64ー10 賭け金を
なんとか国外へ出ることができた藤井一行。
ちゃんと妨害装置も作動しているらしく、今のところ困ったことはない。
ちなみに渡航には偽造パスポートを使った。
こっちも十分過ぎるほど犯罪なのでまだ天宮城を捜索していないのに捕まる理由ができてしまっている。
バレなければ問題ない、とは天宮城の言だが自分がその立場になったらいつバレるか怖くて仕方がない。
「りゅう、どこにいるんだろ」
「そうだな……とりあえず連絡とるか」
時差があるため日本は夜中だが、それを分かっているので向こうもちゃんと誰かはこちらの連絡に反応するようローテーションを組んで電話の前で待機しているはずだ。
とはいえ下手に海外から連絡を取ったら密入国がバレそうなのでいろいろと手は打ってある。
「このために携帯を買うとはな……そこそこの出費だ」
日本ではなく、海外の別名義で作った携帯電話を使用する。
たとえ回線を辿られても協会には行き着かない。能力も使って完璧なカムフラージュをしている。
この方法を考え付いたのは勿論天宮城だ。いざ使ってみるとかなり面倒な手間を必要とするが、これを追おうと思ったときの労力が半端ではないことも理解できた。
相変わらずあの天才の考えることはどこか突飛で合理的である。
「それで、龍一の場所を詳しく」
『今いるところから、北に160キロ、そこから更に北北東に15キロ』
「結構遠いな」
『それが最短』
電話の相手は占師の内山だ。彼女の力は今回の計画で最も重要である。なにせ場所が完全に彼女だよりなのだから。
天宮城のことでなければ手伝わない、と不満げに話す。
なにせ犯罪に荷担してしまっているのだ。正直手伝いたくないというのが本音。だが、天宮城には大きな借りがある。
内山は電話を切ってから小さくため息をつく。
「まぁ、これくらいしかしてあげられないし」
彼女の借りというのは、能力の発現してすぐのことだった。
比較的日本国内でも早い段階で能力に目覚めた彼女は、当たりすぎる占いのせいで各方面から重宝され、同時に恐れられた。
当たりすぎる占いというのは、逆に言えば外すことがないということだ。
もし不吉な予言でもしたら、それが確実に起こる。
それを怖れる民衆は彼女が予言するから不吉なことが起こるのだと責任転嫁をする。
正直、馬鹿馬鹿しい話だと無視できるのなら良かったのだが、占師は客商売だ。
それも、物という形あるものを売り買いするわけではない。
そんな不安定な状態で、人気が一気に急降下すればどうなるかは明白だ。
政治家からは下を見られて依頼料を訴えてもいいレベルまで下げられ、それ以外の客は店に来るのもやめた。
ギリギリの生活に、もうどうしたらいいのかもわからなくなった頃に天宮城がやって来たのだ。
店に入るなり「こんな感じなのかぁ、もっとおどろおどろしい感じかと思ってた」などと言っていたが。
天宮城の働きかけにより、能力の安全性や彼女自身の占いの的中率なんかを数値で割出し適正な価格で商売できるよう環境を整えた。
気付けば、食うに困らない生活をできるようになっていた。
天宮城がなにをしてその環境を整えたのかさっぱりわからない。どんな犠牲を払って小うるさい政治家を黙らせたのかも、世間に占師としての腕を広めたのかも。
天宮城はそんなことをする義理など全くない。
そもそもかなり落ち目の内山に手を差し伸べる意味も理由もなかったはずだ。
そう聞くと「だって助けて欲しいって思ってたんでしょ?」などと抜かしてくる。
だが、それで助けられたのも事実。恩義を感じているのも事実だ。天宮城からすれば助けた大多数の一人なのかもしれないが、助けられた方はきっとずっと忘れない。
だからこれくらいでは借りは返せていないのだ。少なくとも、彼女は納得していない。
「なにここ、寒い」
「我慢だ。それより龍一を探さないと」
内山の言葉では、この辺りだという。
だが、その能力にも制限はあってこの街のどこかにいる、くらいの精度なので結構広い範囲を捜索しなければならない。
「どうする? 手分けする?」
川瀬が藤井にそう訊ねるが、藤井は数秒考え込んだ後小さく首を振った。
「いや、敵がどこにいるかもわからない。個別行動は極力避けるべきだろう」
「そうだね……じゃあ、地道に捜すしかないね」
それから藤井たちは天宮城の捜索に当たった。
慣れない地形、時差ボケなど様々な要因が味方してしまったせいで中々思うように捜せない。
「どこにいるんだよ、龍一……」
藤井何度目かもわからない大きなため息は、灰色のどんよりした空に吸い込まれて消えていった。
その数十分後、思いもよらぬ事で龍一を発見することに成功するのだが、また別の意味で頭を抱える事態に発展してしまう。