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65ー6 助けるために

 藤井が目につくものを派手に壊しながら逃走する。


 あまりにも無意味に壊しすぎると陽動とバレる危険性があるので、ほどほどにではあるが。


 あくまでも藤井は囮役なのだ。捕まってもいけないし、囮とばれてもいけない。かなり面倒な立ち回りをしなければならないのだ。


 だから囮は嫌なのである。


 かといって今回の面子で囮に最適なのは異常にタフで、もしもの時に殺さない程度に戦える人でなくてはならず、天宮城は動けないし上田も下手に動けないから必然的に選択肢が無いだけなのだが。


「全く。疲れるんだよなぁ」


 煙幕がわりに中身を噴射した消火器で近くの机を叩き割りつつ走る。




 藤井が走り回っている頃、遠藤と上田はパニックになっている室内を見渡していた。


「派手にやってるね」


 監視カメラの映像は既にいくつも届いておらず、通信が途絶していることを表す警告のマークがモニターに浮かんでいる。


 藤井が直にぶっ壊したものもあるが、その途絶の理由の大半は川瀬と風間だ。


 資料室でこの建物内の地図などを手に入れ、電源を落として回っている。今は予備電源がついているのでまだ完璧に制圧できたわけでもないが、その内それも破壊されるだろう。


 天宮城の作戦は、いつも合理的でどこか力押しなところがある。


 本人にそう言うと「暴力っていう力を効果的に使ってるって言って欲しいね」と返ってくるのだが。


 意外と正面突破したがるのだ。最終的には暴力に勝るものはないとよく言っているが、あれはもしかしたら『暴力』で育てられてしまったからかもしれない。


 子供の頃の抑圧された生活習慣というものは、いつまでも引き摺ってしまうのだろうか。


「僕たちも動こうか」

「ああ」


 遠藤が鞄から取り出した缶を極限まで軽くする。


 缶から手を離すと、それは落ちることもなく宙に浮いたままだ。


「やっぱり面白いねそれ」

「さっさと済ませろ」

「はいはい」


 遠藤が指で缶を弾くと、静かにそれが飛んでいく。


 電気の復旧やらで忙しそうにしている人たちの中心に辿り着いた時に、無重力状態から一気に重力をかけて叩き落とす。


 床に甲高い音を立てて落下した缶が急な重さの増加に耐えきれずに大きく裂ける。


 それを確認した瞬間に、遠藤と上田が隣の部屋に避難する。


 ガチリと鍵を閉めると騒がしかった隣室が数秒後急に静かになった。


「相変わらずえげつないな、あの睡眠ガス……」

「うわぁ……怖……」


 恐る恐る扉をあけると、全員がその場で倒れて気を失っていた。反対側の通路に向かう扉に向かって倒れていた人もいるので、恐らく逃げようとしたのだろう。


 だが、残念ながら既に今上田のいる隣室に繋がる扉以外の出入り口は鍵を壊すなどして塞いでいる。


 全てリュウイチの采配だ。死にかけているのに考えていることはえげつない。


「そのガスすごいよね」

「うちの企業秘密製品だ。コストがかかる代わりに効き目がよくて空気中にすぐ分解されるから証拠も残りにくい」

「……それ考えたの誰?」

「龍一」

「………」


 もう驚かない。


 産まれたのがこの時代でなければもっと有名になっていたかもしれない。


 あの超人の思考回路は不明だ。


「じゃあ僕たちも次に行こうか……」

「そうだな」


 道を行く途中、何度か怪しまれたり襲いかかられたりしたが全て上田が倒した。


 実は上田の手錠は藤井の能力を封じるものとは違い、見た目が似ているだけのただの手錠である。


 嵌めていても能力は使える。


 では何故邪魔な手錠をしているかといえば、カムフラージュである。幸いにも遠藤は能力者コレクターとして知られている。


 能力を抑える手錠に似た手錠をかけた男をつれ回したところで、いつものコレクションの一人だと勘違いしてくれる。


 その証拠に、藤井が暴れているせいでかなりの人数とすれ違ったりしたが大半は上田のかけている手錠は見ても、上田本人を見もしなかった。


 騒ぎが大きくなればこのカムフラージュも意味がなくなるが、今のところかなり役に立っている。


「さて、次の部屋の人たちを寝かせに行くよ」

「へいへい」


 今回の襲撃は、風間と川瀬は情報収集、上田と遠藤は敵の無力化、藤井は囮として情報収集の二人を援護する形となっている。


 そして残る一人、重傷と言っても過言ではないほどボロボロのリュウイチは。


「ちょっとは、ましに……なった、かな」


 半身を引き摺りながら大きな柱にもたれ掛かる。


 壁にかかっている時計を見て、目を細めた。


「10、9、8、7」


 カウントをしつつ息を調え、


「3、2、1……」


 0、と言ったのと右手を柱に当てたのは同時だった。


 すると、触れた場所から白い柱がボロボロと崩れて行く。


 時間が経ちすぎて風化していく建物の早回し映像みたいに、サラサラと静かに、確実に、柱が朽ちて消えていく。


 完全に無くなったとき、建物全体が大きく揺れた。


「やってくれたわね」


 降ってくる瓦礫を崩壊の能力で塵にしながら声のした方を見ると、苦虫を噛み潰したような表情をした女性が歩いてくるところだった。


 そして瓦礫は、なぜか彼女を避けて落下している為、彼女には傷どころか汚れも一切無い。


「……ユウ。やっぱり、か……待ってたよ」


 杖もない、かなり不安定な立ち方でフラフラと立ち上がる。


 ユウがせせら笑いを浮かべた。


「そんな足元も覚束無い状態で待ってたの? 言っておくけど、許さないわよ」

「許さなくていい」


 既に満身創痍でありながら、目は怯えの一つも見せずに確りと相手を見返している。


「俺は、ユウを倒さなきゃならない」

「……そう。やってみたらいいんじゃない? 相手にならないでしょうけど」


 建物全体を支える柱を失い、崩れ始めている天井を見上げながらリュウイチが静かに笑みを浮かべた。


「そうかもね」

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