64ー8 賭け金を
なんとかして天宮城を助けたいなら、国の許可をとるしかない。
異能力という特殊な力を操る存在を他国はかなり危険視している。旅行も気軽に行くこともできない。
難しいのは国を相手にしなければならないところだ。
個人間のやり取りでない以上、かなり大事になってしまう。その上手続きに時間がかかるせいで急いでいるときには面倒だ。
その面倒さはなにも他国に渡るときだけでなく、様々な場面で直面する問題だ。故にせっかく手に入れた能力を手放す人も少なくはない。
能力を消す技術も能力を抑える技術もある為、難しい話でもないのだが能力者を管理する側からしてみれば勿体無いなと感じてしまう。
能力は元々の素質も必要だが、それ以上に力への渇望があればあるほど目覚めやすい。
水野や小林は波長の強い天宮城と行動した為にそれが引き金となって覚醒したが、普通は環境の変化などで目覚める場合が多い。
朝起きていつの間にかなんか力が使えるようになってた、という例もありはするが偶然で能力が発現することは珍しい部類だ。
殆どが「こうなりたい」と願う気持ちが能力として表れているのだ。
逆に言えば能力の性質をみればある程度相手の悩みがわかってしまう。天宮城は不安から来る不眠症を治したいという悩みがあったから夢使いの力を持っていたし、藤井はただ単純に天宮城含めた幼馴染たちを自分の手で守りたいと願ったから身体強化に目覚めた。
心の底から願っていることを能力が叶えてくれるのだから、捨ててしまっては勿体無いと藤井は思うのだ。
だが、能力者であることが生きる障害になってしまうのは仕方がないかもしれないが悲しいことである。
不眠症を治したいという切実な思いから生れた力が、人の記憶を奪う力だと知ってしまった。守るための力が、壊すことに特化していた。
勿論、使いようによってはどんな能力も役に立つ。
天気を操る力は、火災の時に雨を降らせて火を消すことができる。重力を操る力は、瓦礫の下敷きになった人を負担を極力かけずに助けだすことができる。
だが間違った使い方をしてしまえば、雷を落として人を殺せるし、重力を操作して交通事故とかも簡単に起こせる。
世間はそれが怖くて仕方ない。
自分が持たない強さを他人が持っていることが、怖くて仕方ない。
だから能力者を非能力者から守るために協会を作った。
……それなのに。
「だめだ。うちの話を出すと即座に断られる」
携帯をソファに投げ捨てて肩を落とす。
あらゆる機関に他国に渡る手回しができないか総出で聞いて回っているが、全く取り入ってもらえない。
能力者を守るための協会なのに、能力者を助けにいけない。
こんなもどかしいことがあるだろうか。
「こっちも………」
「民間も難しい感じだね……パイプが繋がってないわけじゃなさそうだけど、不祥事になるのが怖いのか話聞いてくれない」
直接でダメなら、とお偉いさんと仲が良さそうな企業なんかにも接触を図るが、無駄足に終わりそうだ。
「りゅう、どうやってたんだろ」
こういうことは全て天宮城任せだった。
駆け引きや交渉事にめっぽう強い天宮城はなんだかんだ言って相手を丸め込んでしまえたので海外に渡る許可だったりは全部天宮城がなんとかしていた。
天宮城は幼馴染には言っていないだけでかなり危ない橋を渡りながら許可を取って回っていたのだ。
あらゆるところに顔が利く友人を持っているのが一番の強みである。
占師の内山もその一人だ。腕のいい占師はジンクスを結構気にする政治家や大企業の社長なんかに大人気なのである。
「龍一、無事でいてくれればいいんだけど」
静かに全員がため息をついた。
天宮城が一人居ないだけでここまで業務が回らない。そのことをわかっているつもりではいた。
能力者のレベルを測るのは天宮城。能力者を管理しているのも天宮城だ。その上で下手に相手できない警察や政府と上手くやり取りするのも天宮城の役目だ。
一番面倒な仕事を一人でこなしているのだから、その事務作業効率や手際は流石としか言いようがない。
その天宮城に任せきりになってしまって何時か困るのも重々承知のことだったのだが、この協会のシステムそのものが天宮城を基盤としたものだったから仕方ないとも言える。
なにせ今は違うが彼が元々のリーダーだったのだから。
「協会の能力審査も、考え直した方がいいかもな……」
だがその前に天宮城を助け出す必要がある。
その後も何時間も電話をかけ続けたが、成果はなかった。
「……最終手段に、でるしかないか」
「そう、だね」
全員、誰からともなく再びため息をついたのだった。