城を見る水野。まだ外を見ている天宮城。


「龍一! 誰のことを話してると思ってるんだ」

「判ってるけど……なんか嫌な感じがするんだ」


 胸の辺りを押さえる天宮城。ちょうど石のところだ。


「痛んだりするか?」

「そういう訳じゃなくて……予感だよ。勘でしかないけど」

「りゅうの悪い直感当たるもんなぁ」


 そして、天宮城は意を決したように水野に向き直る。


「水野さん。もしも、もしもです。どうなるかは判りませんが」

「え、ええ」

「僕の目が赤くなったら、気絶させてください。もし、髪も赤くなったら……殺してください。約束してほしいんです」

「………!?」

「さっきから発作だなんだって言ってるの聞いていましたか?」

「そう言えば何回か耳にしたような……」

「発作って言ってますけど僕、この力が暴走するんです」


 グッと胸の辺りを掴むように触る天宮城。


「暴走した時は、人格が変わるというか、意識がないのに体が勝手に動くというか。そんな感じになるんです。目が赤くなるのはその予兆です。この時ならまだ何とか自分の意思で体を動かせるんですが」


 天宮城は辛そうな顔をしながら話し続ける。


「髪も赤くなったらもう完全に僕の体は主導権がなくなるんです。多分、きっと、この石が関係してるんです。これが大きくなればなるほど体の主導権が移りそうになるスピードが早くなっている気がするんです。しかもその状態の時、僕は……」


 そこで一旦言葉を切る。苦しそうな顔をし、少し深呼吸をした後、また話し始める。


「人を傷付けることを快感に感じてしまうようになるみたいなんです。戦闘狂と言っても良いでしょう。これで、この力のせいで僕は、皆を傷つけてしまったんです」


 泣きそうな顔で、そう言ったのだった。








「今日はもう遅いですね……泊まっていきますか?」

「いいえ。帰れますので」

「そうですか。あ、結城!」

「はーい」

「水野さんを送ってくれ」

「了解。行きますよー」

「へ?」


 水野と風間が瞬間移動で消えた。


「龍一。酷い顔してるぞ」

「……秋兄にはわかんないよ」

「そうかもしれんが、今は抑えられてはいるんだろ?」

「なんとか、って感じかな」

「そうか……。また魚住さんに診て貰いに行くか」

「あの人苦手なんだけど……」

「好き嫌い言うな」


 ビシッと滅茶苦茶な威力のデコピンを喰らい、大きく仰け反る天宮城。


「いっ! 秋兄! せめて手加減してよ!」

「ははは。20越えたら手加減してやる」

「あと二年もあるの!?」


 そんな風に話していると風間が帰ってきた。


「結城。ちゃんと送ってきた?」

「勿論。……りゅう。水野さんにまだ言ってないことあるでしょ」

「………」

「ちゃんと言わないと後悔するよ」

「……判ってる」

「ならいいけど。明日は学校も無いんでしょ?」

「うん」

「じゃあ泊まっていきな。夕飯あるから」

「……うん」


 結城はそれだけ言って、転移でどこかに行った。









「なんか目がショボショボするなぁ……」


 結城に送られた水野は自宅で久々に自炊をしながらテレビを付ける。


「あ、今日のやつニュースになってる」


 コメンテーターがボードを見ながら説明をしていく。しかし、その話の中に一切天宮城の名は出てこなかった。


 名だけでなく、能力者協会のトップ、藤井が事態を終わらせた事になっている。しかも、


「犯人食べられたんじゃ……?」


 白いドラゴンに食べられた筈の犯人が普通に生きていて取り調べを受けているらしい。


「あれは、現実には一切関係ない夢の中なんだ……」


 だとすると天宮城の力は傷害性は一切無いことになる。同調者は同調する相手がいないと扱えないのでまた違ってくるが。


 カレーライスを作って食べ、その日は風呂に入ってすぐ寝てしまった。








「ん……朝か」


 ピピピピピとなり続ける携帯のアラームを消しながらぼんやりと考える。何で昨夜はアラームをつけたのか。


「あ、会社」


 そうだった、と思いだし、


「嘘ぉぉぉぉ!」


 絶叫しながら支度を高速で済ませていく。


「今日大事な資料提出しないといけないのにぃぃいい!」


 扉を乱暴に開け閉めし、外に飛び出す。そこには、天宮城がいた。


「天宮城君!? なんで!?」

「梨華姉……予知夢の能力持った人が遅刻するかもって予知したらしくて……僕のせいでもあるので送ります」

「どうやって?」

「転移系能力を真似てきたので」

「同調者ってやつ?」

「はい。どこでしたっけ?」

「えっと―――」


 水野は場所を細かく話す。


「判りました。そこの近くの路地裏に飛びましょう」


 人の居ないところに移動し、転移した。


「あ、ここからわかる!」

「そうですか。ではお仕事頑張ってください」

「送ってくれてありがとう!」

「いえ。それでは」


 路地裏から出るときに天宮城の方を見たが、そこにはもう誰もいなかった。


「おはようございます」

「おはよう。早いわね」

「ええ、まあ……」


 水野はその時上司の肩にゴミのような物がついているのに気づく。


「あれ? なんか肩に付いてますよ?」

「え? どこ?」

「あ、気のせいでした……」


 が、よくよく見てみると別に何もなかった。疲れてるのかな、と考える。それもそうだ。一日であんなに色々な事が同時に起こるなど普通ならあり得ないのだから。


 ショボショボする目に目薬をかけ、パソコンに向き合った。









「お疲れ様。今日はもう大丈夫よ」

「あ、はい。お疲れ様でした……?」

「どうしたの?」

「いえ、大丈夫です……」


 水野は目を何度か擦る。


「花粉症?」

「あー。なったかもしれませんね……」

「マスクすると大分楽よ」

「はい」


 その後も上司と少しだけ話をし、外に出る。


「今日も買って帰るか……」


 流石に今日は居ないだろうと思っていつものコンビニに入る。


「いらっしゃいませ」


 普通にいた。そして、その肩に白い小さな羽の生えた蜥蜴……あのドラゴンをデフォルメしたらこうなるのではないだろうか、というちびドラゴンが乗っかっていた。


「!!?!?!?!」

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