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65ー3 助けるために

 龍一をもう一度預けろ、等と言われて怒りが込み上げない冷静さは持ち合わせていない。


 正直、話すらこれ以上続けたくないとすら思う。


 龍一は能力者特有の波長がでない為、国外に連れ出すのも他の能力者に比べて簡単だ。


 いっそのこと転移で逃げてしまおうかとすら考える。


「……待って」


 掠れた声で藤井の思考を止めたのは、川瀬に体を預けながらもなんとか動く右手で藤井の服の裾を摘まんだリュウイチだった。


「りゅう! 大丈夫なの⁉」

「……あんまり、調子はよくない……けど、喋れないほどじゃ、ない」


 首をなんとか動かして藤井に目線を合わせる。パキパキと人の体から出る音としてはあり得ない音がして、黒水晶の破片が床に落ちる。


「そいつ、最低だけど……今の状況で、考えるなら……俺を一番上手く使える」

「馬鹿かお前は! お前は物じゃないんだぞ」


 自分を物みたいに言うな、と上田が付け加える。


 本当にこの愚弟は自分を大切にしない。


「……ああ。そう、だね……そういうことじゃ、なくて。俺の体の話にも繋がってくる、から。一回聞いて」


 途切れ途切れになりつつも、リュウイチが話し出す。


「今回の、件。遠藤が、言った通り……俺と同類が、絡んでる。けど、面識はない。全くの、他人だ」


 体の大部分が水晶で覆われているからか、身じろぎするのですら苦痛が伴うらしい。


 話しづらいのか体勢をなんども変えるが、その度に小さく呻く。


「っ……彼女は、多分魅了系の能力、持ってる……。小林さんに似た、感覚だった」

「かけられたのか⁉」

「一時は、堕ちてた……能力にも、崩壊が効いて、なんとかなった」


 壊すことに特化した力は目に見えないものにも効くらしい。ただ、生物にはあまり効かないと以前言っていたのでそこまで万能でもないらしい。


「ただ、崩壊使った、せいで……俺の、種族……も、気づ、かれ……た」


 だんだん言葉が繋がらなくなってきた。


 きっと会話だけにも相当体力を使っているのだろう。


「もういい、龍一。一旦休め」


 リュウイチは上田の言葉に軽く首を振る。


「……俺の、こと、だから……」


 どうしても話し続けたいらしい。


 上田がため息をつくと、少しだけ笑った。顔半分しか動かせないせいで、妙に歪な笑みになっている。


「俺の、力は……生物を、壊せ、ない……でも、無機物……なら、基本、なんだって、壊せ……る」

「ああ。知ってるよ。それで、お前はどうしたいんだ」


 もうかなり疲れが出ているのか、目の焦点があわなくなってきた。体の力は既に殆ど入っておらず、糸の切れた人形みたいに体重を支えきれていない。


「……中、に……はいり、こん……で……しせつ、ぶっこわす……」


 そこまで言ってから目を瞑って寝てしまった。


 最後の最後で急に物騒な事を言って寝てしまったが、施設を壊す事になぜ遠藤が必要なのだろうか。


 逃げることをリュウイチが止めて遠藤に「自分を使わせる」などと言ったのだから、確実にこの男は必要なのだろう。


 だが、壊すなら藤井たち全員で正面突破してしまえばいい。


 幸いここのメンバーはそれをできるだけの戦力を揃えている。


 リュウイチはそれを知らない筈がないのに、この男を指名した。


 だが、信じられない。


 リュウイチは自分が傷つくことに関してはいつも無頓着だ。なんとかしてほしいとは常々思っているが、直そうとすらしないのは明らかである。


 リュウイチらしいといえばそれまでだが、彼の場合度が過ぎている。簡単に死なないせいで避けることを止め、痛覚すら鈍感になってしまった。


 それを見過ごせるほど甘くない。


 遠藤はみたところ非能力者だ。太っている訳ではないが、それほど鍛えているようにも見えないし、さして戦力になるとも思えない。


 それでもリュウイチが「俺の話を聞いて」と言ったのだ。


 リュウイチがこうやって前置きする話は大抵かなり重要な事柄だ。


 昔からの癖である。本当に聞いてほしいことを話すときは、一度そうやって周囲の目を自分に向ける。


「……リュウイチの、ためだ」

「え?」

「あんたが何をしようとしているのか、全部聞かせろ」


 あいつの判断は、ここぞというとき正確だ。藤井はそうリュウイチを評価している。


 判断を誤ることも勿論あるが、今回は失敗することを考えない。


 リュウイチを信じて、こいつに託せるのなら託そう。


 それが本来の協会の動きだ。


 龍一が自分の力に怯え、自殺未遂を繰り返すきっかけになったあの事件の前。協会を作ると決めてそれほど経っていなかった頃の『当たり前』だった。


 龍一が提案し、皆で考え、実行する。


 最初はいつも天宮城だった。


 死にたいとか言い出す前は、ずっとそういう関係だった。


「お前を信じるんじゃない。龍一()を信じる」

「それでいい。互いに、龍一君を信じて行動しようじゃないか」


 藤井たちは、(龍一)を。


 遠藤は、憧れの人(龍一)を。


 各々が信じる相手が一致しているだけの歪な関係。


 それでも今は。今だけは、龍一を救うという目的を果たすために互いを利用する。


(これも、りゅうの思い通りなのかな……)


 風間は、また天宮城の手のひらで踊らされるのかと内心で苦笑いを浮かべた。

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