64ー6 賭け金を
リュウイチが帰ってこない。
今までも一週間ほど帰ってこなかったことはあったが、なんだか今回は嫌な予感がする。
藤井は第六感が無意識に発動しているのか、なぜか落ち着きがない。
「ちょっと秋人。机が揺れる」
「あ、ごめん」
苛立っていたのか、いつの間にか指先で机をつつきまくっていた。怪力なのでつついているだけなのにぐらぐら揺れている。
そんな様子の藤井に片山が呆れたとばかりにため息をつく。
「全く。一番年上が一番狼狽えてどうすんの」
「いや、でも心配だろ……もう一週間過ぎてる。なんか嫌な予感もするし」
仕事が手についていない藤井をみて、片山は再びため息。
「わかった。視るからちょっとまって」
「ほんとか‼ ありがとう梨華‼」
「視てなんにもなかったら、さっさと仕事しなさいよ」
共同リビングに置いてある白いソファに横になる。目を閉じて直ぐに眠ってしまったのか、ソファから寝息が聞こえる。
片山の能力は天宮城と発動条件が殆ど一緒だ。
眠ることで未来をみる。天宮城と違うのは他人を夢の中に招き入れる、等という周りに影響を与える力ではないというところだろうか。
ただ、未来を見通すという破格の力であるが故にその分制約も多い。
例えば自分の目線でしか未来が見えない。
いつどこで何が起こるのかすべてを把握できたら文句ないのだが、残念ながら自分が将来目の当たりにすることになる場面しか見えない。
その上、時間が離れれば離れるほど殆どあてにならなくなっていく。
明日や明後日くらいなら夢で見たものがそのまま起こるのだが、その範囲が一ヶ月とかになると出鱈目な未来しか見えない。
だから片山もあまり使わないのだ。精度が悪いから。
ただ、勝手に発動することもある。その条件は『自分の今後が左右される』ことである。
例えば、誰か友人が亡くなるだとか、自分が事故に遭うだとかそういう重い内容だ。
しかもそういう重要なことに限ってそれを回避するのに時間が足りなかったりする。
そういうときは大抵、幼馴染全員の能力をフル活用してなんとかしているのだが。
片山の能力は危険なものほどよく当たるので、皆特に文句も言わず手伝ってくれる。それを放置したらどうなるかわからないから。
片山が眠って大体二時間後。
「………」
無言で片山が起き上がったので特に問題もなかったのかと胸を撫で下ろす藤井。
だが、片山が言ったのは予想とは真逆の言葉。
「どこにもいない」
「は?」
「私が見える範囲に龍一がいなかった」
片山は自分がいつか見ることになるであろう未来を視る。
その片山が見えなかったということは【リュウイチはこのままでは二度と帰ってこない】ということである。
正確には二度と会えないといった方がただしいかもしれないが、どちらにせよなにもしなければ恐らく一生このままだ。
「……そんなことって、今までであったか」
「多分、ない。どっかの国で勝手に起こる事件とかはなんとも言えないけど、龍一が見えないなんてあり得ない」
なにせ一緒に暮らしているのだ。顔を会わせない日はないはずだ。
「どれくらい先を見た?」
「見れる範囲、全部」
つまり、一ヶ月は確実に帰ってこないということである。
なんとかしなければ。藤井は直ぐに風間に連絡を取る。
携帯に電話をかけてみるが反応がない。仕方がないので留守電をいれる。
「結城。龍一のことで厄介なことになったかもしれない。留守電聞いたらリビングにすぐ来てくれ」
それから三分後。
「りゅうがどうしたって?」
「び、びっくりした……急に出てこないでくれ」
ふっと空中から風間が現れた。
神出鬼没すぎて心臓に悪い。
「ゴメンゴメン。で、どうしたの」
「私の夢に龍一がいなかった」
「………それは、ヤバイね」
ことの重大さに直ぐに気づいたらしい風間は皆を集めてくると言って即座に転移した。
このフットワークの軽さがあるから一番に連絡をしたのである。
移動速度でテレポーターに敵う人はいない。
風間が幼馴染を集めるまでにかかった時間は十分もなかった。
全員風間から少しは説明を受けて飛んできたらしく、もう既に天宮城はどこにいるかを探り始めていた。
「また面倒ごとに巻き込まれやがって、あのトラブル吸引体質が……」
口では愚痴っているものの、この速度で集まれる人たちだ。
なんだかんだいっても弟分が大切なのだろう。
弟分に仕切られている事実は、とりあえずおいておくとして。