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64ー1 賭け金を

 抵抗虚しく連れてこられたのは、窓のない、ベッドだけがあるがらんとした部屋。


 ぽいっとかなり雑に放り込まれて、倒れ伏した頭をあげると既に連れ込まれた扉はしまっていた。


 カシャンカシャンと何重にもロックの掛かった音がする。


「っ……ここから出せ!」


 扉に向かってそう叫ぶが、反対側からの反応は特にない。


 聞こえてすらいないのかもしれない。


 左足を引摺りながら部屋をみて回るが、抜け出せそうな隙間は全くと言っていいほどない。


 出入り口以外の人の通れそうな場所は、トイレにつながる薄い扉のみ。トイレは勿論壁全面コンクリートで隣の部屋以上に頑丈に造られていた。


(どうする……強行手段に出てくるのは完全に予想外だった……)


 これまでにも危うそうな場面はあったとはいえ、一日ホテルの部屋に閉じ込められる程度のものだったので若干油断していた。


 ここまで周到に準備しているところをみると一日二日で済むとは思えない。


 これまでにも一週間拘束されたこともあったので藤井たちが動き出すにしても一週間は空いてしまうだろう。


 多分大丈夫だからと毎回「俺の事はさがすな」と言っていたのが仇になってしまった。


(いや……俺ももう皆に甘えるのは無しだ。この局面、自分で何とかしないと)


 であれば、一週間以内に事を済ませるのが必要だ。


 相手の目的、それを見越した行動、幼馴染達の動き。全てに気を配って、最短且つ最適な方法で脱出しなければならない。


 一旦逃げ出せたとしても、すぐ捕まっては意味がない。


 なにかしら相手が満足する事が用意できなければここから動くことはできない。


 だが、問題なのはその満足する内容だ。


 【組織】はともかく、遠藤の目的はリュウイチの能力である。


 流石にこれは切り離せないし、もし最悪の事態が起きて渡すことになったとしても多分遠藤は満足しない。


 リュウイチとセットで手に入って初めて喜ぶだろう。


 本人からすればたまったものではないが。


 どうすればあの変態の興味を一時的にでも自分から逸らすことができるのか、それがわからない。


 今まではある意味妥協で済んでいたのだ。今のこの状況、恐らく不満が爆発してこうなったのだろう。


 左半身不自由になった今は中々手に入ってくれないリュウイチを玩具にする最高の機会だ。


 逆にこうなることを予測していなかった自分に呆れる。


(とりあえず、秋兄達にこいつの危険度を教えなきゃ……!)


 協会の古参メンバーは会長の藤井はともかく、天候操作や未来視など珍しい能力を持つものも多い。


 リュウイチを玩具にしたと既に勝ち誇っている遠藤の気がそっちに向いてしまうのは時間の問題だ。


 そうならないように自分に興味が引くよう遠藤を調節していたのだが、今はその枷が完全に外れてしまっている。


 あの変態はなにをしでかすかわからない。


 だからといってこっちに縛り付けると今度はリュウイチが外に出る機会を失ってしまう。


 なんとかして興味を引かせつつ、うまい具合に逃げ出す算段をつけなければ。


「結構、ハードだな……」


 大きくため息をついてベッドに腰かけるのだった。







 閉じ込められてから二日が経った。


 相変わらず外の様子はうかがえず、能力は使えず、杖すら返してもらえない。


 逃げ出そうと何度もトライしてみようとは思うのだが、如何せん体が半分動かないというのは実に不便で扉が開いた隙に、とかそういう芸当すら困難なのである。


 それをわかっているからこそ、分かりやすい位置に部屋の出入り口があるのかもしれない。


 完全に遊ばれている。


「さぁ、龍一君。今日は何をしようか」


 憎たらしい全ての元凶はニコニコと笑みを浮かべながらボードゲームを広げている。


 ここ最近ずっとこうしたゲームを持ってきては何時間も遊んで帰っていくのだ。


 一体こいつは何をしたいんだとは思うが、能力のつかえないリュウイチの価値などただそれなりに見目のいい障害者だ。


 左手を隠す物は一切を取り上げられ、逆に黒水晶がみえるような半袖の服を毎回着せられる。


 遠藤は余程これを気に入ったらしい。


 将棋やチェスなどの駒を動かすまでそこそこ猶予のあるゲームをしろと言ってくるときはわざわざ左手で指すようにと命令してくる。


 うまく動かないのでたまに駒を落としたりするのだが、それがどうも面白いらしい。正直意味がわからない。


 元々右利きなので左手はあまり使わないのも関係があるだろう。


「遠藤。あんた、一体なにが目的だ」

「今更そんなわかりきったこと言わないでくれ。僕は君がずっとずっと欲しかったんだ。恋してるといってもいいね」

「……俺は物じゃない」

「わかってるさ。けど、今は僕のものだ」


 チップを何十枚か渡され、遠藤は勝手にカードを配り始める。


 人数が二人ではつまらないからか、近くにいる男を三人と女を一人呼びつけて参加者とした。


 それぞれに五枚配られたのをみるとポーカーでもやるつもりらしい。


 こういう、意味のない遊びを何時間も続けている。


 肉体的には問題ないが、精神的には結構キツイ。


 一緒に居たくもない相手と何時間も賭けるものもないゲームなんて、正直なにひとつ楽しめる要素がない。


 相手は心底楽しそうではあるが。


「それじゃあ、僕から。まずレイズ」


 今までの形式からみてなんとなくわかってきていたが、遠藤はとりあえずレイズする。いい札だろうが悪い札だろうが掛け金をあげていくので、駆け引きも通じない。


 この『とりあえずレイズ』の気性が、彼を世界有数の資産家に育て上げたのかもしれない。

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