11ー2 異文化交流
「なにこれ」
先ず、名前が???????とはどういうことなのだろうか。
それから、人族というのは判るが、その後ろの絶滅種・希少種とはなんなのだろうか。
「ステータス偏りすぎだろ」
知能と器用さに全振りしたような数字である。
職業も意味不明だ。コーディネーターは日本語びそのまま訳せば纏める人やその役柄を指す言葉になる筈なのだが服飾師という聞いたこともない言葉が当てはまっている。
「どれどれ? ……………」
女性が天宮城のステータスを見た瞬間、表情が固まった。
「これって高い? 低い? ていうか平均ってどれくらい?」
「レベル1なんて初めて見た」
「え」
「生まれたての赤ちゃんでも3はあるよ………」
「俺赤ん坊未満なの⁉」
「史上初なんじゃないかな………」
レベルが低すぎて史上初とか嫌すぎる。
「え…………じゃあステータスは?」
「えっと…………赤ちゃんで平均10くらい………」
「なんだと」
魔力など0である。天宮城は泣きそうになってきた。
「俺見せたんだから君のも見せてよ」
「個人情報なんだけど………」
「じゃあなんで俺に見させたんだよ⁉」
「嘘だって。ほら」
天宮城の手からステータスストーンを奪うように取って握りこみ、小さくステータスオープンと呟く。
すると天宮城の物とは少し違う色をしたステータス画面が現れた。天宮城の物は薄い青、彼女の物はバックが薄い灰色だ。
「………………………」
それを見て、死んだ魚のような目をして項垂れる天宮城。
「俺の何倍だよ………」
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【名前】 アイン・ラピスラズリ
【種族】 黒人狼 希少種
【職業】 光の巫女
【レベル】 34
HP 798/798
MP 1000/1000
攻撃力 142
敏捷 421
魔力 583
魔耐 376
防御力 253
知能 432
器用さ 251
体力 152
回復力 459
【スキル】 光の巫女 光魔法・魔力湖(レベル5)・祝福(レベル10)・幻灯・火魔法(レベル15)・水魔法・土魔法(レベル20)・超回復・癒しの音(レベル25)・精霊魔法(レベル30)
【加護】 光の加護
【レイド】 4029314
【専属武器】 錫杖〔フィリア〕
【装備】 巫女服(儀式用)
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天宮城のと比べるととんでもないステータスである。天宮城が低いだけなのだが。
「光の巫女?」
「あ、うん。一応ね。ここ、神域だし」
「………神域?」
「何がおかしいの?」
神域とは何ぞや、という顔をする天宮城にさも当然であるかのごとくそう言う。
「っていうか、アインって名前だったんだ………。あとラピスラズリって石の名前だよな、確か」
「石の名前なの?」
「ああ、そうだよ。…………っと。これだよ」
天宮城はグッと片手を握りこみ、そっと手を開く。するとそこには真っ青な石が嵌まっているペンダントが握られていた。
「ラピスラズリっていう宝石には『邪気を取り払う』っていう意味があって、嫉妬や憎悪の念を浄化してくれる石なんだ。また、『第三の目』になるっていう意味もあって、新しい発想が浮かぶってクリエイターなんかには人気の石なんだよ。あ、そうそう、ラピスラズリっていうのを和名で言い換えると『瑠璃』っていう―――」
『おい。いつもの事だが話が脱線しているぞ』
「っと、つい」
好きな話になると途端に周りが見えなくなる天宮城である。
アインも突然物凄い早さで息つく間もなく喋りだした天宮城を怪訝な目で見ている。
「っていうか、アイン………人間じゃないの⁉」
「っていうか人族様だったの⁉」
二人揃って叫ぶように互いの種族の疑問をぶつけ、
「「………え?」」
また会話が一時中断された。
「え、ちょっとまって。人族、様? どういうこと?」
「どうって………」
そこからアインが語りだしたのは、御伽噺でよく聞かされていたという話だった。
「えっと、それはそれは昔の話でございます。神様達が地上に居り、皆が仲良く暮らしていた頃のお話」
「神様ってなに。地上にいたの」
『一先ず黙って話を聞け』
早くも突っこみたかった天宮城だが、先に進めないので一先ず黙る。
「野山は季節ごとに色を変え、海はどこまでも蒼く美しい、戦争もない平和な世界でございました」
「どゆこと。四季がないの?」
『黙れ』
「その平和な日々が続いていたある日のこと、世界が突然灰色に染まってしまいました。木々は枯れ果て、海は干上がり、あらゆるところで魔物が発生しました」
一回止めたいんだけど。と琥珀に目で訴える天宮城だが、琥珀は天宮城の手に思いっきり噛みつくことで妨害する。
「その原因は黒の神様でした。黒の神様は神様の中でも一、二を争う強者で、美しい漆黒の羽をもつ、白い髪の女神様でした。黒の神様は自分の美しさに酔い、自分以外の美しいものを全て排除するために動き出したのです」
「黒の神様なのに髪は白なのか?」
『…………』
琥珀の無言の圧力を受け、口をつぐむ。
「真っ暗な闇の世界にならなかったのは、その対の力を持つ白の神様のお陰でした。白の神様は黒の神様の恋人で、黒の神様が堕ちてしまったことに心を痛めました。白の神様は純白の羽をもつ、黒髪の男性でした」
「あ、そこは逆なんだ」
『そろそろ殴るぞ』
「ごめん」
琥珀の目が本気だった。
「白の神様が黒の神様の力を相殺している間に、赤、青、黄、緑を始めとした神様達が白の神様と共に黒の神様を倒しにいきました。その時、神様達と共に立ち上がったのは人族達だったのです」
いよいよ熱が入ってきたアインが手を握りしめて語る。
天宮城がその様子に少し引く。文字通り椅子ごと後ろに下がった。
「神様達は人族に力を与えました。そのもの達は勇者と呼ばれ、命を賭して戦いました。しかし、黒の神様はとてもとても強かったのです。人族達も神様も、徐々に倒れていきました」
椅子の上に足をのせて叫ぶように語り始めた。
「白の神様は黒の神様を自分もろとも封印しました。世界は救われたのです。神様達は色を世界に定着させ、私たちに魔法とスキルを。神に最も近かった人族からは職業を、各々与えてくださったのです」
一気に話飛んだな、と首をかしげる天宮城だが、それに気づきもしないアインは話を止めようとする素振りすら見せない。
「神様達は天界という私たちが絶対に辿り着けない場所に安住の地を構え、人族をそこに招き入れました。そして神様達と人族達は、今でもそこで幸せに暮らしているのでしょう。めでたしめでたし」
「……………めでたい、のか?」
結局大量に被害は出ているし、所々話が飛んでいてハッキリと理解しにくい。まるでページがいくつも取れてしまった絵本のようだ。
それに、黒の神様と白の神様が犠牲になってどこがめでたいのだろう、とも思える話である。
「まぁ、でも、人族が絶滅したってのはなんで?」
「だって神様と一緒に行っちゃったんだもん。っていうか私達からすれば人族だって神様だと思うし」
「そんなもんなのかなぁ………」
力もらえたら誰でもいいのか、とも思えてしまう。
「それで、この話にはもう少し先があるの」
「先?」
「白竜と赤い目の神様の話」
「?」
天宮城と琥珀が目をあわせて首を捻る。
「さっきの話を第一次ラグナロクっていうんだけど、次のお話はその数千年後、第二次ラグナロクになるんだよ」