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10ー6 絶対に屈しない

「そこまで落ち込まなくても………」

「落ち込みますよこれは………」


 がっくりと項垂れる天宮城に励ましの言葉など通用しない。


「ほ、ほら、格好いいよ?」

「………どの辺りが?」

「え、えっと。ほら、うん」

「なんの励ましもできてないですよ……」


 お世辞が絶望なまでに下手くそである。


「あー………絶対にからかわれる………絶対に………」

「元気出して………?」


 もう励ましですらなくなってきた。天宮城がこの体勢に入ってからかれこれ数十分は経っている。


 天宮城の心情を表すように外からは雨が降りだし、小さな小屋の屋根を強く叩いていた。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「ぐっ⁉」

「秋人っ⁉」


 突然吹き飛ばされた藤井に片山が無事を確認するように叫ぶ。


「大丈夫、無意識に強化してたしギリギリでシックスセンスが発動したし」


 藤井の能力は身体強化の他に感覚増幅、それと第六感(シックスセンス)を持っている。


 この第六感は直感そのものを強化するもので、ほぼ無意識に発動する。どこに何が来るのか、理屈なしで理解できるのだ。


「っ、誰だ」

「…………」


 数メートル吹き飛ばされたが掠り傷一つない藤井をみて一同は安堵の息を漏らす。なんだかんだ言って心配なのだ。


「…………あれ(・・)は、どこだ」


 目の前に予兆なく現れた人が掠れた声でそう言う。


「…………こっちが質問しているんだが」

「お前らなどどうでもいい。あれ(・・)をどこに隠した」


 水野の目には、ハッキリとその人の肩に狐のような動物が乗っているのが見えた。水野はその姿形をしっかりと目に焼き付ける。


「あれ、と言われても私たちは判らないわ」


 もう恐怖心などどこかに飛んでいった様子の小林が堂々と相手に話し掛ける。


「……………天宮城、龍一。ここにいる筈、そう聞いている」


 声はかなり低いが、どこか作り物の声のような印象を受ける。変声機を使っているのだろう。


「だが、いなかった。お前らが隠したのだろう」

「残念だったな。俺達だってまだ龍一とはあってない。そっちの管理ミスだろうさ」


 ここまで来て、全員が『龍一は自力で逃げたのでは?』と考え始めたからこその発言だ。


「…………どちらにしろ、あれがないのならお前らには用はない。………あれに言っておけ。逃げ場など無いとな」


 影に溶け込むようにして消えていった。


「………影操りだね」

「ああ。かなり珍しい能力だが、いない訳じゃないしな」


 全員、そこを見詰めたまま暫く動かなかった。


 そこに、ジジ……、というノイズが小さく響く。藤井や三田が身構えるが、その次に聞こえてきた声に全員が反応した。


『あ、あー。聞こえてる?』

「「「⁉」」」


 龍一だ! と藤井が叫び、どこにいるかと皆辺りを見回す。


『あ、今ちょっとその辺には居ないらしいから探しても無駄だよ。それからそっちの声も俺には聞こえないから、勝手に喋るな』


 わざわざ状況を整理する時間まで与えるところは天宮城らしい配慮である。


『俺は大丈夫。ちょっと色々あって、なんとか帰れるみたいだ。それで、少し厄介なことになった』


 部屋の端にあった安物のスピーカーから声が聞こえる。それに群がるようにして天宮城の話を聞いていた。


『俺………心臓のあれの使い方………組織のやつに喋っちゃったみたいなんだよね』

「「「はっあぁあぁああああああ⁉」」」

「「え⁉」」


 水野と小林以外の幼馴染達が一斉に絶叫とも言えるような声を喉から絞り出す。


『その経緯は帰ってから話すけど、その事であっちから接触があるかもしれないからなんとか頑張ってね』


 数分遅い忠告である。


『それと、今皆がいるそこなんだけど、組織の末端の会社らしくて………帰るついでに潰してもらえないかな、なんて』

「「「……………」」」


 幼馴染達は絶句している。誰一人と天宮城の心配などしていない。寧ろ殺意に似たものがふつふつと沸き上がっているようである。


『ボスって呼ばれてる人がいるんだけど、その人とは目を合わせないで。絶対に、ね』

「え、特徴とかないの」

『あ、もうこれ以上話すと傍受されそう。じゃあ、頑張ってねー』


 ブツッと回線が断ち切れて砂嵐のような音がスピーカーから流れるだけになった。


「「「………………」」」


 幼馴染グループは動き出さず、スピーカーを見詰めたままの状態だったのだが、一斉にすっくと立ちあがり、


「「「ふざけんなこのヤロー!」」」


 心底苛立っているかのような声でスピーカーに向かって叫ぶのだった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「よし、これで通じたと思う」

「これで本当に大丈夫なんですか? 大分旧式の機材ですけど」

「大丈夫大丈夫。通じてるって。多分」


 回線を切って小さくため息をつく天宮城。面倒事全てを押し付けたので恨まれてるだろうな、と思いつつ右目に手をやってまたため息をつく。


 まだ立ち直れていないようだ。というか一生引き摺りそうである。


「これからが本番ですね……。大丈夫ですか?」

「ん? 僕は問題ないよ。君が決めてくれたことだし」


 にいっと笑って天宮城に返事を返す。


「そうですか。ではよろしくお願いしますね。…………あ。そう言えばお名前伺った覚えが無いんですが」

「ああ、名乗ってなかったね! 失敬失敬。僕は吉水(よしみず)一夜(いちや)。名前の漢字ひっくり返して夜一、よいちって呼ばれてる」


 ヨイチは渾名だったようだ。


「では、夜一さん? でいいですか?」

「敬称なんて要らないよ。ヨイチでいいよー、それと敬語も要らないよー」

「それはそれで………」


 なんとなく抵抗がある。と口ごもる天宮城だが、こういう人だと割りきったようで、


「んー、じゃあヨイチ。………これからの事、任せてもいいか?」

「ふっふっふ。任せたまえよ‼」


 胸を張って言う吉水に苦笑しながら、


「俺の命、ヨイチに預ける。…………頼んだ」

「わかった。ヘマはしないさ」

「俺達を……助けてくれ」


 そう言った瞬間、ゆっくりと前に倒れる天宮城。吉水は床にぶつからないように天宮城を支え、そのまま担ぎ上げる。


「ふぅ、ここも居心地が良かったんだけどなぁー」


 キョロキョロと辺りを見渡し、規則正しい呼吸を繰り返す天宮城を見る。


「……馬鹿だよね。僕も、君も」


 そう小さく呟いて乱暴に扉を蹴り開けて雨が降る外に出ていった。


 足を動かす度に泥水がズボンの端に飛び、茶色い染みを作っていくが、そんなこともお構いなしにある場所まで走り、突然姿を消した。

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