65ー9 助けるために
藤井が迷子になっている丁度その時、その事実を知るよしもない他の面々は藤井の合流を待っていた。
「どんどん崩れていく……」
「これは、確かにりゅうが珍しく危ないって言うのもわかるね」
天宮城の作戦は基本的にいつもスレスレだ。
可能なことと不可能なことのラインを見極めるのは天才的で、成功さえすればその時の状況の最善を掴みとれる。
だが、最善を求めればなにか無理が出るのは道理である。
頑張ればできないことはない、というライン。それがどれだけギリギリの物なのかは幼馴染みたちは特によく理解していた。
下手したら数秒タイミングを間違えるだけでかなり大きく計画がズレる。そんな計画なんて普通は採用しない。
安全度や計画達成率が低すぎるのだ。
だが、それでもこういうのは全て天宮城の担当である。
何故なら最善を導いているからだ。
今の自分達にとっての最善が天宮城の作戦には組み込まれている。安全策、予防線、そんなものを全て取っ払った超危険な策は全員にとってそれだけ利益のあるものなのだ。
一人でも欠けてはならない。それがルールである。
その約束を確実に達成できるのは天宮城の作戦のみなのだ。
天宮城が友人を見捨てることなど、絶対にない。
「本当に、移動しなくていいのかい」
「龍一がここで合流しろと言っていた。なら、ここで待たなければいけない」
遠藤の場所を移した方がいいのでは、という提案に瓦礫を重力で押し潰しながら上田が淡々と答えた。
幼馴染み九人は天宮城が決めたことに疑問はあっても反対はしない。
それが最適解であることを知っている以上に、なにより天宮城を信じているからだ。
自分を信じられない天宮城の分まで、天宮城を信じる。
取り決めをしたわけでもなく、そうしようと話し合ったわけでもない。ただ自然と、全員が天宮城のために動いた結果だ。
それはずっと。今も昔も変わらない。
「お仲間さんは死んでいる頃じゃないの?」
「残念ながら……皆結構しぶといから多分……死んでないよ」
呼吸を整えるために何度も言葉が途切れる。
もう限界だとわかっているが、倒れるわけにもいかないリュウイチは堪え続けている。
ここまで能力を派手に使ったことも殆どないし、今このときも制御し続けている。崩壊の速度、方向。下手に大きな柱を一瞬で消してしまったら誰も彼もが生き埋めだ。
慎重に、どこから崩すべきか考えて壊している。
疲労困憊の上にかなりの重傷だ。レヴェルに支えられてなんとか意識を保っているに過ぎない。
だが、仲間を逃がすため、なにより仲間が必死に守ろうとしてくれた自分を逃がすために倒れるわけにはいかない。
もしここで崩壊が止まる、あるいは急に侵攻したら計画が全て狂って皆死ぬ。
リュウイチが丁度乗れるくらいの大きさのドラゴンになっているレヴェルがちらりとリュウイチの顔を見て大きくため息をついた。
「また、無茶を……」
「無茶しなきゃ……勝てそうに、ないし」
「それに関しては同感だ。あいつはなんかヤバイ」
ユウを油断なく見つめながらレヴェルが長く息を吐く。
直後、おおきく羽ばたいたレヴェルの傍をなにかが高速で飛んでいった。
「今、一瞬でも遅れてたら墜落していたな……」
あぶないあぶない、と大袈裟に呟く。そんなレヴェルにユウは不満げな表情をみせた。
「しっかりと避けたくせに、蜥蜴がよく言うわね」
「なに、あの程度蝿でも避けきれる。毛の少ない猿ごときに誉められる程のことでもない」
毛の少ない猿。まぁ、確かに人を動物目線からみたらそうなるのか? と、レヴェルの挑発を真面目に分析するリュウイチ。
……瀕死かと思っていたが結構大丈夫そうである。
今飛んできたのは瓦礫だ。
崩壊の力が浸透しきっていない固体は当てられれば即死しかねない危険なものだ。
崩壊させてしまえば触れる前に全部消せるのだからなんの問題もないのだが、今ここが広すぎる上にリュウイチも目の前のことに集中できるほど余裕があるわけでもない。
完璧に矢を防げる盾があっても、剣で突破されてしまう。
素の身体能力で瓦礫を弾丸みたいに投げられたらいくらものを消せるとはいえ当たったら普通に死ぬ。
「任せろ。全て避けてやる」
「……助かる……」
だからレヴェルを呼んだのだ。
長い付き合いになる二人は、はっきりと口に出さずとも互いが何を考えているか位はなんとなくわかる。
早くも今何をしてほしいかを察してくれたらしい。
リュウイチが小さく頷き、レヴェルの首もとに抱きつく。
どれだけ荒く飛んだとしても、落ちたりしないように。
「いくぞ、落ちるなよリュウイチ!」
「わかってる……!」
レヴェルの白い体が宙を縦横無尽に駆け回った。