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10ー5 絶対に屈しない

「話の続きですが、僕をここに連れてきたのは何故です?」

「話がしたかったからって言ったでしょ?」

「それは聞きましたけど、その先です。ただ話すだけではなくその先の何かを」


 天宮城が蜜柑を口に入れながらそう言うと相手は少し驚いたような顔をして困ったような笑みを作る。


「先を読まれ過ぎてて恐いよ。もしかして僕に捕まったのもわざと?」

「いえ、あれは本気で抵抗していました。下手な推測で動いて秋兄達ならともかく水野さん達のような関係のない人を巻き込むわけにはいきませんし」


 逆に言えば、割りと最初の方から組織がどうとかを考えていたのである。


「それに………幼馴染はバカばっかりなので気付かないだろうなと思ったので、それっぽく話をしても通じませんし、懇切丁寧に説明していたらそっちの方がどこで聞かれているか判りませんからね」

「苦労人なんだね………」


 それも根っからの。


「そうなったら自分から乗り込むしかないですが、生憎僕の能力は偵察に向かないので」

「君目立つしね」


 肩を竦めて同意しながら話をするように促す。


「まぁ、そうだね。僕が君に持ちかける話は組織についてだよ」

「そうでしょうね」

「僕の父に会ったんだよね?」

「ボスと呼ばれていた人ですよね?」

「そうそう。ぶっちゃけるとあの人組織の人間なんだよね」


 その言葉は予想外だったのか天宮城が目を丸くする。


「それは気づかなかった?」

「流石に気づけるほど話してませんし………それほど重要な話もしてな――――あ」


 かなりヤバイことを口走った覚えがある。


「なんかヤバイこと話しちゃった?」

「多分……これの使い方、話しちゃった気がします……」

「よりによってそれかぁ………」


 胸にある黒い石を握る天宮城とその様子を見て頭を抱える男。


「でも喋る気なんて無かったのに………」

「それが父の能力なんだよ。精神に直接介入して人を操るっていう」

「そんな能力あったんですか……とんでもなく便利ですね」

「ところがそうでもないんだなぁー。精々が数秒操れるくらいだし操ったら数時間寝込む。それに激しい動きなんてさせることは出来ないしね」


 かなり制約の多い能力のようだ。だが、相手が隠していることを喋らせるというのはかなりのアドバンテージである。


 能力者が自分の能力を曝け出すのは危険な場合もある。


 例えば天宮城の夢使いは相手が先に眠ってしまっている場合、夢に引きずり込むのは相当な力を必要とする。


 天宮城の場合は琥珀に手伝ってもらうことが多いのだがそれでも少しは影響を受けてしまう。それと使っている間、自分の体は完全に無防備な状態になってしまうので相手に仲間がいたら即終了である。


 対抗策が練られれば練られるほどどんどん不利になっていくのはどんな事でも同じだ。


 天宮城だと、夢に落とす前に気絶させられてしまえば発動もできないし、同調者の場合は相手に波長を合わせるためだけにかなりの時間と集中力を必要とする。


 つまり、同調者で波長をとらえられる前になんとかして眠らせればいいのだ。睡眠薬が一番手っ取り早いだろう。


「組織の反応を見る筈がヤバイ情報が漏れましたね………」

「だね………」

「というか、何故組織と反発しているんですか?」

「ああ、元々父は組織の人間って言ったよね。そこから出来た子会社的な感じなんだよ、ここは」

「それで?」

「組織に良いように扱われててさ。それで、まぁ、色々あったんだよ」


 話したくない様子だったので天宮城もそれ以上は追求しなかった。


「それでね。組織に対抗するには組織だって思ったんだよ!」


 ずいっと顔を天宮城に近付けて話す。


「君をかなり目立つ方法で誘拐すれば組織にも綻びが出るだろうし、もしかしたら尻尾も見えるところまでは来るかもしれない」

「その混乱に乗じて、というわけですか………。確かにこんな感じで話せば誰にもバレることはないでしょうし、もしそれを僕が切ったとしても下手に周囲に広がることはない」

「そうだよ!」


 蜜柑を頬張りながら首がもげそうな勢いで頷く。


「だからさ、僕を協会に入れて‼」

「ブッ―――⁉」

「わっ⁉ 汚な………くはないね。よく口のなかで堪えたね……」

「まぁ、慣れてますので……っていうか協会に入れてって……寧ろ危ないんじゃ」

「そうかなー? 身内に敵がいるより全然ましでしょ?」


 確かにそうなのかもしれないが、話はすでにそのレベルではない。


 というかこの人、父親をはっきり敵だと断言した。


「そうかもしれませんけど………色々と難しいと思いますよ? 先ず秋兄達が通さない可能性もありますし」

「それは大丈夫だと思うよー?」

「え?」

「大丈夫だよ」


 根拠などなにもないのに、その言葉には不思議な説得力があった。


「でも………それ以前に父親の子会社的な感じのところからどうやって抜け出すんですか」

「さっきの言葉丸々使ってきたね。それも問題なし!」

「えー………」

「フフフ。秘策があるのだよ」


 酷く不安だがここは任せるしかないのが現状だ。


 天宮城としても帰るためにはこの人がいないと無理だとなんとなくわかっていたので真剣に話し合う。


 どちらにせよ、組織の方から追っ手が来るのは間違いがない。今、力を消耗しきって疲れている天宮城が何とかして逃げ切れるなど幸運が重なりでもしなければ無理だ。


 その点、この人なら頑丈そうな上、天宮城とやりあっても組み合えるほどの怪力を持っているのでそうそうやられはしないと思っていたからだ。


 それに、役職の空きなら無いわけではない。この人ほどの戦闘力ならどこでも雇えそうだ。


 そんなことを天宮城が考えていると、


「なんか悪寒が…………」


 天宮城の目に恐怖を感じたようで、肩を軽くさすっている。


「良いでしょう。僕の方からも何とかしてみます。勿論、色々と条件はつけさせてもらいますし、暫くは軟禁状態でしょうが」

「おお! ありがとう!」


 ガッチリと抱き付かれた。するとそのまま暫く抱き合ったままだったのだが(一方的に)突然離れ、


「ちょっと臭いね。お風呂入ったら?」


 と言われ、風呂なんて入っていられなかった天宮城は半泣きになりながら風呂場で汗を流した。


 髪を拭きながらふと洗面台にある鏡をちらと見る。


「………ん?」


 目を細めてもう一度。


「ん?」


 顔がつきそうなほど鏡に近づいてもう一度。


「?」


 ごしごし、と右目を擦ってもう一度。


「………………」


 無言で鏡の中の自分と目を合わせる。


「なんっじゃこりゃぁぁああああ⁉」


 絶叫した。ちいさな小屋が振動でビリビリと震える。


「ちょ、何⁉」

「お、俺の……」

「え?」

「俺の目が…………目がぁ………」

「…………?」


 驚愕に目を見開きながら相手を見る。すると数秒考えて、


「あ、そうか!」

「………? ………何かわかったんですか?」

「あれでしょ? ラピ○タの最後の方のシーンのバルスの………」

「それ以上はアウトだしそんな物真似してないですよ⁉」


 天宮城がやっているのは世界的に有名なアニメ映画のワンシーン………ではなく、


「俺の右目が赤いんですけど………」


 右目だけ、黒目の部分が真っ赤に染まっていた。


 厨二病を患っているような見た目である。勿論これはカラーコンタクトではない。邪眼だとかそんなものでもない。


「え? うん」

「え?」

「「?」」


 何がおかしいの? という顔をしている男を見て、天宮城が俺は今何を聞こうとしたんだっけ? と一瞬混乱した。


「え、いや。俺最初からこうなってました?」

「なってたよ?」

「いつから」

「ここに来たときには」

「……………は?」


 天宮城が戻らないかと何度も確認するも、残念なことにそんな奇跡は起きなかった。

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