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64ー11 賭け金を

 リュウイチ捜索開始から数十分後、地震が起きた。縦に一発強い揺れが起こっただけだが、日本と違い地震の殆どない国だ。


 パニックが町全体に伝染していく。


「おい、これ!」

「わかってる!」


 どうしたらいいのかわからず押し寄せてきた人の波に流されつつ震源地を探った。


 この感覚には覚えがある。


「たぶんあっち!」


 風間が指差す方へ、はぐれないように互いの位置を確認しながら走った。


 少し細い道に出たからか、やっと人の波から解放される。


「ふぁ、やっと出れた」

「俺たちからすればそれほどまで驚くものでもないものだけど、ここじゃ大惨事だな」

「震度三くらいか」


 そういいながら歩いていくと、目の端にあり得ないものが映った。直ぐ様近寄ってまじまじと観察する。


「秋兄? どうしたの?」

「これ」


 道の端に落ちていたのは黒水晶。全員それを見て一目で天宮城のものだとわかった。


「近くにいるってことか」

「気を付けろ、拐ったやつがいるかもしれない」


 上田の忠告に、用心深く辺りを見回す藤井。だが、他に手がかりになりそうなものはなかった。


 辺りは住宅街。まさか近隣住宅に踏み入るわけにもいかない。


 だが、足の悪いリュウイチがあまり遠くに連れ去られたとも思えないのだ。


 人一人運ぶのは結構大変なのである。


「秋兄。あれ」


 風間が指差す方を見ると、少しはなれた場所にある倉庫らしき扉の前に黒水晶が落ちていた。


「どうする? 乗り込むか?」


 ここまで来たら行くしかない、と全員が首を縦に振る。


 藤井がスキルカードを一枚破った。


 能力波を真似て他人の力を使う天宮城をヒントに作ったスキルカード。元々波長を操れる天宮城しか使えない代物だったが、使い捨ての物に限定し少しなら力を持たない人でも能力を使えるようになった。


 予めリュウイチが力を込めておく必要があるが、リュウイチの力は波長がでないので使ってもバレない。


 一回で使い物にならなくなってしまうが、この状況ではとても役に立つ。


 今発動したのは隠蔽。一時的に存在を限りなく薄くすることができる。


 一時的でしかないし、完璧なものではないのでばれる可能性もあるが、能力者にあまり縁がない他国の一般人を騙せるくらいの能力はある。


「いくぞ」

「うん」


 なるべく音をたてないようにしながら庭に侵入し、倉庫の扉を開けて中に入る。


 倉庫の奥は階段があり、地下へとのびているらしい。


 藤井を先頭にゆっくり慎重に歩を進める。


 一体ここに来るまでに幾つ法律違反しているのか、数えきれないほど悪いことをしまくっている。


 ばれなきゃいいのかもしれないが、実際バレたらマジでやばい。


 藤井は苦笑いをする。天宮城のことになると幼馴染全員、歯止めが効かなくなるのだ。心配で仕方ない。


 これもどうにかしなきゃな、などと考えていると足元に欠片が落ちているのが見えた。拾い上げると、黒水晶である。


「アタリだな」

「うん。早く行こう」


 進む度に水晶の欠片がどんどん増えていって、地面から生えているものも見つかった。


 発作が起きたときに、これと似た状況になる。あの時の天宮城は異常に強いが、代償がかなり大きい。早く助けなければ死んでしまうかもしれない。


「走るぞ!」


 最早隠蔽の効果も切れた。これ以上は隠せないと判断した藤井が強行突破を宣言する。


 長い廊下を進めば進むほど、黒水晶が大きく大量に生えているのがわかった。地面からだけではなく、天井や壁からも生えている。


 踏むとパキンと音をたてて砂みたいに崩れていった。


 扉を蹴り破って長い廊下を抜けると、水晶で埋め尽くされた部屋があった。通るもの全てを傷付けるように、ありとあらゆる場所から水晶が生えている。


「龍一‼」


 割れたガラスの散らばる場所に、リュウイチを見付けた。水晶が邪魔をしてなかなか前に進めなかったので、近くにあった椅子で叩き壊して近付いていく。


 能力を使えない藤井と上田の二人で交代しつつ水晶の道をこじ開ける。


 なんとかたどり着いた頃には息切れしていたが、たどり着けたので良しとしよう。


「能力に頼りきらず、からだ鍛えようかな……」

「俺もそうしようかな……」


 ゼェゼェと荒く息をはく二人を置き去りにして川瀬と風間がリュウイチに近寄る。


「……っ」


 抱き抱えてわかったが、状態はかなり酷い。


 左手左足はおろか、黒水晶が侵食していないのは右足の一部と顔半分くらいのものである。


 鉱石で固まっているからか体がぎこちなくしか動かない。


「りゅう、りゅう!」


 風間の呼びかけに応えることもなく、ぐったりと横たわっている。


 前回の左半身だけの時でさえあそこまで苦労して治したのに、今回はあのときの比ではない。


「どうしよう、りゅう全然うごかない」

「とりあえず亜空間に入れて……日本に帰って魚住さんに診てもらわないと」


 周りは全て黒水晶で覆われている。ここまでのことをして無事でいられるはずがない。許容範囲を明らかに越えている。


「急いで帰るぞ!」


 リュウイチを亜空間にいれようとした瞬間、突然警報が鳴り響く。


「逃がさないよ、その子は必要なんだ」


 奥から出てきた男が右手を上げると、十数人の男が一斉に藤井たちを取り囲んだ。


 罠。その可能性しかなかったのに突っ込んだのは、そうでもしないとリュウイチの発見がより困難になるとわかっていたから。それと、


「……これだけの人数で、押さえきれると本気で思ってるの?」


 ここにいるメンバーだけで、ある程度の障害なら強行突破できるからである。

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