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63ー6 一難去って二難

「……そうか。それは残念だ」


 いつものように断るリュウイチにいつものようにそう返す。


 それはそうと、と遠藤は手を叩いて話題を切り替える。


「ドーピングの薬を渡したとき、君の目が欲しいって言ったこと覚えてるよね? 今ここで見せてくれないかな」

「……はぁ」


 ため息をつきながら目の色を元の赤に戻す。


 龍一からリュウイチになったからか、カラーコンタクト無しで色を変えられるようになった。


 鮮やかな赤を宿す目に、遠藤は興味津々といった様子で近付いてくる。


「凄いね、これ。暴走したときになるって言ってたやつだよね? 大丈夫なの?」

「暴走する能力が無くなったから、今のところ問題はない」


 超至近距離で見られると調子が狂う。


 遠藤はリュウイチに、下を見てだとか右を見てだとか指示をして見える範囲眼球を確認してきた。


 契約のひとつなので大人しく従う。


 ドーピング薬を買ったときには死神の契約をしたわけではないが、契約は契約だ。物に見合う対価を提示されたなら、約束を果たさなければならない。


 約束は、守らなければならない。


 母との約束を早々に破ったあの叔父みたいにはなりたくないのだ。


「美しい……どうやったらこんな澄んだ色に染まるんだい?」

「好きで赤いわけじゃない」


 この色は、何故か偶然に出たのだ。


 リュウイチの知り合いに神を合わせても同じ色の人はいない。


 一人だけ赤い目なのを気にしなかったといったら嘘にはなるが、特になにか不便というわけでもない。


 目の色素が薄い人は急激な明暗の変化に弱いと聞くが、むしろ目が常人の数十倍良いので比較する相手がいない。


 弓やバズーカなどの超遠距離武器を得意とする戦闘スタイルだからか、遠距離の動体視力に長けている。


「やっぱり、君は飛び抜けて奇妙で、面白い。……ますます欲しくなる」

「何度も言うが、俺は俺のものだし、誰に譲る気もない」

「だろうね」


 かなり密着した状態のまま遠藤が指をならすと部屋の景色がガラッと変わり、鎖が解けた音がした。


 周りの景色は先程の暖炉の部屋とはかけはなれた、どこかの倉庫のような埃っぽさとコンクリート打ちっぱなしの壁の全く飾り気のない空間だ。


「……なんで能力を解除した?」

「だって僕はあの場では嘘をつけないから」

「は?」


 なにかが危険だ、とゾッとした瞬間に首に腕を回された。


 危険を察知した瞬間に飛び退こうとしたのだが、左半身の動きが鈍く間に合わなかった。


「……なにをする気だ?」

「僕はずっと言っていたよ。君が欲しいって。でも君はなにをしても揺らがない。そろそろ僕も諦めかけていたんだけど」


 暗がりから数名の男が姿を現す。


 そのまま数人がかりでリュウイチを押さえ込み、動けないよう拘束していく。


「なんと君は体の半分がうまく動かない上に能力を一個なくしたっていうじゃないか。このタイミングを逃すわけにはいかなかったんだよ」


 天宮城の能力の中で最も不確定性が強かったのは夢使いだ。


 能力波がなく、能力を相殺する装置では反応せず、暴走したときには山ひとつ軽々と消し飛ばせる。


 しかも本人も能力がなんなのかよくわかっていなかった為、死神の契約で聞き出すことも出来ない。


 最強の切り札とも言える夢使いが使えないリュウイチは今やただのカモだ。


 同調は能力を相殺する装置で打ち消せるし、超回復は怪我を治すだけでそれ以上もそれ以下もない。


 見た目通りの線の細い青年には、鍛えている大人を捩じ伏せる力もなければ技術もない。


 かなり遠くにいるのならやりようがあるかもしれないが、今のところ組み伏されたら終わりである。


「離せ」

「そうもいかないんだ、龍一君。君を欲しがっているのは僕だけじゃないからね。今回の事には、僕以外の団体が関わっているのさ」

「団体? ………まさか、お前」


 リュウイチを欲しがっている団体。


 その言葉で真っ先に浮かんできたのは、遠藤と、


「組織に手を貸したな……」

「利害の一致というやつだよ。彼らは君の力が欲しい。僕は君の体が欲しい。むしろどうして君はそれを危惧しなかったのかい?」


 抜け出せないかともがくが、関節をしっかり押さえられていて骨でも折らないと抜け出せそうにない。


 折ったところで左足が動かないのでまともに逃げられない。


 直ぐにまた捕まるのがオチだし、そもそもこの場所がどこなのか検討もつかない。


 海外の可能性が高いことしかわからない。


 助けを求めようにも、味方はどこにもいない。


「さぁ、龍一君。一緒に来て貰うよ」


 ぐいぐいと引っ張られて前へと歩かされる。


 コンクリートの壁の向こうは静かに雪が降っていた。吹雪いているわけでもないのでうまく逃げても足跡でバレてしまう。


 これも見越してこの地域に飛ばしたのかと思うと少しイラッとした。


 左足を引き摺りながらため息をつく。


 こうなるのなら、遠藤の最低な性格を藤井にも報せておくべきだったと。

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