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65ー8 助けるために

 崩れた地面は、二人を巻き込んで大きな落とし穴となる。


 衝撃で崩れたわけではないので一瞬で消失した床は、掴むところすらない。


「相討ちにでもするつもりなの?」

「……できるならそうしたいところだけど、ユウがそれくらいじゃ倒れてくれないのもわかってる」


 リュウイチが指を鳴らした。小気味よい音が響くと、落下するリュウイチの体が空中で留まる。


 ユウは崩れつつある天井にワイヤーを引っ掻けて停止していた。


 リュウイチは、実は自力で空中に立っているわけではない。


「急に呼ばれて来てみれば……凄い所に呼び出したな」

「それは、ごめん」


 リュウイチを抱えて飛んでいるのはレヴェルだった。


 ユウが新たな乱入者に眉を潜める。


「異世界の……人間じゃないわね」

「そう。この世の理から外れている異世界人だ。もっとも、ドラゴンだけどね」


 リュウイチがレヴェルを呼んだのにはいくつか理由がある。


 まず単純に、リュウイチの力の範囲では空間を接続できても通せるのは一人だったからだ。


 身体能力が大幅に制限されている今、自分がもう一度あちらの世界に帰ることはできないが、一人くらい通れる道を作ることはできる。


 そして次に、戦闘力だ。アロクを呼び出そうかとも考えたが、アロクは本来一対多数の戦闘に長けている。


 正面からより、相手を毒で弱らせたり奇襲をかける戦法を得意としている。元が蛇だからかもしれない。


 その点レヴェルは最悪の場合質量で押し潰す荒業が使える。外に漏れたら大騒ぎになるが、もしそんな状況に陥っていたら命が危ない状況なのは間違いない。


 背に腹は代えられないというやつだ。


 仲間が誰か死ぬより、ドラゴンが街中に出没して大惨事の方がまだましと考えたのである。


 そして最後に、ただ単純に信頼しているからだ。


 何年もずっと一緒に過ごしてきた。


 誰よりも何よりも信頼できる。


「おとなしく言うことを聞きなさい、リュウイチ」

「嫌だ。俺は、俺のしたいことをする」


 崩れていく地下空洞で、二名の神と一匹のドラゴンが相対する。







 壁や天井や柱がガラガラと崩れ、塵になって消えていく様は恐ろしくもあり、なんだか少し爽快だった。


 いつも偉そうにしている嫌なやつが上司とか先生にしこたま叱られている時を見つけたみたいな、ちょっとほの暗い爽快感。


「おい、これ本当に大丈夫なんだよな?」

「多分……」


 上田と遠藤、風間と川瀬は各々の役目を終えて既に集合していた。そろそろ追っ手を撒いたはずの藤井とも合流する手はずになっている。


 どうやら下の階から徐々に崩壊がはじまっているらしく、たまに建物全体が大きく揺れる。


 ここは地下だ。リュウイチが計算して崩す場所を決めているとは言え、下手したら生き埋めという事態になっても仕方がない。


「りゅうは助っ人呼ぶから来なくていいって言ってたけど」

「アロクさんか琥珀だね。多分。私達が行っても邪魔になるだけかもしれないし、信じて待つしかないよ」


 川瀬が助っ人を適中させていた頃、藤井はゼェゼェ言いながら走り回っていた。


 両手が固定されているというだけで異常に走りづらい。腕を振れないというのはこんなに厄介なのかと内心で焦る。


 疲労に加えて走りづらいので思ったより追っ手を撒くのに手間取っている。


 柱の影に身を隠してやり過ごしたり、たまには蹴りで応戦したりして合流地点に向かっていた。


 だが、ここで大誤算が起こる。


「嘘……だろ」


 階段が、ない。


 思ったより時間がかかってしまったせいで、リュウイチが階段を崩してしまっていた。


 もし時間通りに進んでいたら追っ手を撒く好機だったのに、これでは引き返す必要がある。


 これだから龍一の作る作戦は嫌なんだと内心で悪態をつく。


 一分でも予定がずれるとどこか機能しなくなるのだ。


 もしもの時を考え、プランをいくつも準備する慎重派の龍一だが、それでもギリギリのラインを攻めてくる。


 余裕のない案件を龍一に押し付けていたので結果的にギリギリだったのだが。


 完璧で、ずれても頑張ればなんとかなる作戦は秀逸だ。


 いけないこともないよね、という謎の信頼感を発揮して、死ぬかなんとかなるかの瀬戸際を常に強いられるが。


 とにもかくにも、今はちょっと不味い。階段がないということは、能力と手の自由を封じられた状態で壁登りしなければならないということである。


 能力を使えるのなら余裕で壁を走って登るのだが、残念ながら今このときはちょっと鍛えた一般人とそう大差ない。


「……ああ、どうしよう……」


 しかももうひとつ問題があった。


「……右に進むのか前に進むのか忘れた……」


 まさかの迷子である。

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